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<地下に響くⅡ>

 ドレイクと別れてから数分たち、合成獣(キメラ)との距離もある程度とれていた。そこでただ1つ気がかりなのが、やはり別れた仲間の安否だった。

「ここまで来ればきっと大丈夫だ。でも、あいつは無事だろうか?」

「大丈夫だよ。きっとうまく逃げてる。悔しいけど、ドレイクくん強いもん」

センスの心配に声を掛けたのはユマだ。

「そうだね。いまはドレイクを信じよう。僕たちは一刻も早くキメラを倒す策を考えよう」

ユまの言葉があったからか、センスの心は少し落ち着いていた。他のグループメンバーも同じようで、誰一人として騒いだり急かしたりするものはいない。

「それじゃあまずはキメラの弱点について話すよ」

皆の視線がセンスへと向く。

「キメラの弱点は製造時に埋め込まれたコアなんだ。これを壊さない限り、絶対に止まらない。キメラの厄介なところはそこなんだ。ゴーレムは魔府は体内に仕込んであって、ダメージを蓄積させれば倒せるけど、キメラはそうはいかない」

「いくら攻撃してもコアを破壊しないといけないってことね」

「そういうこと。だから、簡単でいいから作戦をたてないと危ない。無闇に突っ込むとコアの位置もわからないままやられてしまうからね」

そういって、センスはその場にいるメンバーを見渡した。

 槌を片手に持つ土属性保持前衛のヘンリー、弓を使いこなす水属性保持後衛のユマ、前衛後衛ともにこなせる火属性保持の自分、そして、回復担当として一応氷属性保持のリノ。

 このメンバーで、あのキメラを倒さなければいけない。できればリノにも前衛を頼みたいとこだが、リノはエルナードと違って剣の代用となるものを持ってないのだ。つまりは、回復魔法以外にできることがない。というよりは、させられることが無いのだ。

「よし、じゃあ、とりあえず1つ案を出すよ。これは少し手間がかかるけど、まず、ヘンリーがキメラの動きを止めるんだ。そこでユマが水矢を使って、キメラが水塗れのびちょびちょになったら、隙をついてリノがそれを凍らせる。そして最後に僕が砕く。でも多分、この作戦は完全に成功しないだろう。最終的にはゴリ押しになる」

「それでも、今はもう時間が無いよね」

「それで行くしかないですね」

 すでにみなの意見はまとまっており、センスはその様子に少し呆れつつも嬉しいように微笑んだ。

「わかった。――行くぞ、作戦開始だ……!」

 作戦通り、ヘンリーから順番に、キメラの待ち受ける道へと駆けていく。

 自らの意思を持たないキメラはその様子にどうにかなる様子もなく、ただ攻撃するためだけに飛び掛ってきた。その俊敏な動きに、ヘンリーは的確に対応し、一撃一撃を最大限まで軽いものとし受け止めていた。槌の長所はそういう細やかな動きにうまく対応してくれるというところで、その特性をヘンリーはうまく利用できていた。

 次にユマが水矢を打つ。余談だが、これは自らの武器に魔宝石で魔力を込めるという、魔力による特殊スキルを使う上での初歩的動作だ。

 さすがにキメラもありはしない本能かなにかで数発の矢は回避したが、ヘンリーに動きを制限させられているせいで、ほとんどの矢を受けていた。ヘンリーも流れ弾を少しばかり浴びたが、これはあくまでただの水なので問題はなかった。

 その後もヘンリーはうまくキメラの動きを押さえており、作戦は順調に進行していた。

 この調子ならいける!

――誰もがそう思ったであろう瞬間だった。

 ピリッ……。

 本当に一瞬、目を一度瞬くまでもいかない時間。事態は起きた。

 ユマの水の魔力は無から有を作れるような代物ではない。その扱いも完璧というわけではない。魔宝石の力で空気中の水分なんかを凝縮して、相手にぶつけたというただそれだけなのだ。

 そんな水は少なくとも何らかの不純物を含んでいて、それを通して、キメラの雷がヘンリーの濡れたからだを襲ったのだ。

 刹那、黒く焼け跡のついたヘンリーは、下水へと落ちていった。

「ヘンリー!!」

それを見てすぐにセンスは救出に向かうべく下水に飛び込もうとした。それにすぐ腕をつかみ止めたのは、ギルド仲間のユマだった。

「センス、今すぐ行きたい気持ちはわかる。あなたのことだからきっと自分を攻めてるんでしょ? でもそれは違うわ! あれは誰の所為でもない。今あなたにできるのはヘンリーのためにもキメラの倒すことのはずよ、違う?……それに、ヘンリーだって、そう簡単には死なないわよ」

「…………。そうだね。例を言うよ、ユマ。今僕がすべきことはただ1つ、キメラの討伐そして仲間の回収、団長の救出。やることはたくさんあるんだ。我を忘れている暇はない!」

そう言うと、すぐさまセンスは指示を出した。

「かなりのリスクを伴うかもしれないけど、作戦はこのままでいくよ。今度は動きを止める役はいないけど、リノが準備できるまで極力僕が押さえる。だからリノとユマは、自分の仕事に専念してくれ」

リノとユマは真面目な顔で軽く頷くと、すぐさまキメラを凍らせるための魔力を溜め始めた。センスはそれを確認すると、小槍エリンスピアを手に構え、キメラに向かって勢いよく攻めいった。

 キメラにも負けず劣らない俊敏な動きで槍を操作し、反撃をさせまいとしていたのだ。しかし、センスが俊敏性で劣らずともその攻撃力では未だ劣っており、時おり許してしまう反撃の衝撃が少しずつ蓄積され、動きのキレも減らされつつあった。

 後方を横目に見ても、今だ準備が完了した様子はない。しかし、それでこちらが音を上げれば焦りや不安で作業を妨げてしまうだろう。それだけはしてはいけない。一刻も早く団長を救出するためにも。

 その後もセンスはキメラとの一方的になりつつある攻防戦を続けていた。

 そして、とうとうリノの準備が完了した。

「センスさん、準備完了しました!」

「きたか!」

その言葉にセンスは一旦後退し、わずかながらに魔宝石を通して槍に魔力を溜め始めた。ユマは代わりにキメラの動きを止めるべく、水矢ではなく矢筒から本物の矢を取り出しそれを撃ち続けた。そして、リノは右手に集中させた魔力を霧散させないよう意識しつつ、キメラへと駆け出した。

 ユマの矢が体を避け、自ら水溜りを避け、キメラへと到達した。足音がなるときには一歩先へ、動きが見えたらその次の動きへ、リノは進んだのだった。

「はあああぁぁぁっ!!」

 バシンッという割れるような乾いた音と共に、キメラの体は凍りつき始めた。リノは一瞬掌に鋭い痛みを覚えたが、今はとくに気にならなかった。

「センスさん! 今です!」

「ああ!」

最前線に即座に駆け込むセンス。手に持った槍を一際強く握り、キメラの凍った体をコアもろとも打ち砕いた。

 作戦は成功したのだ。後は別れた仲間を回収するのみだ。ヘンリーはすぐさま引き上げられ、ドレイクも何とか逃げ込んだといってふらふらしながら少し手前の通路で遭遇した。これで後は進むのみとなったわけだ。が、負傷している2人を連れて行くわけには行かない。そこでセンスの出した命令は簡単だった。

「ドレイク、ヘンリー、ユマと一緒に地上へ戻っていてくれ」

「な、なんでだよ! いくら負傷していようと俺たちは――」

「頼む聞いてくれ! 僕は仲間が傷つくのが見たくてこの作戦をしているわけじゃないんだ。僕らを信じてくれ」

「…………。わかった」

 ドレイクはどうにか了承してくれたらしく、ヘンリーもユマもそれにしたがった。

 2人だけという絶望的な作戦状況になるかもしれないが、おかげでリノが剣を使う事ができる。すこしでもいいことを見つけることは、戦いの上でも心を落ち着かせる上でも十分に効果を発揮していた。

 3人と別れた後、センスとリノは再び歩き始めたのだった。

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