<ギルド占領計画>
今回は話の代わり時ですね。
世界が絶え間ない闇に包まれた――。何を意味するわけでもなく、ただ、無の時が訪れた。しかし、この時ひとつの炎がその灯火を守り抜いた。
闇が訪れて数秒、何事もなかったかのようにすべては終わっていた。
エルナードの視界には亡霊を貫き見事撃破したリノに、敗北して横たわる亡霊が映った。しかしリノも今まで光がなかった所為か少々現状に驚いた様子で立ち尽くすのみだった。
そしてようやく、
「……やった……。やりました! やりましたよ師匠!」
そう、跳ねながらエルナードに報告した。もちろんエルナードもヘネスもそれを見ていたため、ともに喜んだ。
「……負けたよ。完敗だ。まさかこんなことがあるなんてね」
亡霊の口許は少し緩み、空を眺めていた。
「きっと偶然か神様の気まぐれですよ」
「神様、ね。そんなもの、まだいるのかな……」
エルナードもまた口元を緩めて言った。
日付も変り、もうじき町の人間も目を覚まし、いつも通りの当たり前の日常が始まる事だろう。
「これで、リノの魔力は――お前は元に戻るのか?」
「そうだな。私は消えて、リノは魔力を取り戻すだろう」
そう言うと同時に、亡霊の体を淡い光が包みだした。それは少しずつ少しずつ強さを増し、亡霊の体は光になって散るように崩れ始めた。その光は宙を舞い、リノに集まり始めた、
「……じゃあな。もう出てくるんじゃねえぞ」
「ああ。……リノのこと、頼んだぞ……」
……にわかに笑みを浮かべながら、亡霊の体は完全に消えてなくなった。宙へ舞っては集まった光も完全にリノに集まり終わり、静まった。
「これで、全部終わったんですね。やっと、終わったんですよね」
「ああ。終わったな。よくやった」
エルナードはリノの頭に手を置き、微笑んだ。
「師匠、ありがとうございました。あなたのおかげです。これでもう、私の所為で傷つく人はいませんよね?」
リノは心からの礼を言いながら、目元に微かな涙が溜めていた。
「ああ。そうだな」
エルナードもそれに返すわけでもなく自然と笑みをこぼした。そんな、微笑ましいところへ――
「あのさ、この大惨事どうするの?」
ヘネスが一言を挟んだ。
見渡せば周りには剣を突き立てられた跡や斬り跡、柱は欠けていたり砕けたりしている。
「……これ、どうしようかな?」
「どうしましょうね」
エルナードリノ共に困り果て、しばらく絶句した。
その後の論議の末、結論としてはリノに頑張ってもらうか《エルエスの亡霊》の所為にするということになった。後半の会議は完全に罪の擦り付け合いになり、なんとも耳障りな会話になってしまったのはまた別の話。
時刻ももう午前6時。そろそろ町の人間も外へ出る時刻だ。エルナードはこの辺のことは夜に戦うと言う事で全て調べつくしてある。
「そろそろ、宿に戻ろう。ヘネスもそろそろ戻ったほうがいいだろ?」
「そうだな。そろそろ戻らねえとセンスに感づかれる」
「センスさんにはあとで説明しなくちゃいけませんね」
「ああー、そうだったぁ~!」
エルナードは片手で顔を抑えながら自分の言動にあきれ果てていた。
……そこへ、誰も気がつかないのが、歩く背後から迫る怪しげな影。
「し、師匠ー!!」
「っ!!」
リノの叫び声に驚き後ろに振り返るエルナード。そのときリノは赤い鎧を纏った大男の槍を擦れ擦れでかわしていた。
「リノ! 大丈夫か! おいお前、何すんだ!」
「……お、おい、待てエルナード、あいつは、あの男は……」
エルナードの隣で、ヘネスが何かに気づき怯えるような声で声をかけた。
「あ、あの男は、俺たちの所属する戦闘ギルド《赤い森》の、副団長《"炎塵の"レミネ》だ。で、でも、何であいつがこんなところに……。ここに来たのは俺たちだけだったはず」
ヘネスの声は強者に怯える小動物のように震えており、そこからこの男の実力がどれほどのものかを連想させた。だが不思議なことに、エルナードはその名前を気いたことが無かったのだ。
そして、怯えきったヘネスの存在には気づきもせず、ただ的をはずした事にショックを受けているのがヘネスの言う副団長レミネ。所属ギルドである《赤い森》を現しているのか、大きな赤い鎧に身を纏っている。その余裕の表情を見せる緋色の瞳もまた数々の戦いを潜り抜けてきた証だろう。
「俺としたことが、的を外してしまうとはな。まったく持って残念だ」
「な、何するんですか?」
「『何をする?』だと? 簡単な事だ。俺はお前を殺すんだよ」
「なっ!?」
レミネの口から放たれた思いがけない言葉に、エルナードは目を丸くした。
「俺はなぁずっと探してたんだよ『本物』をよぉ。なのにお前が先に倒しちまっただろ? だったら、お前を俺が倒せば、『本物』より勝る事になんだろ?」
そんな勝手なことでリノが殺されてたまるか……! そう心で叫びながら、じっと様子をうかがった。いきなり動くようならば、一瞬で肩をつけられる体勢で。
「な、何のためにそんなこと!」
「何のためねぇ。名声を手に入れるためさ。俺はまだ対して名が通ってるわけでもねぇ。まぁ当たり前だよな。マイペースなくそギルドにいるんだからよ。そこで俺は考えた。どうしたら素晴らしい名声を手に入れられるか、ってな。そこで出た答えだ。まずは俺が大物をしとめ、次は団長を潰す。それで俺がこのギルドを乗っ取るってなぁ!」
げらげらと高笑うレミネ。その少し前では、腰の抜けたリノと、さらに奥にエルナードとヘネスが今レミネの話した計画に目を丸くしていた。
しかし、レミネの計画はそれだけではなかったのだ。
1章も終わりに近づきました。あと数話で第2章ですかね;




