第9話 絆
トキを、連れ戻したカイ達は、一旦カイの家に行った。
「トキ、これからどうするんだ?」
カイは、いっぱいのお土産を後輩達に渡しながら、聞いた。
「ん〜?まだ何も考えてない。」
トキは、西条と決別し行くあてがなかった。
「オレの所来るか?ジムでバイトするなら、住み込みで雇ってやるよ」
た〜け〜は、トキに住み込みのバイトを提案した。
こうして、トキの居場所は決まった。
しかし、まだ一つ問題が残っていた。
「若、前にも話したとおり、今決めてください。他のものと縁を切るか、青龍会の跡継ぎを切って普通の高校生として暮らすか…」
周りが急に静まり返った。
た〜け〜達も、カイが決めたとおりにすると決めていた。
カイは少し考え、
「オレは…みんなと離れたくない。跡継ぎはしない。」
後輩達の顔がにやけた。本当はカイにいて欲しかったからだ。
「わかりました。」
小早川は、ため息を吐くと
「だそうです。会長」
奧に隠れていた、カイのおじいちゃんが出てきた。
「薄々感じていたがな。カイ、お前の人生だ。この青龍会はワシの時代で終わりだ。しかし、安心するな。もし、お前が青龍会の伝承者とバレたら、二度と普通の暮らしには戻れない。それと、命も狙われる。だから、何があっても関わっていた事は内緒にすれよ。普通の暮らしがしたかったらな。」
真剣な眼差しでカイに言った。
「分かった。」
カイは、決心した。もう、極道の世界には関わらないと。
次の日、みんなで学校に行くと、朝から先生達は慌てていた。
「あっちに、面白いものがあるぞ。」
男子生徒が話してるのを聞いて、見に行った。
掲示板に貼られているものを見て、みんな驚いた。
それは、昨日、西条らと対立している時の写真が貼られていた。
見出しに、『現役高校生、ヤクザと対立!!』
と書かれていた。
「いつの間に、こんな写真が…」
みんな戸惑いを隠せなかった。
すぐさま、先生が来て、カイ達は呼ばれた。
「これは一体どういう事かね?」
校長が聞くと、
「確かな事だ。しかし、オレ達は仲間を守るためにしたんだよ」
た〜け〜は、必死に言った。
「校長、こいつらは仲間を助けるためにしてはいないですよ。」
隣にいた玖波が話した。
こいつは、カイ達を敵意しているからだ。
「てめぇ、オレ達の何がわかるんだよ」
ワタルが突っかかった。
「全部わかる。喫煙。飲酒。不純異性行為。どれもしてるだろ?そんなカス共に、仲間意識などあるか?どうせ、ヤクザと連んで、いざこざが起きたんだろう。」
玖波は笑いながら言った。
「てめぇ、オレ達が嘘をついているというのかよ。こいつらは、オレを守るためにしたんだ。なら、オレだけを処罰すればいいだろ?」
トキは、玖波にかかった。
「とにかく、今日は帰りなさい。明日ゆっくり話はします。」
校長の言うとおり、帰った。
「何だよ。あいつ…何もわかんねえくせによ。」
みんなの怒りはピークに来ていた。
「ごめんみんな。」
トキは、自分のせいだと思い、謝った。
「バカ。お前のせいじゃねぇよ。」
た〜け〜は優しく微笑んだ。
次の日、臨時の職員会議が開かれた。
後輩達を連れて、カイやリョウ、タカシとリオも同伴した。
しかし、カイ達は中に入れてもらえなかった。
「何でだよ。オレ達にも責任があるんじゃねぇか?」
リョウは、先生達に言ったが聞いてもらえなかった。
「お願いします。オレ達も入れてください。」
カイ達の説得で中に入る事が出来た。
「昨日、先生達と話したとおりに、君たちは、高校生として、恥じるべき行為をした。」
玖波が、た〜け〜達の周りを歩きながら言った。
「それは、だから仲間を守るためだったんだよ。」
ワタルは、何度も口にした言葉にあきれながら言った。
「ほう、じゃあこれは何だ?」
玖波が一枚の写真を見せた。
それは、青龍会の事務所に入るた〜け〜達の写真だった。
「これは…」
た〜け〜達は、カイの事がバレると思い黙った。
「青龍会といや、あの極道大戦争を始めた奴らだよな?なぜ、お前達が出入りしてるんだ?ん?
もしかして、誰か知り合いがいるんじゃないのか?」
玖波はカイを見た。
「んなもの、決まっているだろう。オレ達が知り合いなんだよ。悪いかよ。」
ワタルは、カイをかばい言った。
カイは、黙って見ていた。
「校長。ヤクザと関わっている生徒が学校にいたら、他の生徒が動揺するんじゃないですか?」
校長は、少し黙ると
「たしかに…しかし、これでこの子達の人生を批判したら、あまりにも、厳しすぎる。全員、無期限の停学ということにしませんか?」
校長は、みんなの将来を考え言った。
「ダメです。ここは厳しくしないと、いけません。退学ということにしましょう。」
玖波はまだ、た〜け〜達を陥れようとしていた。
「オレ達の話も聞けよう」
シノブが立ち上がり、言ったが
「お前達に話す権利はない。たかが、不良の集まりのくせに。」
全員、立ち上がった。
「不良だから何だよ?たしかに、オレ達は悪い事ばかりしてるよ。だけど、仲間を大事にしてる事は、マジだ。不良だからってな、そこら辺の奴らと一緒にすんじゃねぇよ。」
た〜け〜は、玖波に怒鳴った。
しかし、玖波は無視をして
「では、退学という事でいいですね?」
先生達に聞くと、
頷いた。
「カイ、このままじゃ退学になっちゃうよ。何とかしてよ。」
リオはカイに言うが、カイは黙ってるだけだった。
「ちゃんと話せよ。不良だからってな、話す権利もねぇのかよ!」
ワタルが、玖波に近づこうとした。
玖波は、下っ端の先生に合図を送ると、全員捕まえられた。
「つまみ出せ。」
玖波の一言で部屋から追い出されようとした。
「待てよ。話を聞けよ。」
尚も、抵抗した。
「そいつらにさわんじゃねぇ!!」
カイは急に立ち上がり、怒鳴った。
みんなの前に駆け寄ると、
「たしかに、お前の言うとおりだ。しかし、オレはオレの後輩達が悪い事をしたとは思わねー。」
カイは玖波を睨みつけ、後輩達を連れて出て行った。
カイの実家に来た。
「ったく、何だよ。あいつ…」
怒りが収まらない様子だった。
カイは黙っていた。何かを考えている様子だ。
「カイ兄。大丈夫だよ。オレ達、絶対にカイ兄の事言わないからさ。」
た〜け〜は、自信満々に言った。
「そうだよ。もし、カイ兄の事がバレたら、普通に暮らせないでしょ?オレ達、カイ兄とは一緒にいたいからさ。」
ワタルは、照れながら言った。
次の日、またみんなで学校に行った。
ちょうど、集会が行われていて、全校生徒集まっていた。
ドアを開けると、玖波は
「懲りずにまた来たのか?」
笑みを浮かべマイクで話した。
「話を聞くまでは来るさ。」
ざわつく会場で、玖波は全校生徒に説明した。
「こいつらは、あるまじき行為をした。よって、全員退学だ」
また、みんなで玖波に近寄り、言った。
「人の話も聞かずに、何が退学だよ。」
「話は聞いた。こいつらは、青龍会と関わっているんだよ。」
さらに、ざわつく会場。それもそのはずだ。まだ記憶の中に極道大戦争の事があるからだ。
冷たい視線が、みんなに向けられた。
カイは黙っていたが、急にみんなを見た。
そして、優しく微笑んだ。
その意味が、後輩達には分からなかった。
「現場は、東にある船着き場。人数は、九人。我々、青龍会が落とし前を入れた時の状況です。」
一瞬、何が起こったのか分からず静かになった。
「我々?」
玖波は、にっこり笑った。
「あの日、こいつらは巻き込まれただけです。我々、青龍会に…」
そう言うと、服を脱いだ。
会場は驚いた。
背中に龍の入れ墨がある。それは、青龍会の証だ。
「カイ兄、何やってんだよ。」
た〜け〜は、カイに近寄った。その後からみんな来た。
「お前、何やってんのか分かってんのか?こんな事したら、ここにいられなくなるんだぞ。」
リョウも、カイに言った。
「こいつらはよ。夢があるんだ。」
意外な答えに黙った。
「た〜け〜には、親父を超える夢。ホクトには、彼女を守る夢。シノブには、強くなる夢。わたるには、仲間を守る夢があるんだよ。
オレ達に関わったからって、その夢をなくす事は出来ない。」
カイは笑いながら言った。
「でも、あれはオレを助けるために…」
トキは必死に言った。
「いや、あれはヤクザの対立に、お前らが巻き込まれただけだった。」
カイは、笑顔で言った。
「お前が、青龍会だったとはな。鬼澤君。校長、このようなものが学校にいたんじゃ、他の生徒が怖がってしまいます。騒ぎが起きてからじゃあ、遅いんじゃないですか?」
「そうだな。」
校長は少し考えながら頷いた。
「オレ達が、巻き込んだだけだ。こいつらは何も悪い事してない。こいつらの、処罰はないよな?」
カイは、校長に聞いた。
「ああ。」
校長の頷きを確認するとカイは黙って出て行った。
「カイ兄。」
シノブが呼び止めると
「来るんじゃねぇ!」
カイは、怒鳴った。
そして、声を震わせ
「これ以上…オレ達に関わるな。関わったら、オレは許さない。」
そう言って去って行った。
その夜。後輩達やリョウ達は集まっていた。
「何でだよ。」
やりきれない悔しさに、みんなイライラしていた。
「カイさ…昨日、私の所に来たよ。」
リオが話した。
「ずっと、みんなと一緒にいたいって言っていた。けど、現実は違う。極道のものと関わったら、将来がダメになるんだって言っていた。
それは違うって言ったけどさ…」
みんな黙った。
リョウは静かに口を開いた。
「あいつさ、いつも誰かのために助けていたけどさ…いつも、どこか悩んでいたよな。」
その言葉に、みんな黙った。
次の日。
カイは何もせずに、家にいた。
「若、本当にいいんですか?」
小早川は心配そうに聞いた。
「当たり前だ。オレが決めた事だからよ。今からは、お前らの面倒も見ないとな」
笑顔のカイだが、少し寂しい目をしていた。
カイのおじいちゃんも、その様子を見ていた。
「カイ〜!!」
突然、家中に響き渡るような声が聞こえた。
玄関に行ってみると、リオがいた。
「どうしたんだよ?」
かなり、急いで来たらしく息を切らしたリオに聞いた。
「大変だよ。た〜け〜達さ、カイが学校辞めるなら自分達も辞めるって…今、学校に行ったの。」
カイは驚いた。
その頃、学校では先生達とた〜け〜達が話していた。
「もう、解決したのよ。これ以上、何も問題は作らないでほしいの。」
若い教師が言った。
た〜け〜達は、先生達を睨みつけた。
「オレ達の話しを聞くまでは動かねぇよ。」
た〜け〜は、中央で立っていた。
「不良はどこでも不良だな。そんなに退学になりたければ、ここで暴れてみるか?」
玖波は、笑みを浮かべ挑発した。
「ここで、暴れてみてもいいけど、オレ達が退学になればカイ兄の退学を取り消せ。」
ワタルは、言った。
二階で見ていた生徒は、小声で何か言っていた。
「ヤクザと連んでいるんでしょ?そんな奴ら辞めちゃえばいいのに…」
その声は、みんなに聞こえていた。
「ガタガタ言ってんじゃねぇ!!文句あるなら降りて来いよ。
カイ兄はな、オレ達のために戦っていたんだ。オレ達の兄ちゃんの悪口言うなら、相手してやるよ」
周りは静かになった。
「てめぇら、何やってんだよ!!」
カイが来た。
「カイ兄。」
突然、カイが来たので、みんな驚いた。
「そんな事しても、オレは変わらないぞ。」
カイは、た〜け〜達を見渡した。
「カイ兄、オレ達はカイ兄に助けられてばっかりだ。まだ、一緒にいたいんだよ。オレ達仲間だろ?」
シノブは少し泣きそうな顔で言った。
「やっぱりな、これがお前らの真実か?またここで、問題でも起こすのか?」
玖波は、カイ達を見た。
「校長、なら全員退学という手はどうですか?」
校長は何も言わずに、カイ達を見ていた。
「こいつらは関係ねぇよ」
カイは、まだ後輩達をかばっていた。
「カイ兄は、関係ねぇよ。」
後輩達もカイをかばっていた。
周りに少しざわつきが始まった。
「ったく…いつも、一人で突っ走んなよ」
後ろを振り向くと、リョウやタカシがいた。
「みんな…」
カイは驚いた。
リョウやタカシ、それに他の高校に行った同級生が集まっているからだ。
「たまにはよ、相談ぐらいすれよな。」
リョウはカイに近づいた。
「何でここに…」
リョウは笑みを浮かべると
「おい、出て来いよ」
そう言って、奥から一人の男が出て来た。
「こいつから、話は聞いた。お前らはめられたんだよ。」
一同驚いた。
「どういう事?」
カイはリョウに聞いた。
「こいつ覚えてないか?トキを連れ戻す時にいた奴らの一人だ。ある男に頼まれてな。カイの正体を突き止める為に、対立させたんだとよ」
「ある男?」
カイは、ますます意味が分からなかった。
「なぁ、玖波先生」
全員玖波を見た。
「何言っているんだ?そんな男知らないぞ?」
玖波は笑った。
「そうか…じゃあ、こいつは何だよ?」
一枚の写真を見せた。
その男と玖波が、喫茶店にいる時の写真だ。
「知らん。お前らも退学にするぞ」
まだ白を切る玖波。しかし、突然、警察が来た。
「玖波良平さんですね?傷害容疑で同行お願いします。」
玖波は愕然とした。
「まだ意味が分からないけど…」
カイはリョウに聞いた。
「実はな、青龍会の人達に頼まれたんだよ。カイをお願いしますだってさ。調べてもらって、警察に言ったんだ。」
「それでよ、調べているうちに分かったけどさ、シノブの事件もた〜け〜のジムの事件も全部、玖波が仕向けた事だったんだよ。カイを追い出そうとしてよ。」
カイは思い出した。全部、誰かに頼まれてしたんだって言っていた。
「待って、じゃあオレ達の事はナシって事じゃん。」
ワタルは校長を見た。
「そうですね。カイ君もみんなの処罰は無効です。」
その言葉を聞いた途端に喜んだ。
「いいなぁ何か…仲間になりたいよね」
カイ達の事はみんな認めた。
「若。」
小早川や青龍会の人達が来た。
「若、私たちは間違っていたみたいです。若を苦しめていたのは私たちです。すいませんでした。
これまでどおり、皆さんも青龍会共々お願いします。」
小早川はカイとみんなが、一緒にいる事を認めた。
全員で、喜んだ。
しかし、いつまでも続く事はなかった。