<赤い夜の殺意>
第1章《剣舞の事件》の導入部分です。
今日とあるファンタジー小説を呼んでたら早く続きが書きたくなって、即効で書きました。
楽しんでいただけたら光栄です。では
21日で構成される一ヶ月が2つという周期で7日の間訪れる夜。物珍しく、普段なら外には人が少なからず出ているものなのだが、この日はそうではなかった。
石造りの街中を静寂が支配し、生暖かい空気に押されて地面を這うようにして流れる冷めたい空気が、真っ暗な町中をより一層怪しいものへとする。オマケに空には紅いヘルテスが大きく輝き、その熱を帯びた光が夜空を赤く、いや、空の果て無き黒さと交わり血のような赤黒い色に染めている。
外にいる動物達は眠りにつく事も叶わず、怯えたうなり声をただ低く上げている。身を縮め、必要以上にあたりを警戒しながら。
そんな、怪しく不気味な街中で、焦るように掛ける足音が1つだけあった。そして、それと同時にゆっくりとなるそれとは違った足音も1つだけあった。
片方は息を荒くしており、もう片方は息をしていないのではとまで感じさせるような、恐ろしく静かな呼吸をしている。まるで死人のような、そんな呼吸だった。
街中が静寂に包まれているお陰で足音は街中に響き、どこにいようとも音から察する事ができてしまう。
焦るように駆けている――何者かから逃げている赤い鉢巻を巻いた大男はそれに呆れ、息をより荒くしつつ心拍数をより一層高めた。
背中に背負っていた主力武器の大槍は重量もあって走行速度も落ちる事から先ほど投げ捨てた。今残っているは予備武器の腰にさした短剣だけで、このまま振り返って戦闘になれば、恐怖の所為でどんな相手だろうと勝てる気がしない。
「くそっ! なんだってんだ! 折角依頼も首尾よく終わらせて、これからギルドへ帰ろうって時に! 俺が何したって言うんだよぅ!」
恐怖でかすれた声は変に音量を上げ、その時頭上にあった天井のお陰で周囲に響いた。
背後から迫り来る何かの追う音は消えることなく、男について回っている。
そもそも何故この大男が正体すらも分からないものに恐怖に怯えながら逃げ続けているかという話だ。そもそもこの男は有力ギルドに所属していて、それなりに実績も上げているのだ。《炎槍》という名で通っており、大抵の依頼はこなせていた。
このエルエスに来たのも、そもそもは魔獣討伐の依頼を受けたからであって、謎の者に命を狙われるようなものは何ひとつ無い。
命を狙うというのも決定的なものではないものの、背後から浴びせられる確かな狂気、殺気がそれを物語っていた。これを感じ取った時点で男はその場を避け、それから逃げ続けているのだ。
男は更に速度を上げて、距離を更に広めるよう試みる。しかし、それも構わず、こちらが速度を上げると、向こうはそれよりもややはやい速度に変った。
そして、少しずつ、少しずつ距離を縮められていく恐怖に、男はとうとう足を止めてしまった。
このまま逃げ続けて殺されるくらいなら、抵抗して死んでやる。と、やけになった結果だ。
腰にさしていた短剣も予備武器とは言ったものの、それなりには強力なものであり、魔力も付与されている。
「これでも……食らいやがれぇ!!」
男は普段の戦い方を忘れ、無鉄砲に突っ込んでいった。
すると、背後から迫っていた者はそれをしゃがみこむようにするりと避けると、攻撃を不発した男のほうへ流れるように近づき、着ていたローブの懐から1本の細剣を取り出して下方から斬りつけた。攻撃自体は浅かったものの、氷の魔力の付与された一撃により、内部から男の肉体は破壊される。
そんな一瞬、男はそのローブの中身を見たのだった。
「お、女……」
それは鬼でもなければ悪魔でもなく、もちろん魔獣でもなく人間だった。そのうえ顔や背丈から察するにまだ20歳にも満たない女の子で、あの狂気と殺気からはとても想像もつかない。
その後、男は傷口から血を流しながらその場に倒れた。攻撃の衝撃により意識はもはやなく、その命もあと数分ともたないだろう。最後に頭に浮かんだものは何というものでもなく、ただの噂とそれに対する後悔だった。
その後、男の死体はおろか、戦闘の痕跡、投げ捨てられた武器ですら誰にも見つかってはいない。その事は、噂という形でエルエスの街ならず近辺の町にも流れるようになったようだ。
「――だからよ、今がエルエスじゃ稼ぎ時なんだよ。な? 一緒に行かねえか? それで稼ぎまくって名を上げるんだ。な? な? いい話だろセンス?」
「でも、やばいから誰も行かないんだろ? 《亡霊退治》って言って集まってる奴らだっているだろうし、僕たちだって不味いんじゃないかな?」
センスと呼ばれた男は気が乗らないと真剣な表情で説得しようとするがそれも構わず、逆に説得されてしまう。
「噂は噂だ。それに相手が子供で女だって言うなら楽勝だろ? 俺たちは強いからな!」
「んー。でも本当にいないのかな?」
しかしやはりセンスは不安なようで眉間にしわを寄せて見せる。
すると、背後から誰か来たことに気づき振り向くと、そこにはマントを羽織った1人の少女が立っていた。
「いるわよ?」
「なんだい譲ちゃん? 俺らになんか用かい?」
センスの向かいに座るヘネスはニコニコしながら言う。
「エルエスの亡霊はいるわ。いや、正確にはもうしばらくはいることになるわ」
ミディアムブルーの髪に金色の瞳をした彼女は続けて言う。
「エルエスの亡霊を倒すのは私。余計な手は出さないでね」
その後、何をするわけでもなく少女は静かにその場を去っていった。残された二人は唖然とした表情でお互いに顔を見合わせて、再び少女が去っていったほうに目をやる。
「なんだったんだ?」
「さ、さぁ?」
それから二日後、黒髪に黒眼のエルナードは水の都ミラレッタを後にした。
感想や評価などいただけますと笑って泣いて噛んで喜びます。
今ちょっと自分的には絶好調なんで; 噛みます。