<水面に揺れる城>
「さあ、あそこが南の古城《アルフレット城》だよ」
夜が訪れるまで残すところあと8日となった昼。ヴィリエの結界の調子が改善されたようで、広大な広さを誇るシュルト湖に映る空が湖中央に浮かぶ城とマッチして、美しい光景を作り上げていた。
「なあ、確か依頼人の仲介がいるっていってたよな〜。どこにいるんだろ?」
聞いた話では、湖の周辺に誰かしらが待っているそうなのだが、なかなか見当たらなかった。
湖を観光しながらおきにそって探しているのだがどうしても見つからない。
とうとう一周しても、やはり見つかることはなかった。
それで、ため息を吐いたその時――湖の一部が思いきり膨らみ、そして騒音をたてて人が飛んできた。
そうそのひとこそ、探していた仲介者だったのだ。
「なんだ主らは? 私はここで人を待つものだ。主らはなんだ? 言わずともよいわかっておる。主らが我らの依頼を受注せしものだの?」
出てきた人物は、エルナードたちの予想のはるかに上をいくものだった。衝撃のあまり、固まってしまうほどだ。
そして次に来る言葉は、「じゃあ聞くな!」というツッコミであった……。
それはさておき、ようやく見つけた仲介者に、聞きたいことは山ほどあった。
「まず、なんで水中にいたの?」
これが一番目。
回答。
「我らは日光を好まんのだ」
「そ、そうなんですか……」
そして次の質問。
「どうやって城にはいるんだ?」
回答。
「忍び込むのだ」
「えぇ……」
さらに次の質問。
「依頼の具体的内容は?」
回答。
「幽霊の退治だ」
「まんまじゃん……」
そして一応最後の質問。
「おじさん、なんでパンツなの?」
回答。
「暑いからだ」
「それはどうなんでしょう……」
どれもこれもどうしようもない回答ばっかりだったのはもう何も言いようがない。
が、とりあえず依頼人との仲介者とあったのでしなくてはいけない工程を済ませる。依頼の記述された用紙にサインをしてもらい、簡単な顔合わせをした。
パンツ1枚の僧のような男の名はハイル。吸血鬼だそうだ。まぁこれは彼の住む村にすでに訪れているので大して驚きはしない。逆にハイルのほうが何故驚かないのかという顔をし、その理由を話すとゾンビでも見つけたような顔をして声を上げた。
「そんなにおどろかなくても……」
「あ、いや、すまん取り乱した」
堅い雰囲気があるが、意外と天然ボケなのかと思った。
「さて、それじゃあ早速城に向かうとしますが、準備は整ってますでしょうか?」
「ああ、準備万端だ」
それぞれ、エルナードは長剣を、リノは細剣を、センスは小槍を、ヘネスは槌矛を、ユマは長弓を構え、腰に備えられたポーチの中身を確認し、そしてお互いの目を見た。
城へは、外側と内側両方から橋を操作し入るようで、沖から城までの長い距離にゆっくりと掛かる大きなそれは、両翼を広げた飛竜のように大胆かつ悠然にさえ思えた。
「それでは、行きましょう」
操作装置小屋から戻ってきたハイルを先頭に、幅の広い橋の上に足を置いた。古城というわりに装置の機能もしっかりと作動しているし、木製である橋もどうやら何処も腐敗している様子はなく、多少疑問を感じざるを得なかった。
橋の全長は約 200 メートルというほどで、城に到着するまでには若干時間をくった。いったい、なぜ古人はこんなところに城を立てたのか、不思議でならない。
「ここから中に進入します」
そこは城の正門で、進入というのはどうかと思われた。先ほど忍び込むと言っていたわりに見張りのひとつもないのも可笑しいし、いったいハイルはなにを考えているのか……見た目には何も出てこないタイプのハイルからは、まったく想像がつかなかった。
が、その答えは門をくぐったそのすぐ先にあった。
門の内側に足を踏み入れた途端、ガシャンッ、という音を残し対侵入者用と思われる鉄格子が巨大な正門を塞いだのだ。
そして、すぐそこにいたはずのハイルもまた、いつのまにか姿を消していた。
「やっぱり罠だったね。でも、ここまではもとより想定済みだよ。問題はこの後どう来るかだ……」
そう、ここまではギルドを出発する前から想定していた事。問題はその先だ。
現在地はアルフレット城1階フロア階段前。そこは2階からもよく見える位置で、両脇に半円を描く階段があり、奥には更に奥へと続く扉が一枚あった。この状況では、何処からなにが来ても可笑しくはない。
「気をつけて。上から来るか前から来るかわからないからね」
「分かってるさ。折角の前へ進むチャンスなんだ。ものにしてみせる」
フロアは中途半端な薄暗さを保ってままピクリとも動こうとしない。がしかし、そこかしこから漂う危ない匂いが、何かはあるということを知らせ、迂闊に動けなかった。
――ガタンッ!
すると何処からか音がした。ガタンッ! 更にもう1つ音がする。その音で、エルナードは階段を登った2階からだと気付いた。
しかし、そのことはどうやらセンスやヘネス、ユマも気付いているようで、更にその音の招待が何であるかを探る。
「――何か転がって来ますよ!」
真っ先に声を上げたのはリノだった。
そして、真っ先に罠に捕えられたのもまた、リノだった。
階段の上から転がってきた大岩をかわすと、今度はそれをフロアに残さないようにか、床が大きく開いた。そこに大岩が落ちていくのと同時に、リノの足に連鎖罠のチェーンが巻きつき、岩とともに地下に向かって落ちていく。
「リノっ!!」
それを追いかけ、エルナードもまた、地下へと向かって飛び降りた。
そして、床が閉じた。




