第8話 仲間のために
「お〜い、早く行こうぜ」
ホクトはみんなに呼びかけた。
小笠原の事件から2ヶ月たち、あれから何も事件らしい事件は起きてなかった。
後輩達は、みんなでゲームセンターに遊びに来ていた。
「ヨッシャ〜!またオレの勝ち」
た〜け〜とシューティングゲームで楽しんでいるトキは、大声で叫んだ。
「くっだらねぇ」
相変わらず、coolなた〜け〜は、一人外に出た。
「もう、終わるのかよ。じゃあオレ、人形でも取ろう」
トキは、近くにあったユーフォーキャッチャーで遊んだ。
その帰り道。
「カイ兄達って、いつ帰って来るのかな?」
シノブは、ふと聞いた。
先月から、カイとリョウとタカシは県外に、就職の面接で行っていたのだ。
「最近、事件とか起きないよな」
平和ボケをしているのか、つまらなさそうだった。
突然、一台の車がトキ達の前に止まった。
「こんな所で寄り道ですか?」
窓を開け、顔を出したのは、カイの下っ端の小早川だった。
「久しぶりですね!どうですか?これから、事務所の方へ行きませんか?少し、話しもあるので」
小早川のすすめで、トキ達は、カイの実家に行った。
「相変わらず、ドキドキするよな」
た〜け〜は、慣れてないのか、まだぎこちなかった。
出されたお茶やお菓子を食べながら、小早川は、みんなに話した。
「みなさんも、見たんですね。若の裏の姿を…」
みんなは、急に手を止め黙った。
「見たなら、仕方がないです。若は、時々頭に血が登ると、別人みたいになるんですよ。あの極道大戦争の時も…
我々も、心配なんです。あのままなら、若は優しい若じゃなくなり、ただ、人を傷つけるだけの殺人マシンになってしまう…」
みんなは、黙ったまま聞いた。
「率直に、お願いします。これ以上、若や青竜会に関わらないでください。」
みんなは、意外な事に驚いた。
「若は、この青龍会にとって大切な跡継ぎです。このまま、普通には暮らしていけないんですよ。どうか、わかってください。」
小早川は頭を下げた。
みんなは、黙ったままカイの実家を後にした。
「どうする?」
た〜け〜は聞いた。
「どうするって、今は考えられねーよ。カイ兄がいなくなるなんてよ」
シノブは、泣きそうな声で言った。
跡継ぎなのは分かる。いつまでも一緒じゃないって言うのも分かる。でも…
それぞれ、黙ったまま、歩いた。
みんなと別れ、トキは家に帰った。
トキの家は、親が貿易の会社を設立しているので、かなりの大金持ちだ。家政婦達が出迎い、トキは黙ったまま奥のリビングに行った。
父親らしき人が、スーツを着ながら出てきた。
「帰ったのか?」
冷たい目でトキを見た。
しかし、トキは黙ったままコップで水を飲んだ。
「3ヶ月ぶりに会うというのに、相変わらず愛嬌がないな。まるで、父親にそっくりだ」
トキは、ダンとコップをテーブルに置くと、
「あんたが、無事に戻って来てがっかりしたよ」
そう言うと、自分の部屋に戻って行った。
部屋を開けると、荷物が全部ない事に気づいた。
タンスもベットも全部なく、ガランとしていた。
急いで、あの男の所に行った。
「何だよ。何で何もないんだよ」
男は、笑みを浮かべると
「来週から、お前は、オレの会社を継ぐためにアメリカに行ってもらう。余計なものは、捨てた。
それと、今連んでる奴らとも縁を切れ。」
トキは、あまりにも突然の事で驚いた。
「そんなの勝手に決めんじゃねぇよ。第一、お前の会社じゃねぇ、父さんの会社だろうが」男は、トキの顔を見ると、笑い
「今はオレの会社だ。」
そう言うと、家を出て行った。
トキは、拳を握りしめ、ただ立っていた。
次の日。
学校に行くと、またトキは驚いた。
あの男が退学届を出していたのだ。
もちろん、みんなにも知れ渡った。
「どういう事だよ。急に辞めるなんてよ…」
た〜け〜はトキに聞いた。
トキは、少し下を向き話した。
「オレの父親だ。義理のだけどな。本当の父親の片腕として、会社を経営していた、あいつは父さんを裏切って会社を乗っ取ったんだ。
その日、オレの両親は事故で亡くなった。あいつが、跡継ぎとしてオレを引き取ったんだ。実は、会社を引き継ぐためにアメリカに行けって。」
た〜け〜達は驚いた。
「お前は、行くのか?」
た〜け〜は恐る恐る聞いた。
「行きたくねぇよ。あいつが、父さん達を殺したんだ。そんな奴とは一緒にいたくない。」
少し安心したみんなは、何とか校長に頼んでみることにし、校長室に行った。
ドアを開き、中に入ると、一人の男がいた。
「貴様、何しに来やがった。勝手な事しやがって」
トキは男の胸ぐらをつかみながら言った。
「言ったはずだ。お前はアメリカに行ってもらうってよ」
状況から見ると、この男は、トキの義父だ。
「オレは行かない。家も出る。」
トキは手を離すと、みんなの前に戻った。
「そんな奴らと連んでるから、カスになるんだ。」
男は、睨みつけた。
「さっきから聞いていれば、好き勝手な事言いやがって。トキが行きたくねぇんなら無理矢理行かせんじゃねぇよ。こいつは、オレらの大切な仲間だ。絶対に行かせない。」
た〜け〜は、強気に出た。
だが、男はニヤリと笑うと
「ほう、我ら西条会に刃向かうのか?たかが、カスのくせによ」
「てめぇらが、誰であろうと関係ない。」
お互いににらみ合った。
男は黙って、ドアの前に行くと
「どうなるか、覚えておけよ」
笑みを浮かべながら去って行った。
その帰り道、トキは少し不安だった。
「あいつ、何するか分からないよ。」
不安そうな顔のトキを見てた〜け〜は言った。
「大丈夫だ。オレらが守ってやるよ」
駅に着くと、いつものたまり場に行った。
しかし、いつもとは違っていた。
カギがかかっていたのだ。
「何だよ。タバコ吸えねーじゃないか。」
ワタルはドアを蹴飛ばした。
「何やっているんだ。」
駅員が出てきて、怒鳴りつけた。
「お前らか?ここでタバコを吸ったり、飲酒をしたりする高校生ってのは、これからは、駅を立ち入り禁止だ。」
駅員は、そう言うとブツブツ何かを言いながら去って行った。
「んだよ。昨日までは見ても無視していたくせに…」
仕方なく、別のたまり場へ行った。
行く途中、いつものように街を通ると、何か違和感があった。
すれ違う人は、ジロジロと見て何か話していた。
「何か、オレら悪い事したか?」
不思議ながらも、歩いて行った。
たまり場に着いてもトキはまだ、落ち込んでいた。
「何だよ。そんなに暗い顔するなって」
シノブは、トキを元気づけようと物真似をしたが反応はなかった。
気まずい雰囲気のまま一時帰る事にした。
トキは、家に帰るとまた西条に会った。
「その様子だと、行く場所がなく戻って来たな。」
トキは、西条を睨みつけた。
「あんたの仕業か?街にもどこにも、オレらの場所を奪った奴は。」
駅のたまり場も街の人の視線も、西条の仕業だった。
「言ったはずだ。お前らはオレには勝てない。今頃、あいつらも後悔してるだろうな」
不適な笑みを浮かべながら去って行った。
トキは、イライラしながらも街をさまよっていた。
た〜け〜のジムの前に行くと声が聞こえた。
「何でだよ。ちょっと待てよう」
見ると、た〜け〜がいた。
「すまんな。」
一人の男が、た〜け〜に謝ると去って行った。
「何でだよ。これでオレしか残ってないじゃんかよ」
た〜け〜は、その場に立ち尽くした。
トキはすぐに分かった。
(あいつが、ジムの人間を取ったんだ。)
トキは、拳を握りしめながら走って行った。
(オレのせいだ。)そう思いながら、走って行った。
次の日。
トキは噂で全て知った。
た〜け〜のジムは、ジム生がいなくなり、駅は立ち入り禁止になり、ホクトと彼女は彼女の親が反対して会うことさえ出来ないでいた。
学校でも、あいつらとは関わるなという掲示板があり、みんなは落ち込んでいた。
しかし、トキには気づかれないように明るくしていた。
トキは、再び西条と会った。
「どうした?オレの言う事を聞くようにしたか?」
西条は、ニヤリと笑った。
「そうすれば、みんな元通りにしてくれるんだな?」
西条は、黙って頷いた。
その夜。久しぶりにみんなと会ったトキは、
「飲もうぜ。久しぶりにさ」
いつもと同じトキだった。
それぞれ、イヤな事は忘れて楽しんだ。
朝方まで騒ぎ、みんなたまり場に泊まった。
一人トキは、起きていた。
みんなの顔を見ると、
「オレ、今までさ…お前らといるのが当たり前だと思ってた。バカで、いつも笑ってるお前らが好きだ。これからも、ずっと仲間だよ。」
涙をためて、今までの事を思い出していた。
そして、ドアの前に行くと
「バイバイ」
そう言うと、出て行った。
昼になって、みんなは起きた。
「昨日は飲んだな。頭いてぇ」
シノブは、二日酔いらしく頭を抱えながら起き上がった。
「トキは?」
ホクトが聞くと、トキがいない事に気付いた。
「まさかあいつ…」
みんな走って、トキの家に行った。
しかし、誰も出ては来なかった。
「アソコだ。」
た〜け〜は、船乗り場に走って行った。
その途中。ワタルが言い出した。
「オレらだけで大丈夫かな?カイ兄に言った方が…」
ワタルの言葉を消すように、た〜け〜は
「ダメだ。オレらでやるしかない。」
た〜け〜は、前に小早川に言われた言葉を思い出していた。
船乗り場に着くと、すぐにトキを見つけ出した。
もうすぐ出航するようだ。
慌てて、みんなでトキを呼び止めた。
「みんな、何で…」
トキは、ガードマンの間からみんなの姿を見つけた。
「何やってんだよ。お前、こいつらの言われた通りに行くのかよ」
必死で、ホクトは叫んだ
トキは、拳をにぎりしめ
「ごめんみんな…オレ、やっぱり一緒にはいられない。」
そう言うと、船の中に入ろうとした。
「お前、バカじゃねぇか?オレ達といたくないのかよ?」
た〜け〜は、ゆっくりと歩きトキに近づいた。
「オレがいたら、みんなが不幸になるんだよ?オレのせいで、た〜け〜もホクトもワタルもみんな…」
トキは、泣きながら言った。た〜け〜達は、ゆっくりと近づいたが、西条の合図で数人の男達が、間に入った。
「連れ戻すなら、力づくでするんだな!」
一瞬戸惑ったが、た〜け〜達は決心した。
「トキ、オレ達はお前が必要なんだ。オレ達をいつも、楽しませてくれてよ。だから、辛いなら言えよ。苦しいなら、助けを求めれよ。オレ達仲間だろ?とにかく、今は連れ戻すからよ。だから…」
みんなは、男達を睨むと声を合わせた。
「すぐに終わらすから」
カイが、いつも言う言葉と同時に対立した。
「バカが、こいつらに勝てるわけないだろ?あの青龍会の次に強い奴らだぞ?」
西条は笑みを浮かべながら見ていた。
た〜け〜達は、ボロボロになりながらも必死で戦った。
トキはみるみるうちに、傷ついていく仲間を見ながら、
「頼む。止めてくれよ。あいつらには、手を出さない約束だろ?」
泣きながら言った。
「お前が、おとなしく行けばな」
西条は、不適に笑った。
その意味がトキには分からなかった。
「オレは、言ったよな?お前が、アメリカに行ったら、手は出さないってよ。ここは日本だぜ?」
意味が分かった。まだ、アメリカに着いてないんだ。
「ひきょうだぞ。今すぐやめろよ。」
トキは殴りかかったが、ガードマンに押さえつけられた。
「おとなしく、オレの言うとおりにしておけばよかったのによ。そんなところは、父親に似てるよな。まぬけな事故を起こした。バカな父親によ」
トキは、その言葉を聞いて確信した。
「お前が父さん達を…」
西条は、トキの顔をつかむと
「バカだよな。オレが用意した車に乗ってよ。ブレーキが使えない車に乗って、人生終わってよ。」
そう言うと、高笑いした。
「てめぇ…」
トキは、ガードマンに押さえつけられながらも、睨みつけた。
一方、戦っているみんなは、体を起こすのが精一杯だった。
「くそ…強すぎるよ。」
ワタルは、傷だらけの体を支えながら起きた。
「やっぱり、カイ兄に言った方が…」
シノブが言いかけると、
「バカやろう。カイ兄にまた迷惑かかるじゃねぇか。これは、オレ達の戦いだぞ!オレ達で解決するんだ。」
た〜け〜は、また男達に向かった。
「そのカイと言うやつが、どれほどのものかは分からないが、こんな仲間を持って可哀想だな。」
また殴られて、倒れた。
その様子を見ていたトキは、
「頼む。止めてくれよ」
泣きながら、西条に言った。
「泣きながらの頼み事か、醜いぞ。」
トキを殴りつけ、髪を引き上げると、
「お前のせいで、奴らは痛い目にあってんだよ」
トキは、悔しさで言葉を失った。
急に、空き缶が西条に向かって投げつけられた。
投げたのは、た〜け〜だ。
「そいつに手を出すんじゃねぇよ。」
体はボロボロでも、必死に西条に言った。
「カスが…今すぐ楽にしてやるよ」
男達に合図をすると、一人の男がた〜け〜に棒を向けた。
「何するんだよ。やめろよ」
トキは、助けようとするが捕まって身動きが取れなかった。
みんなも同じだった。
「刃向かうとは、どういう事になるか知っておけ」
男は、そう言うと勢いよくた〜け〜の右腕を折った。
「ギャアァァ」
た〜け〜の悲鳴と共に静まり返った。
「見たか?これが、お前の仲間だぞ。哀れだな。どんなに頑張っても何も出来ないなんてよ。」
トキは、泣きながらも思った。
(言葉にならない。悔しい…)
しばらく、黙ってゆっくりと西条と共に歩いて船に向かった。
「トキ行くな。」
右腕を抑えながら、た〜け〜は叫んだが、
「ごめん…」
トキは、歩いた。
「畜生。何も出来ないのかよ。たった一人の仲間も助ける事が出来ないのかよ…」
悔しさで涙が出てきた。
(頼む…誰か助けてくれ)
みんなは、もう体を起こす事さえ出来なかった。
「トキ〜!!」
た〜け〜が叫んだ瞬間、風が吹いた。
「困るなぁ。」
誰かの声がして、みんなはすぐな気付いた。
「遅いよ。」
ワタルは泣きじゃくった。
「何やってたんだよ。」
た〜け〜も、涙を流しながら笑った。
誰もが、安心した。
トキは、立ち止まり、振り返ってまた泣いた。
「やっと来た。カイ兄…」
男達が振り向いたその先には、カイがいた。
「誰だ?」
西条は、少し戸惑った。
「うちの可愛い後輩達を泣かしてんじゃねぇよ」
カイは、男達をにらみつけた。
「何やってんだ。早くそいつも、始末してしまえ」
しかし、男達は動かなかった。いや、動けなかったのだ。
「ヤバい。」
男の一人が震えた。
「カスが…」
西条は、トキを突き飛ばすと銃を取り出した。
「人を殺しても、金で解決出来るんだ。」
そう言うと、カイに向けた。
その瞬間、カイは西条の所に走りトキを捕まえた。
「もう、大丈夫だ。話はリオから聞いた。えらかったな。」
カイは優しく微笑むとトキを抱きしめた。
安心感からトキは、泣いた。
しかし、西条の銃はまだカイを捕らえていた。
「正義のヒーローみたいな事してんじゃねぇ」
間一髪の所で銃の玉はカイの横をそれた。
「今待ってろ。後で、ぶっ殺すからよ」
そう言うと、睨みつけた。
西条は、携帯を取り出し、誰かに電話した。
「お前達、これで終わりだ。あの青龍会が来るんだからな。」
そう言って、笑った。
しばらくすると、一台の車が到着し、中から少し年を取った人が降りて来た。
「鬼澤さん。あいつらです」
西条は、その人に駆け込んだ。が、それはカイのおじいちゃんだった。
「うちの孫が、どうしたのかな?」
すぐには気づかなかったが、西条は驚いた。
「バカな…」
「これでも、トキは連れて行くのか?」
カイは西条に聞いたが、西条は逃げるように船に乗って行った。
「ったく…あまり、無茶すんなよ」
カイは、傷だらけの後輩達を見て笑った。
「いいもの見つけたぜ。」
奥にいた怪しげな、男がカイ達を見ていた。
これから、カイと後輩達を巻き込む大事件の予感を残して…