第7話 鬼澤家の血筋
「これで、よし」
カバンに荷物を詰め込み、カイは一息ついた。
「カイ、本当に大丈夫なの?」
隣でリオは聞いた。
「大丈夫だよ。それより、みんなをよろしくな」
リオに笑顔で言うと、お風呂を入りに行った。
一週間前。
その日のニュースに青龍会は緊張が走った。
「臨時のニュースをお伝えします。今日未明何者かによって、南地区刑務所が襲われました。
警官ら数人が重傷をし、脱走した者もいると思われます。脱走した犯人は、小笠原虎鉄…」
朝食を食べていたカイ達は驚いた。
「あいつが…」
小笠原虎鉄というのは、一年前にカイと青龍会らが倒した相手だ。
剣術の達人で力に酔いしれ、なりふりかまわず人を斬っていた。
青龍会の噂を聞いた小笠原は、力試しに対立したが、何とかカイ達が止め刑務所に入れた相手だ。
「マジかよ。またあいつ、悪い事するんじゃね〜のか?」
カイは、心配した。
「出て来たとなると、狙いは若じゃないですか?」
「ああ、絶対また送り返してやる」
カイは、決意をすると学校に行き、ひとまず後輩達やリョウ達にも話した。
「その事件なら知ってるよ。たしか、負傷者をかなり出したんだよね」
シノブは、言った。
「ああ、オレら青龍会がてこずった相手だ。多分でオレを狙って来る。」
カイは、真剣な表情をした。
「じゃあ、カイ兄が狙われてるって事なら、オレらも危ないんじゃないかな?」
た〜け〜は、カイに聞いた。
「その事なら大丈夫だ。オレらが守るからよ。
でも、オレ来週から青龍会の用事でいないんだ。だから、オレらの所に来てくれ。」
カイの提案で、後輩達やリョウ達とリオは青龍会の事務所に来る事になった。
「よ〜し、宴会だ〜」
カイは、宴会場で叫んだ。
「ったく…こんな時に宴会だなんて。立場を考えろよ。」
タカシはあきれた。
しかし、カイは無視をして騒ぎ出した。
状況も考えずに騒ぐカイ達。
宴会は夜中まで続き、さすがに疲れたみんなは眠っていた。
カイは1人起きて、夜空を見ていた。
小笠原の事とか後輩達の事とか自分自身の事とか考えていた。
「カイ兄?」
眠たい目をこすって、ワタルが起きて来た。「起きたの?」
カイは、ワタルを隣に座らせると一緒に空を見た。
「カイ兄、小笠原って強いの?」
何気なく聞いた。
「まぁな。一年前はオレらでも、必死で止めたぐらいだからな。…怖いか?」
「怖くはないけど…でも、カイ兄がいるから安心できる。」
ワタルは、寝ぼけているのか本音を話した。
「そうか…」
カイは少し微笑んだ。
急に背伸びをすると
「本当に平和だな。このまま平和に楽しく暮らしたらな。」
そう言って、黙った。
「うん…カイ兄、またみんなで騒ごうね。」
ワタルはカイに向かって笑った。
「ああ…その前に小笠原を止めなきゃな。絶対にオレが、命をかけてでも守ってやる」
カイは、真剣な表情をした。
その後ろで、他のみんなは聞いていた。そして、また眠りについた。
そして、カイは青龍会の新組長の就任式で出掛けた。
「じゃあ気をつけろよ。」
そう言って、去って行った。
カイが行ってから何も事件らしい事は起こらなかった。
したがって、みんな普通に過ごしていた。
その日、リオは学校の帰り道でワタルと会った。
「何も起きないね。」
「う…うん」
ワタルは、カイが行ってから少し元気がなかった。
「ワタル?どうしたの?」
リオは、心配になり聞いた。
ワタルは少し黙ると、
「何でもないよ」
そう言って笑った。
「そう…」
リオは心配しつつ、何も聞かなかった。
帰り道、普通に話していると後ろから声がした。
「おい…」
振り向くと同時にワタルが殴られた。
「何するの?」
ふと向くと、みた事ある顔ぶれだった。
「あんた達は…」
それは、かつてカイと対立した、ブラックエンジェルだった。
「約束はどうしたんだ」
ブラックエンジェルはワタルに聞いた。
「何度も言ってるだろう…絶対にカイ兄は出さないって」
ワタルは強気で言った。
「なら、しかたないな。」
そう言って、ワタルを連れて行った。
「ワタル…」
リオは、後を追いかけた。
とある空き地に行くと、真ん中に男が立っていた。
「連れて来ました。」
ブラックエンジェルは男にワタルを渡した。
「坊や、鬼澤を早く呼べよ」
男はワタルに言った。
「誰が、呼ぶもんか」
ワタルは意地になり拒否した。
「ワタル」
リオが後から出てきた。
「こりゃあ、可愛いお客さんだな」
男はリオに近づいた。
「あんたは…小笠原」
男は小笠原だった。
「どういう事?」
リオは疑問に思った。
「ごめん。りぃ姉。カイ兄には黙ってよ。こいつら、カイ兄を探しているんだ。」
ワタルは、リオに話した。
「じゃあ、カイに連絡して来て、倒してもらおうよ」
リオは携帯を出したが、ワタルが取り上げた。
「ダメだ。カイ兄には言わない。」
「何で?このままじゃあ、やばい事になるよ」
リオは必死に説得したが聞かなかった。
「今、カイ兄は大変なんだ。家の事とかもあるから…これ以上迷惑かけられないよ。
だから、オレが止めてみせる」
ワタルは、カイには言わないで1人で解決しようとしていた。
「でも…」
リオが言いかけると
「話はすんだか?さっさと、鬼澤を連れてきな。さもないと…」
そう小笠原は言うと、刀を出した。
「イヤだね」
ワタルが言うと同時に小笠原が向かってきた。
わき腹に、刀のさやで殴られた。
「早く、出さないと…もっとひどくなるぞ」
ワタルは、何も言わずに笑った。
「カイ兄は、今までオレらを守って来たんだ。今度はオレが守るんだ。」
そう叫んだ。
小笠原に立ち向かって行ったが…
「ガキが…」
小笠原は容赦なく、斬りつけた。
「ワタル〜!!」
リオの声が響いた。
血まみれになってワタルは倒れた。
「こいつには、もう用はないな。
じゃあ、お前に来てもらおうか…」
ブラックエンジェルの連中がリオを掴んだ。
「離してよ。」
リオ1人が抵抗しただけでは、かなうわけなかった。
「りぃ姉…」
ワタルは、もうろうとする意識の中発したが、すぐにまた気絶してしまった。
車から降りると、カイは走った。
廊下を奥に進むと、みんながいた。
「ワタルは?」
息を切らしながら、聞いた。
その瞬間リョウはカイを殴った。
「てめぇ…何やってんだよ。何が守る…何が守ってやるんだよ。」
突然の事で周りは静かになった。
「ごめん…」
カイは起き上がりながら言った。
「カイ…お前だけを責めるつもりはないけど…
守るって決めたんなら守ってやれよ。こいつは1人で戦っていたんだぞ。お前を守るために…
リオも誘拐された。お前…青龍会とオレら何が大切なのかよ」
タカシは、リョウを止めつつ言った。
2人は、カイと同じぐらいに後輩達を大事に思ってる。
だから、やり場のない悔しさをカイに当てた。
カイは黙った。
病室のベットで眠るワタルを見て、ゆっくりと離れて行った。
「カイ兄…」
初めて見る、カイ達のケンカに後輩達は何も言えなかった。
その夜。
カイは1人、ワタルの病室に来た。
「カイ兄?」
ベットの上でワタルは目を開けた。
「ごめんな。ワタル。」
カイはワタルの頭をなでると、ワタルはゆっくり首を振った。
「カイ兄のせいじゃないよ。オレが勝手にしたから、こんな事になって…
りぃ姉も連れて行かれて…」
ワタルは泣きそうな声で言った。
「大丈夫だ。リオは助け出す。」
カイは、そう言って笑った。
そしてゆっくりと、歩いて行った。
「カイ兄」
ワタルがふと呼んだ。
振り向くと
「カイ兄…無理しないでよ」
ワタルは心配そうに言った。
優しく微笑み、ゆっくりドアをしめた。
一方、ブラックエンジェルと小笠原に連れて行かれたリオは
「早く離しなさいよ〜!!」
両手や両足を縛られて動けなかった。
「鬼澤が来たら離してやるよ。」
小笠原は笑みを浮かべ、刀をリオに近づけた。
「おとなしくしておかなきゃ、二度と鏡が見れなくするぞ」
リオは恐怖を感じた。
その時、奥から音が聞こえた。
「やっと来たか」
小笠原は立ち上がって行った。
「カイ…」
リオはカイの姿を見ると安心したが、何か違和感を感じた。
「久しぶりだな鬼澤…」
カイはブラックエンジェルに囲まれ、それでも黙っていた。
「どうした?天下の青龍会の跡継ぎは、恐怖で何も言えないのか?」
そう小笠原が言うと、全員笑った。
一瞬にして、カイは近くにいた男を殴りつけ、気絶させた。
「つべこべ言わずに、さっさと来いよ。楽しもうぜ。」
何かが変だった。
「やっとやる気になったか。」
小笠原はカイを見ると、刀を出した。
「おもしろい。今こそ決着つけようぜ。鬼澤…」
対立が始まった。
病室では、ワタルは何かを考えていた。
「よっどうしたんだ」
みんなは、ワタルの部屋に来た。
「ねぇ、カイ兄は?」
ワタルは聞いた。
「さあ?またどっかに行ったんじゃないのか?」
リョウは言った。
「カイ兄…やばいよ。絶対にあいつの所に行ったんだ。
あいつ…カイ兄を殺すって」
ワタルは、そう言うと、ベットから起きた。
「おいおい、どこに行くんだよ?カイなら平気だって」
リョウはワタルを止めた。
リョウの言葉を無視をしてワタルは話した。
「違うんだ。何か変だったカイ兄…
何かカイ兄がいなくなる気がするんだ」
ワタルは涙をためながら言った。
リョウ達はカイの元へ行った。
(頼む…この胸騒ぎが勘違いであってくれ)
リョウは走った。
カイがいるであろうと思った場所へついた。
ブラックエンジェルだと思われる奴らがボロボロになって倒れていた。
タカシはリオを発見し、声をかけた。
「リオ〜大丈夫か?」
リオはタカシらを見つけると、急に叫んだ。
「見ないで。早く逃げて」
リオの呼びかけの意味がわからなかった。
「誰かいるぞ。」
リョウは何かを見て警戒した。
ゆっくりと近づいてくる。
突然、何かを投げつけ、それはリョウ達の前に落ちた。
見ると、小笠原だった。
「た…たす…けて」
体中が傷だらけの小笠原は、そう言うと、気絶した。
「まさか…カイ?」
リョウの予感は的中した。
奥をよく見ると、カイがいた。
「カイ兄。」
シノブが近寄ろうとすると、リョウは違和感を感じた。
「行くな」
リョウの声でシノブは立ち止まった。
カイがゆっくり、リョウ達を見ると、全員寒気がした。
カイだけど、まるで別人かのようだった。
恐怖を感じ、ただ立っているだけど精一杯だった。
カイはリョウ達を睨みつけながら、しばらくすると倒れた。
糸が切れたかのように全員、カイの前に行った。
ひとまず、カイを連れて青龍会の本部に帰った。
寝ているカイを見て、みんな何も言えずにいた。
ゆっくりとカイが目を覚ました。
「みんな…オレ何で…」
カイは何も覚えてない様子だった。
「カイ…何だよ。あれは…」
タカシは聞いた。
カイは少し下を向き、話した。
「オレでもわからないんだ。たまに、オレじゃないオレがいて、気づかないうちに…」
そう言うと、布団を握りしめた。
「きっと…オレの中の鬼澤家の血が出てきてると思う。」
カイが言うと、もう誰も何も聞かなかった。
一週間が過ぎ、ワタルも退院した。
「よっしゃ〜、退院祝いやるか」
そこには、いつものカイがいた。
あの日以来誰も気にとめてなかった。
カイの中の鬼澤家の血が、これからカイ達を苦しめるとも知らずに…