<地下へ向けて>
センス達はただ、閉まってしまった床に唖然として立ち尽くしていた。もはやそこに大穴が開いていたという形跡もなく、足を叩きつけてもビクともしない。完全にお手上げという状況だ。
「クソッ! センス、他の道を探そうぜ。この床ビクともしねぇ、よッ!」
「そうだね。どこか違うところから地下へ行く方法を探そう。《依頼の幽霊》と《答えのヒント》はそのあとだ。さて、まずどう進むかな?」
地下を目指すのに2階へいく必要はなく、まず階段を上るという道は消去法によってなくなる。残る道は正面向かいにある大きめの扉と、階段の下にある2箇所の扉だ。
しかし、今までに見てきた城の内装を考えれば、正面の扉の奥はおそらく客間か食間であろう。よって、進むのは右か左の階段下の扉となる。
全ての道を確認したいところではあるのだが、時間もない上に罠が何処にあるのかも分からない状況のなので、迂闊に動くことができないのだ。
「はぁ、また別れちゃったな。いったいなんですぐいなくなるんだろうね、エルナードは……」
そんなことを言っている場合ではないのだが、またもエルナードと別行動となり実力を視認できないと、センスは少々落ち込んでいた。
それから軽い話し合いの結果、右側の扉から進むこととなった。先頭はセンスで、そのあとにヘネス、ユマとつづいている。
そしてとうとう、扉のドアノブに手をかけ、開いた。
恐る恐る開けた扉の先には特にトラップ等の類は仕掛けられておらず、ずっと奥まで続く少々狭い通路となっていた。
「ねぇ、なんか足元冷えない?」
ユマが言った。
どうやら扉を開けてからか、足元に冷たい空気が漂ってきているようだった。その証拠にセンスたちの足元には薄っすらと白い霧のようなものがあった。それが冷気であろうことは一目瞭然だ。
「そういえば確かにね。っ! もしかしたら、地下からきているのかもしれないよ。この先に道があるかもしれない」
もしそうだとしたら、はやくエルナードたちを助け出せる。そう確信して、センスの感情は少し高ぶった。
「1つ借りがあるからね。ここで返させてもらうよ」
石製レンガ造りの床にそっと足を踏み入れた。
通路はかなりの間使われていないのか、他にあった機能などと違って古ぼけていた。光は壁の隙間から漏れるものほどしかなく少々薄暗いようすで、シュルトにあった秘密の地下通路のように奥があまりはっきりと見えない。松明を置いてあった痕跡も残ってはいるのだが、なにせ古城だ、まともに使えそうではなかった。
「なんか、不気味じゃない? ここに幽霊とか出てきそうなんだけど。リノちゃんじゃないけど私も幽霊とかはちょっとやだよ?」
「大丈夫さ。独りじゃないんだ。それに幽霊に出会えたら依頼も達成できて一石二鳥じゃないか?」
リノほどではないが暗闇に怯えるユマに、センスは少しの慰めと冗談を送った。しかし、その冗談に冗談らしさはまったく込められておらず、うしろでその2人のやり取りを見ていたヘネスはなんともいえないと、呆れた表情をしていた。
さて、そんなぐだぐだな件も終わり、真剣に道の先を見据える。
「ヘネス、エルナードたちは無事だと思うかい?」
「ん? どうしたんだよ、むかつくヤツだけどアイツの剣の腕はお前だって知ってるだろ? そう簡単にゃくたばらねーよ」
ヘネスが珍しく表情を緩めたのを見て、センスは少し気持ちが落ち着いたようだった。
「ヘネスも少し素直になったんだね~。なにかあったのかい?」
「は? 別に何もねえよ」
とここでヘネスはエルエスでエルナードにいわれたことを思い出す。
――死んだらそこで終わりなんだよ。なにもはじまらない、ただの終わりなんだ!――
その所為か少し照れくさくなり、顔を逸らした。
センスもそれに気がついたようだ。
「彼は何か持っているよね。他にはない何か。もちろんそれは《闇の意思》じゃない。僕はどうも、彼の周りで回っている歯車の1つのような気さえしてくるよ」
「変ったこというよな」
「お互い様さ」
ヘネスの眉間にしわが寄った。
その様子に「まぁまぁ」と、ユマが間に入り、騒ぐような事にはならずに済んだ。
気付けば、薄暗かったはずの通路も自然とほかのところからの光が差し込むようになり、視界は良好というようになっていた。
すると、道の行き止まりが見えた。
「センス君、行き止まりだよ? あっ、でもよく見たら階段がある。あ、あと扉もあるよ。何するところなんだろう」
狭い通路の行き止まりにある地下へと続く石の階段と、隣の部屋に続く小さな木の扉。その2つの素材は、過去の文化を感じさせる。
「まずは一刻も早く、階段を下りて地下へ行こう。それが今僕らがすべき事だ」
「わかってるさ」
「うん!」
センスたちは目に映った開かれた道へ向かい、大またで駆け出した。
――その瞬間、すぐ正面に見えた階段の手前で鉄格子が降りた。センスたちのはるか後方からもまた、鉄格子の音が聞こえた。
センスたちはまんまとトラップに引っ掛かったのだ。
背後から迫り来る謎の音。その音は、既に1度聞いた音だった。
「センス、岩だ! お前のスキルで破壊できねえか!」
「やってみる!」
はるか後方に見えてきた大岩に対し、センスはスキル《ヴォル・スピアー》を放った。センスの唯一もつ遠距離攻撃スキルだ。槍を勢いよく振り、内蔵された魔宝石によって蓄えられた火の魔力を一点に凝縮して放出する。
衝突の瞬間、小さく閃光を放ち火球は黒い爆炎を発生させて消え去った。その中から大岩がでて来るかどうか、それは誰にも分からない。
が、しかし、その攻撃では、大岩はビクともしなかったのだった。その結果に、ヘネスを初めとする3人は驚愕した。
「まてよ、あのスキルの威力はゴーレムを一撃で吹き飛ばしたんだぞ?」
そう、ありえない。しかし、現実だ。
ここにいる3人には、この現状の理解は難しかった。




