<黒と赤の怪光Ⅱ>
今回で1章半分くらいですかね。
最近何かと忙しいのですがせめて一日空きで投稿頑張りたいです。
口が開きっぱなしであることに気付き、エルナードはすぐに口を閉じた。ほほを冷たい汗が伝い、顎まで行って重力の作用するままに落下する。
「リノの……魔力……?」
その事実にリノ本人ですら唖然とし、力を失った腕から離れるレイピアにすら気づかず立ち尽くした。
遠くで横たわるヘネスですらも顔にはわずかな驚きがうかがえる。
「魔力って、つまり……どういうことだ? どうやって、いやなんでそんな……」
「どうやって。なんで。まぁそうだろうね。いいわ、リノもいることだし、話すとしよう――」
亡霊は俯きながらゆっくりと口を開いた。
「リノは――私は、闇の意思を持つがゆえに共にいることを拒まれ続け家族と共に山奥の小屋で暮らしていた。もともと自給自足の生活だったこともあって他の人間との接触も少なかった。しかし、去年、両親が死んで生活の苦しくなった所為で、リノは人間との接触を余儀なくされた。結果、長い歴史のなかにうずもれた間違った記憶の所為でリノは存在を拒まれた。一年間、迫害を受け続けた。そして、この私――癒しの魔力は、暴走を始めた。意味もなく光の民を殺し、その傷を癒そうとした。しかし、それはまるで意味をなさないことをとうとう知ったんだ」
「ならなぜ、それをやめないんだ!」
「私の暴走はリノにしか止められないの。リノにしか、私をもとの場所に戻すことはできないのよ。だから小僧、あんたにはなにもできはしないの」
なにもできはしない。――だとしても、今のリノに戦って倒せる相手じゃないはずだ。だとすれば、今俺にできる事は一つしかない。
「エルエスの亡霊。勝負だ。かかってこい!」
エルエスの亡霊とよばれた所為か、亡霊から放たれる視線はやや殺気を帯びている。エルナードが落ちたシルバークロスを拾い上げると、亡霊もまた、再び黒いレイピアを構えた。
エルナードは左に剣をもっていき、左手をやや後ろに回す。亡霊は剣を獲物に向け、突きの構えをする。
両者視線が交わるところで足を地面から離す。両者体を前に倒すような角度で駆け、剣をぶつけた。赤々と散る微かな血の色と明るく光る火花の煌めきが目に映えた。
亡霊のスキル≪スピニング・スプラッシュ≫がエルナードの左ほほを削り、エルナードの左斬り上げが亡霊の左肩をかすめる。
一撃を放ち終えると、両者軽やかなバックステップでその場を離脱する。
「強いな。とてもリノの魔力とは思えない」
「ちょっと、それどういうことですか?」
背後から浴びせられる威嚇するような視線を回避しつつ、エルナードは黒いレイピアの先を見つめた。
再び襲いかかる刺突の嵐を紙一重で回避しつつ斬撃を連続して繰り出すも、亡霊もそれを紙一重でかわす。
魔力を使えばおそらく勝機が得られるのだが、それをしてしまっては意味がない。
まだか、まだなのか。こいつはいつになったら闇の魔力を使うんだ!
エルナードは必死にその機会を作るべく、攻撃を続けた。縦斬りから横凪ぎ、斬り上げに刺突。どれだけ経っても亡霊は闇の魔力を使わない。
「小僧、おまえは私に魔力を使わせたいのだろうが、その気はないぞ? お前が使わない限りはな」
その言葉を聞いてエルナードは一度顔をしかめるが、一度大きく上を向き、そしてニヤリと口を緩めた。
この笑みはけしておかしなものではなく、決意を帯びたものだ。
「いいぜ。望みどおり、本気でいく」
エルナードの一言からシルバークロスが黒い風を纏い始めている事に気づき、リノは絶句していた。エルナードによる風属性と闇属性の同時使用をまじかで見ているからだ。もともと迫力があるものだが、それ以上に2属性同時使用はとても常人業とは言えたものではない。
気づけばエルナードは足元にまでもその風を忍ばせており、一歩踏み出せば飲み込まれそうな禍々しさを放っている。
その場を踏み出したエルナードは一瞬で姿を消し、亡霊の背後に回った。そして、勢いよく左から右に向かって大きく振りかぶった。それを直感的に察した亡霊は、体の力を抜いて地に伏せ、それをかわした。獲物を失った刃は天井を支える石柱に命中し、それを粉々に砕いた。
そして、亡霊は完全にかわしたつもりだったのだろうが僅かではあるものの攻撃を受けている事に気づき、目を見張った。
エルナードの風と闇の魔力を纏った剣は当たり判定というものが拡大し、実体に触れたもの意外をも斬りつける。
そしてその傷を癒すべく、亡霊は咄嗟に治癒の魔力を発動させた。斬りつけられた傷は一瞬で消滅し、血痕はまるでガラスが砕けたように散って消え去った。
それを見ると同時に、エルナードの黒い風も嵐が去るように消え、その場には石柱の残骸と少ない血痕が残った。
「頼みがある。3日でいい、3日だけ時間をくれ」
その言葉にリノ本人は首をかしげているが、亡霊はその本質を察したらしく軽くうなずいた。
「いいだろう。3日なら、私もどうにかできそうだ」
「わかった。リノ、ヘネスを連れてきてくれ」
ヘネスを担ぎながらこちらに向かって歩き出すリノを横目に見ながら、エルナードはシルバークロスを鞘に収めた。
亡霊は癒しの魔力で石柱を修復させて、その他残骸も綺麗さっぱり消していた。
「ああ。そうやって証拠隠滅してたのか。いい能力だな」
「リノに悪用させるなよ」
「へいへい」
その後、亡霊はいつの間にか姿を消しており、エルエスには夜が去り朝の光がさしていた。ヘネスをリノから渡してもらい、借りていた宿へと歩き出した。
「リノ、午後から特訓だ」
「そ、それじゃあ、正式に弟子にしてくれるという事ですか!!」
「そ、そうだ」
「了解です! 師匠!」
声を上げて喜びリノに若干押されつつ、宿に帰還した。
感想・評価等頂けましたら
今後の活力・反省等に利用させていただきます。




