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<青色の記憶>

――あれ? ここ、どこだ? あれ? いまって、いつだっけ……?

 なにも見えない真っ暗な空間だ。なんだろう、それなのに、真っ暗でなにもわからないのに、なんだか懐かしい気がする。

 なんでだろう……?

「……ル! エル! エル! 起きて!」

 誰かが強く呼ぶ声に、エルナードは目を開いた。

「……よかった。屋根から落っこちて目が覚めないから心配してたんだよ?」

「屋根からって……?」

 エルナードが目を覚ますと、目の前には幼いユウカの顔があった。突然の事で少々驚いたが、なぜか体が動かない所為で急に体を上げて衝突するような事はなかった。

 エルナードは、気付けば青色の屋根の下、白いベッドの上に寝かされていたのだ。意識のはっきりしてきていたエルナードは、先ほど自分は開いた床から地下へ落ちていったものだと思っており、混乱した。

「なんで俺は屋根から落ちたんだ?」

「なんでって、エル頭でも打ったの? さっき屋根に引っ掛かっちゃった私の風船を取ってくれるって言って勢いよく登っていったんじゃない。すぐ落ちちゃったけど」

 エルナードは自分の言動に呆れ、頭が痛い。

「結局、アイリスが取ってきてくれたんだけどね」

 この時、自分の失敗の話で頭が痛かったはずのエルナードの瞳には、薄っすらとだが涙の雫が浮かんできていた。それに気付いたユウカはなにが起きたのかと首をかしげる。

「どうしたのエル、やっぱり頭打った? 大丈夫?」

「いや、なんでもないよ……」

 エルナードはいま自分がどのような状況にあるのかを悟った。自分の記憶は正しく、地下に落下していったこと。そして、今の時間が、現実ではない事。

 おそらく、夢でも見ているのだろう。いるはずのない人の名前を聞いて、わかった。

「大丈夫。なんでもないよ。ユウカ……」

 エルナードはユウカを安心させるように口元を緩め、微笑んだ。その要すにユウカもうまく安心してくれたようで、ベッドを離れ、隣の部屋へといってしまった。

 エルナードは幼少期の半分を過ごした懐かしい部屋を見渡し、ため息を吐いた。夢かと思っていても、やはり懐かしさのあまり涙が出てきてしまう。ユウカには大丈夫だと告げていたが、どうもそれは嘘になってしまうようだ。

「どうしても青色の家、懐かしいんだよな……」

 何年か昔、姉と別れ独り町をさまよったエルナードは白い髭を生やしたブロウ=レーベルという男に拾われた。彼のもとにはすでに孤児であったユウカと、それともう1人アイリスという少女がいた。

 エルナードはその3人とともに暮らし、思いを分かち合った。1人で山へ行って剣の練習をして叱られたりすることもちらほらあったが、それでも充実した時間だった。

 しかし、年老いたブロウは4人の中で誰よりも早くこの世を去ったのだった。それは年齢を考えれば当然の事で、誰もなにも言わなかった。

 その後、3人となったエルナードたちが自分達で生きるために作り上げたのが、ギルド《自由の悪魔(フリーダムデビルス)》だ。

 それで確か、あの日……あの嵐の日に……――。

「――しょう! 師匠! 師匠!!」

 泣きながら呼ぶ声に、再びエルナードは目覚めさせられた。

 天井を向いた額にどこからか落ちてきた水があたっていて冷たかった。

「……リノか。どうなったんだ、あのあと」

 エルナードは落ちた後のことを聞く。

「ぐすんっ、師匠が私をかばって、先に落ちて、風で衝撃を抑えたみたいだったけど、ぜんぜん目が覚めなくて……それで、それで……」

 説明を聞いていると、リノがまた再び泣き出しそうになった。

「ああ、泣くな、泣くなって、な?」

「でも、本当に心配したんですよ?」

 若干ではあるが、泣きそうになるリノと、夢で見た過去のユウカとが重ならないこともなかった。

「悪い。心配かけたな。……と、つづけて悪いんだけど、起きるの手伝って?」

 エルナードは体に思うように力が入らず、苦笑しながらつづけた。

「なんかさ、さっきも体動かなかったんだよな。これって偶然かな?」

「なんのことですか?」

「いや、なんでもない」

リノにこれ以上無駄な心配をかけるわけにはいかない。エルナードはなにもいうことはなかった。

「さてと、こっからどうやって抜け出すかな? ずいぶん落ちたみたいだけど、戻れるよなぁ」

 さりげなく冗談っぽいことをいうと、リノがマジでくいついてきた。

「えっ! 戻れないんですか!?」

「いや、きっと戻れるから、だからもう泣かないで!」

 まったくリノには困ったものだ。しっかりしてるときは以外としっかりしているんだけどな。

 エルナードは小さなため息を吐いた。

「さあ、行こうか」

「……はい」

 エルナードは泣き止んだリノの手をとり、歩き始めた。

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