<動き出す歯車>
今回第3作目です。
前回書いて、一度消してしまったのですが、大変申し訳ありませんでした。
あの時のストーリーと変えてはいないので。
これも最後まで書けたらいいなと想います。
どうか温かい目でごらんください。
「――はるか昔の時代、《光の神》と《闇の神》は常に共に存在していた。光は照らし、闇は影となり支えていた。朝と夜は入れ替わるようにして同じ時を繰り返し、白と黒とは境界を隔て決して交わる事はなかった。必ず、その均衡する双方の力の間にはそのどちらにも属さない何かが存在していたのだから。
しかし、その均衡はいつの日か、何物かによって崩されてしまった。光と闇の間に立つものは無くなり、朝と夜、白と黒、照りと影がぶつかり合った。
均衡する力同士の争いは幾千の時は過ぎてもけして絶えることはなかった。しかし、そんなある日、新たな未知なる力によって光はその力を増大させ、闇を強く押しのけるようになった。ごくわずかな差ではあったものの、時間と共に蓄積されていく中で、闇はとうとう滅びてしまったのだ。
それでもいまだ影が世界を覆うのは、今宵もどこかに闇の意思が生き残ってるからかもしれない。もしくは、光に力を与えたという新たなる力のによるものかもしれないのだった――。
さて、結局のところどうなのかしらね? 私には皆目見当つかないわ――」
あの話、あの言葉は今でも心の奥底にずっしりと残っている。姉が口癖のように毎日毎日語ってくれていたあの鬱陶しい話。しかし、今となっては懐かしく愛おしくもあるあの話。
俺はあの平穏だった日々の中で答えを出す事ができなかった。でも、今なら分かる。なぜなら――
「――俺自身、闇の意思を継いでいるからな……」
空を覆うように伸びる木の間から差す蒼い輝き《クラリス》を見上げ、エルナードはその冷たい光を浴びていた。この日は特別涼しいといった具合で、最近の蒸し暑さを忘れさせてくれる。また、反対方向から浴びせられる紅い《ヘルテス》の輝きは、この時期邪魔でしかない。いつもなら消してやりたいとも思うくらいだ。
しかし、何もない空を彩るものはシャキッとした冷輝発光体《クラリス》とユラユラとした熱輝発光体《ヘルテス》。あとはまぁあってもなくても変らない雲くらいのもので、1つでも減ってしまえば色がなくなってしまうから消しはしない。
現在地、ここは水の都と称される街「ミラエッタ」の近くに位置する「ミルの森」の中だ。今は依頼の遂行中でなんとも重苦しい空気が漂っているのだが、それも2つの光が忘れさせてくれていた。
依頼の内容はとてもシンプルで、森の中にたたずむ魔獣の討伐というもの。ターゲットは大型魔獣レインファングという魔獣。外見としては犬のような狼のような感じで、体表は青黒い毛皮で覆われており、口内には鋭い牙がずらりと並び、尻尾の赤い模様が特徴的だ。他にも水の魔力を保持していて、攻撃に使用してくる。レインファングという名前もこのあたりから来ているようで、町まで降りてきた個体は過量の水で畑をダメにしてしまったり、貴重な食糧をどこかへと流してしまったりするらしい。
「っと、見つけた」
エルナードの視線の奥、低くして獲物を探すレインファングがいた。
背中に手を回し愛剣シルバークロスを引き抜くと、落ち葉を避け足音を忍ばせて距離を縮めていった。そして、剣のリーチで届く距離まで近づくと、一気に背後まで回りこみ、一振りする。
しかし、狩りの真っ最中で精神が研ぎ澄まされたレインファングに不意打ちは通用せず、軽々と感知され回避させてしまった。反撃を避けるため、エルナードも一歩後退する。
お互いに力量を確かめるように睨みつけるなか、落ちてきたミルの葉が地に着くと共にレインファングが動き始めた。低くした体をばねのように使い、エルナードののど笛目掛けて一飛び。
それを見て、エルナードは剣を盾のように構え、それを受けると、スキル《カウンターエッジ》を繰り出した。敵の攻撃を上方へ受け流し、すくい上げるようにしてそのまま斬ったのだ。
そしてそのまま倒れこんだレインファングに急接近し、筆記体のLを描くように右上がり左下がりと、往復して斬りつける。初歩的スキル《スラッシュ》だ。
そこからとどめの一薙ぎをくらわせると、レインファングはどうやら力尽きたようで、散ったミルの葉の上に力の抜けた体を倒した。
スキルというのは、攻撃のパターンやその一連の流れ、なにかしらの作業などにつけられた俗称であり、世界中に幾千と存在する。これはスキルを誰でも作れるからであり、戦闘用のものならわずかな速度の違いやバランスで別名をつけるものもあるので、その数は留まるところを知らないのだ。戦闘用スキルは武器による打撃だけではなく、魔法単体や、魔力を付与して行う特殊攻撃などもまた、これに含まれる。
ちなみに先ほどエルナードの使用した《カウンターエッジ》は、反応速度が肝心なため、初心者にはきついものだ。それに比べて、《スラッシュ》は初歩中の初歩で、初心者でも戦士なら誰でも扱えるほどのもので、攻撃動作のつなぎとして使われる事が多い。
それによって力尽きたレインファングは、口を開けて倒れている。それにエルナードは魔道転送網をかけた。そして、光と共に姿を消すレインファングを横目に、エルナードはその場を後にしたのだった。
魔道転送網は、ギルドの戦士やらが魔獣やら何やらを本部まで運ぶのに苦労することから開発されたアイテムだ。基本的にはギルドから支給される。
エルナードは長いミルの森から出ると、早速依頼完了を知らせるために、依頼主のいる水の都ミラエッタへと足を進めた。
街の門の前に着くと、エルナードは黒のコートローブに剣を隠し、フードを被ってその柄を見えぬようにした。
水の都というだけあって、外からでも大きな噴水が見え、聞こえてくる声からとても賑わっている事がわかる。
依頼人はここの街長で、最近街に降りてきて困っていたとのことらしい。かなりベターな依頼だ。報酬もそれなりによく、新しい装備を新調できそうだった。
だがしかし、そんなことはエルナードにはどうでもいいことだ。
「町長、依頼完了した。これがその証拠」
といって、町長にレインファングの折れた牙を見せた。
「おお、さすがはあの有力ギルドの戦士様だ。これがお礼の報酬です」
エルナードは町長から30000クメル受け取ると、その視線を町長に向けた。
「それで、町長、情報の件ですが」
「ああ、それですな。わかってます。最近目立つ噂といえば、「エルエス」に《人斬りの亡霊》がいるんだとか」
「《人斬りの亡霊》……。わかった、ありがとう」
「お役に立てて何よりです」
天井の高い町長の屋敷を抜けると、エルナードの視線は自然とエルエスの位置する北東に向いた。
その足取りは速く、その胸には微かな期待があった。
なにか、手掛かりとなる有力な情報を求めて……。
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