<赤森の戦いⅡ>
不思議なことがおきますよ?
少々時間は遡り、エルナード対ヒューリエスの戦闘が開始しようとしているころだ。
「頑張ってくれよ、エルナード……!」
「大丈夫ですよ。先輩は強いですから、きっとあの少年は勝てませんよ。そんなことより、僕たちも早く始めませんか? 早くしないと先輩の戦いが終わってしまいます」
センスは窓の外から目を離し、本棚の前に立つ敵――少女を見据えた。
「そうだね。そうしよう。ユーリス、君は怪我をしてるんだから、乱入したりしちゃダメだよ?」
「安心しな。さすがの俺もここまでボロボロじゃ下手な真似はできねぇよ。それよりあいつ、勝てるのか?」
「勝つよ。エルナードなら」
2人で会話するセンスにどうやら敵様はあまりいい気がしないようで、口に空気を含んでいた。
「勝てませんよ。先輩は強いんですから」
「そうとも限らないよ? エルナードはまだ奥の手を隠し持ってるかもよ?」
「奥の手?」
「まぁ、これ以上言ってしまったら君の楽しみを奪ってしまうかもしれないからね、黙っておくよ」
それからしばらく、沈黙の時間が続いた。両者敵を睨みつけ、その場を動こうとしなかった。
そして、ようやく口を開いたのが敵の少年だ。
「僕の名前はミラ=レンドル。あなたの名はなんと言いますか?」
「僕の名前はセンスだ。よろしくミラさん」
「つまらない名前です。忘れる事にしますね」
「いちいち腹立つね、君は」
センスは苦笑いをうかべながら、やれやれといった様子で武器を手に取った。
先日この町シュルトの鍛冶屋で新しく作ってもらった小槍、その名も《リュース=トック》。灰色の刃に橙色の柄が特徴的な一品だ。これはオーダーメイドの武器のため、センスが使いやすいような造りになっている。例えば、センスはよく槍で横薙ぎにするので、刀身をより軽くかつ刃の範囲を広くするなどの工夫がされている。もちろん、火の魔宝石もしっかりと内蔵されている。料金が20,000クメルとずいぶん高いが、その性能は下水道で実証済みだ。
対してミラはどうやら短剣を使うらしく、スカート下両足腿のホルダーにしまってあった短剣を両手に構えた。何処にでもありそうな、簡単な短剣だった。見た目から魔宝石を使うような様子はない。センスはそれを頭に浮かべると、余計に戦いづらくなった。
「あまり女の子と戦いたくはないな。降参は、してくれないよね?」
「ありえません」
ミラはうすく微笑んだ。
「それは、残念だ――」
センスのスタートダッシュから戦闘は開始した。
それをみてミラもその場を駆け出し、槍と2本の短剣がお互いを攻める。しかし、どちらも動かない事から力量は同じかと思いきやそうではなく、ミラは片方の短剣だけで槍を受けると、もう片方で反撃に出た。間一髪かわすことはできたものの、思いもしなかった展開に驚き、センスの動きは若干鈍くなっていた。
そこに付けこむようにしてミラは新たに攻撃を加えた。しかし今度はしっかりと槍で受け止め、2発目の攻撃もしっかりと弾き返した。
「頭の回転は速いようだね」
「どうも!」
キリキリキリッ! と火花を散らせながら、センスの槍とミラの短剣がぶつかり合う。力としてはミラのほうが優勢だが、頭ではどうやらセンスが優勢のようで、今も片方の短剣を防御から外せば確実にミラへと攻撃が通るようにバランスよく槍と短剣をぶつけている。
しかしずっとそうしているわけにもいかない。センスは頭では上をいけると判断するや否や、すぐに後退した。ミラもある程度の間合いを稼ぐため、少しばかり後退した。
「そういえばさ、何で盾使わないの?」
「ハンデだよ? 君みたいな人と全力で戦うわけにはいかないだろ? それに僕はもともと人とは戦わないんだよ」
「馬鹿にしないで――」
ミラはセンスの言葉に青筋を浮かべると、すぐさま斬りかかりにやってきた。先ほどよりキレはあるものの、センスが槍で受けられないほどではなかった。
「僕だって、エルエスでの時間を無駄に過ごしていたわけじゃないんだよ」
センスはより一層槍をもつ手に力を加え、内蔵された魔宝石の力を借りてリュース=トックにうすく炎を纏わせた。そして、勢いよく受けた短剣を天井へ向けて弾き飛ばした。
宙を舞う短剣はまるで質量を持たないかのように飛んでいき、とうとう天井に突き刺さってしまった。
「悪いけど、ギルドの戦士としてエルナードやリノさん、もちろんヘネスにも、後れをとるわけにはいかないからね」
「僕の……負けだね……」
センスは槍を背中の鞘に槍を収めると、ミラに手を差し伸べた。
「何のつもり? 僕は敵だよ?」
ミラはセンスの差し伸べる手に疑問を覚えて、首をかしげた。
「関係ないさ。それに、僕は君が敵には思えない」
「どういうこと?」
「君がそんな危ない人には見えないってことさ。どこにでもいそうな、普通の女の子」
ミラは少し頬を赤らめて呟いた。
「でも、僕は先輩みたいに強くなりたくて、ここまで来たんだ。そんな僕にどうしろというの?」
「好きなようにすればいいよ。それでもし僕らの敵になったら、その時はまた戦おう。僕には今君を捕えることはできないしね。その権限も何もない。あ、でも、1つだけ教えてもらってもいいかな?」
センスは思いついたようにいった。
「なに?」
「君たちのボスの事。それがダメなら、そこにたどり着くヒントなんかでもいい」
ミラは少し考え込むように俯いた。
「……ヒントなら、いいよ。そうだね、次の夜が来る前に、南の山脈にある古城に行くといいよ。そこにヒントがある」
「どうもありがとう。君とはどうやらまた会いそうな気がするね」
その言葉にミラは俯いて答えた。
「……そうだといいね」
と、そこへ空気を読まない一言。
「あのさ、あっちの戦い終わったぜ?」
「「えっ?」」
この時はじめて2人の感情が合わさった。
センスとミラは我先にと結果を確認すべく割られた窓ガラスへと向かった。
そして、戦闘の結果を目撃する――。
ねっ? なんだか不思議な展開になってきたでしょ?
意味不明でしょ?
これも全て今日遊びに来た祖父が「恋愛小説か?」なんていきなり聞くからだぁぁぁ!?




