<新たなる記憶>
歩いても歩いても、なかなか上へと進むことはできなかった。それどころか、かえって更に下へ下へと進んでいたのだ。
光もほとんど差し込まず、あるのは乾燥して冷えた空気と、水の滴るゴツゴツした中途半端に不安定な地面、そして、不思議と前になにかあるように思わせる空間だけだった。
もうどれほど歩いたのだろうか、少なくとも出発地点は既に見えない。先ほどに比べ足元が安定し始めているのは、この周辺が道として使われていたからなのだろうか。もしそうだとしたら、上に登る術もまた、あるのかもしれない。そんな期待を胸に、今もエルナードたちは前へと歩みを進めていた。
「師匠、なかなか上にいけませんね」
「そうだな~」
エルナードはいつもどおり無愛想な声で返事をする。
「師匠は上に行きたくないんですか?」
「行きたいさ。でも焦ったって仕方ないだろ?」
「そうですけど……」
まだリノは何か言いたげだが、気にはしない。どうせなにか他愛もない質問でもするのだろう。
「……師匠は、いつもなにを考えているのかよく分かりません」
一瞬だが時が止まったかのようにさえ思えた。リノは、エルナードの中の誰も触れようとしなかった部分にふれたのだ。
「いつもいつも、同じところにいるようで実はもう少し前にいる。気づけば私は師匠の何歩かうしろにいる。どうしてなんですか? 私と歩くのはそんなに嫌ですか? 私は、私はもっと歩いていたいです。今まで両親のほかにこうして接してくれる人はいませんでした。みんな私たちを嫌っていましたから。でも、師匠に出会ってそれも変りました。ユウカさんやセンスさん、ユマさんたちみたいに、私のことも師匠のことも、なにも気にしないで接してくれる人たちに出会えました。……私、最近笑うのが辛いんです。いつもいつもの普通の時間が、みなさんと話している時間が、本当にあるべきものなのかなって思って……。今までがそうじゃなかっただけって、そう思って割り切ってるんですけど、それでもなぜか、いつかこんな時間もなかったことになるんじゃないかって……。師匠は、師匠はどこにもいなくなったりしませんか?」
リノの心の叫び。いままでの中でずっと感じてきた思い。それを聞いて、エルナードは何か長い言い訳を言うわけでも、何かうまいこと言って誤魔化すでもなく、ただ、リノの頭にそっと手を乗せて、つぶやいた。
「行かないさ。どこにも消えたりはしない。今まで辛かったなんて、知らなかった。安心しろ、俺達はどこにも行かないから」
微笑むリノの頬には、一筋の涙が通っていた。
――一方そのころ、センスサイドでは。
「くそっ! おいセンス! アレどうしても破壊できねえのかよ!」
「言われなくたってやってるだろ? 答えは見れば分かるはずだ!」
迫り来る大岩を前に、センスたちに成す術はなかった。幾度もセンスは力を込めてスキルを放っているが、それでも傷1つつく事はなかった。
どんどん近づいてき、とうとう目と鼻の先まで来た。
「おいおいおい! 逃げ場はないぞ!」
「ぶつかるーっ!?」
すさまじい衝撃が、センスたちの身を襲った。激しい轟音も弾けるように鳴り、どうなっているかなど分かるものはいなかった。
爆発により生じた煙が晴れるときまでは。
チリチリと小さな石の欠片が床を転げていく音が耳に入り、自分の生存が確認される。そして、次に手の感覚。冷えた石に触れ、その温度を感じることで、自分のいる場所を確認する。
「……あれ? やっぱり生きてるな。なんともない。なんでだ?」
センスは思いがけない現状に首をかしげた。
「ヘネス君も大丈夫?」
「……なぜか問題ない」
目と鼻の先まで迫ってきていた大岩は、そこにはもうなく、あるのは粉々に砕けた石クズだった。
「一体何が起きたんだ?」
「わからない。でも確かな事は、僕らがまだ生きてるってことだ。ココはひとまず、急いで地下に向かったほうがいいと思う。さっきの衝撃で扉も外れたみたいだしね」
ふと後ろを振り返ると、地下へ続く階段の扉が綺麗に外れていた。
それともう1つ、ユマがあることに気付いた。それは、身に付けていたネックレスの宝珠が粉々に砕けていたということ。
「おいユマどうした? 置いて行っちまうぞ」
「ううん、ちょっと待って」
先を急ごうとするセンスとへネスをユマが呼び止めた。
「これ、見て」
「ん? アクセサリーの破片? 壊れたのか」
「うん。これ、ヴィリエの宿の親父さんが私とリノちゃんにお守りだってくれたんだけど、本当に守ってくれたのかな?」
ユマの目には薄っすらと涙が浮かんできていた。
「だったら、仕事が終わったら御礼言いに行かなくちゃね」
「……そうだね」
帰路を定めると、センスたちは地下へと落ちて行ったエルナードたちを救出するべく、ボロボロになった通路を後にした。
ヘネスがぜんぜん台詞ないきがする;




