第11話 愛してるもの
「気をつけろよ」
リオとワタルは、買い物に行こうと支度をしていた。
カイは、岡部達がどっかにいるかもしれないからって、ついて行こうとしたが、
「あれから二週間たっても、姿を見せないんだよ?平気だよ」
ワタルの言葉に、カイは安心した。
後輩達も、小早川らのおかげで、多少は強くなった。
岡部達も、最近では活動してないらしく、あまり事件は起こらなかった。
「じゃあ、何かあれば電話して来いよ。」
カイは、リオとワタルに手を振り見送った。
しかし、夜になり辺りは暗くなっても二人は帰って来なかった。
「ワタル達はまだか?」
リョウは、カイに聞いた。
「ああ…」
だんだんと、時間だけが過ぎていった。
ひとまず、後輩達は修行で疲れているために、家に残りカイとリョウとタカシは、近所を探しに行った。
カイは、探してる内に胸騒ぎがして、手が震えた。
「どこにいるんだよ…」
カイは街の中を探した。
突然ケータイが鳴り響き、着信を見るとリオのケータイからだった。
「もしもし?お前ら、どこまで…」
カイは言いかけたが、すぐにリオじゃないって気付いた。
「お前…」
電話の声は岡部だった。
「よぉ。久しぶりだな。」
「リオ達をどうした?」
カイは街の中で叫んだ。
「そんなに、大切な奴らか?少し、遊ばせてもらったよ。」
電話から、岡部の笑い声が響いた。
「どこに行った?」
カイは、手が震えるのを感じた。
「オレは言ったはずだぞ?
お前にも同じ苦しみを味わせてやるってな。
そんなに大事なら、ヒントは羽だ。」
岡部は、高らかに笑い電話を切った。
「くそ…」
カイは、すぐさま、リョウやタカシ、また後輩達や青龍会に連絡して探し出した。
二時間が過ぎ、全然見つからなかった。
ひとまず、公園に集まった。
「いたか?」
カイは、息を切らしながら聞いた。
しかし、誰も何一つ情報はなかった。
「くそ…オレのせいだ。あの時、安心しなければ…オレがついて行ってれば…」
カイは、悔しくて木を殴った。
突然、風が吹いた。
「これ…」
どっからか、黒い羽が舞ってきた。
カイは岡部の言葉を思い出した。
「ヒントは羽…」
カイは、まさかと思い、公園を見渡した。
「カイ兄、あれ…」
シノブが指差した先を見ると、一つの部屋みたいな場所があり、その上には箱があり、その中から羽が出てきていた。
ゆっくり近づくと、風で部屋のドアが開いた。
一瞬時が止まった。
誰もが、目に写ったものに驚いた。
中から倒れるように出てきたのは、血まみれになったワタルだった。
カイは、ゆっくりと近づくと、ワタルを抱きしめ
「ウソだろ?ワタル〜!!」
泣きながら名前を呼んでも、ワタルは反応しなかった。
「おい…行くぞ。」
リョウは、少し涙をため拳を握りしめた。
リョウの言葉に、みんなは後に続いた。
しかし、カイは動かなかった。
「カイ!!」
タカシはカイを見た。
「お前…何してんだよ。もう待ってらんねぇ。こっちから、見つけ出して、ぶっ殺すぞ。」
タカシは叫んだが、カイは、黙ったままだった。
小早川は、ワタルの首筋に指を当てると、
「まだ微かですが、脈はあります。」
急いで、ワタルを連れて病院に行った。
すぐさま手術が始まり、カイ達は廊下にいた。
カイは、椅子に座りながら下を向いていた。
「お前…何してんだよ。何で、死にそうな顔してんだよカイ…」
リョウは、カイを無理矢理立たせた。
しかし、まだ反応はなかった。
「さっさと、ワタルの仇打ちに行くぞ。」
みんなは、歩き出したが、カイは動かなかった。
「もういいよ…」
みんなは、耳を疑った。
「何だよ。もういいって…」
リョウは、カイに近づいた。
「もう無理だよ。さすがのオレも、お手上げ。もう、疲れたよ…」
カイは、そう言って、また座った。
「何言ってるんだよ。食い止めなければいけないじゃんかよ。
まだ、リオも見つかってないんだぞ?
ここで、じっとしてるつもりかよ。カイ…」
タカシは、カイを見たがそれ以上は言えなかった。
死んだような目をしているからだ。
「もう、無理だ」
カイは、そう言って病院からでて行った。
「カイ兄…」
た〜け〜は、静かに出て行くカイを見ていた。
リョウが持っていたカイのケータイが、突然鳴った。
岡部達だ。
「明日の正午ちょうどに、港の廃工場に来い。」
「リオは…どこに行った。」
リョウは、聞いた。
「女は、ここにいる。最終決戦と行こうぜ。」
岡部は、そう言って電話を切った。
「明日、正午ちょうどに廃工場に来いって…
最終決戦だそうだ。」
リョウは、みんなに説明した。
「リィ姉は?」
シノブは聞いた。
「そこにいるみたいだ。」
「じゃあ、生きてるんだね。早く、カイ兄に知らせなきゃ…」
シノブは、カイに知らせようとしたが、リョウに止められた。
「カイは、今は無理だ…」
リョウは、それ以上何も言わずに去って行った。
そして、次の日。
言われたとおりに廃工場に来た。
「行くぞ。」
でかい扉を開き、中に入った。
奥に、5人はいた。
「やはり、鬼澤は来ないか…」
岡部は、うっすら笑って見た。
「みんな…」
岡部の横には、縄で縛られているリオがいた。
「てめぇらの好きにはさせねぇ。」
リョウ達は、構えた。
「いいだろう。てめぇら、好きに暴れていいぞ。何なら殺してもいい。」
そして、決戦は始まった。
その頃、カイは家の部屋の中にいた。
相変わらず、死んだような目をしていた。
「若…」
小早川は、部屋に入りカイを見た。
「たった今、入った情報によると、港の廃工場で岡部達と、皆さんが対立始めたようです。」
小早川の言葉にも、カイは反応しなかった。
リョウ達は、激しい攻防戦をしていた。
「少しは、やるじゃねぇか…しかし、やはりガキだな。」
みるみるうちに、全員傷だらけになっていった。
「強い…」
ホクトは、傷だらけの体を支えた。
「バカな奴らだな。あんな奴に、騙されて痛い目にあってよ。」
リョウは、腹を蹴られ飛ばされた。
みんな、ボロボロになりながらも立ち上がった。
「たしかにバカだよな。あいつはよ…
何でも、一人で抱えこんでよ。あいつは、いつも一人で、でかいものを背負って生きてんだ。
だけど、一度も逃げ出した事はない。」
タカシは、岡部を睨みつけながら言った。
「じゃあ、今はどんなだよ。たった一人も守れず、仲間を苦しめ…そんな奴が、どこにいるんだよ。」
男は、タカシを殴った。
「あいつは、何も悪い事はしてない。オレ達は、今まで守られて来たんだ。
だから、今度はオレ達が守るんだ。
オレ達は、絶対に負けない。」
リョウは、岡部に突っ込んだ。
「甘いんだよ」
しかし、逆に殴られまた飛ばされた。
みんな次々に、やられていった。
カイの家。
「入るぞ」
カイのおじいちゃんが部屋に入ってきた。
「そんなに辛かったか?ワタルが、やられたのが…」
カイに話しかけたが、何も答えなかった。
「少し、昔話をしよう。
昔な、一人の男がいた。その男は、ケンカが強くてな、いろんな強敵と戦っては勝って、強さを増し、この日本で最強と呼ばれていた。
誰も勝てるものはいなくて、男は強さに酔いしれていた。
敵はいなくて、男は強さで、支配して、結婚相手も無理矢理見つけた。
そんなある日、男の妻がが自殺した。
理由は、愛が感じられなかったから…
男は初めて泣いた。いくら強くても、いくら最強と呼ばれても、目の前にいた一人を守れなかったからだ。
初めは、愛なんか感じなかったが、いつの間にか愛していたんだな。
男に残された物は、妻との間に産まれた我が子だけだったんだ。」
おじいちゃんは、カイに、話した。
「…その後は?」
カイは、下を向きながら聞いた。
「我が子に愛を託したんだとよ。」
おじいちゃんは、カイの頭を撫でながら言った。
「お前は、まだ出来る。大切な孫が、そんな顔していたら、辛いじゃないかよ。」
おじいちゃんは、にっこり笑った。
「さあ、行け。大切なら死ぬ気で守れ。お前ならまだ間に合う。それと、ワタル君は、さっき、意識を取り戻したみたいだ。」
そう言って、立ち上がり
「てめぇら、青龍会の名にかけて、負けるんじゃねぇぞ。」
カイが振り向くと、青龍会のみんなが、カイを待っていた。
その頃、廃工場では、すでに限界を超えていた。
「くそ…」
立ち上がる事も出来ないでいた。
「さっさと、くたばってしまえ。」
男は、シノブの顔を蹴った。
苦痛の叫びが響いた。
「しぶとい奴らだぜ。」
岡部は、刀を持ち、
「ひと思いに殺すか。」
ゆっくりと近づいた。
「そんなもの通用しないよ。」
リオは、岡部に言った。
「てめぇ、オレがマジにやらねぇと思ってるのか?試してみるか?」
岡部は、刀の先をリオに向けた。
「やめろ。お前の相手はオレ達だろう。」
ホクトは、岡部に突っ込んだが、男に止められた。
みんな、動かないように男に捕まった。
「てめぇ、怖くないのか?まだ、鬼澤が助けに来るとでも思ってるのか?
それは、無駄だぜ。目の前で大切な奴が、傷ついたからな。ショックで、あいつは二度と立ち上がれねぇよ。」
高笑いした。
「確かに、あんたの言う事は本当かもしれない。私を殺すのもためらわず、やる。でも、それでも信じる。」
リオは岡部を睨んだ。
「ふん…じゃあ、かけてみるか?」
岡部は、リオの前で刀を振り上げた。
「やめろ!」
リョウは叫んだが、男に取り押さえられて、動けなかった。
(くそ…早く来てよ。カイ兄)
(カイ…)
みんな、心の中で叫んだ。
「恨むなら、弱い奴を恨めよ。」
刀を振り下ろす瞬間、リオは叫んだ。
「カイ〜!!」
周りが静かになった。
「バカな…」
リオがゆっくりと目を開けると、岡部の刀は遠くにはじかれていた。
肩に、暖かい感触がする。
リオは、ゆっくり向くと
「よぉ、呼んだか?」
笑顔のカイがリオを抱きしめていた。
「カイ〜!!」
リオは、泣きながらカイにしがみついた。
ゆっくりとリオを、離し
「向こうにいろ。すぐに終わるからな。」
そう言って、男に向かった。
「バカな…二度と立ち上がれねぇはずだ。」
男達は、カイに突っ込んだ。
「知ってるか?」
男達の攻撃を避けながら、カイは話した。
「人ってのはよ、大切なものを守るためなら、何度でも立ち上がれるんだ。」
男達を殴り飛ばし、みんなの前に立った。
「オレは、大切な仲間を守るためなら、地獄の底からでも立ち上がってみせる。」
岡部達を睨みながら叫んだ。
「カイ兄…」
「ったく、遅いんだよ。」
みんなは、カイを見た。
「てめぇら、離れてろ。こいつらは、オレがヤル。」
リョウ達は、青龍会に捕まりながら離れた。
「まぁ、いい。ここで殺してやる。」
岡部達は、カイを囲んだ。
「カイ兄。何かおかしくない?」
シノブは、ふと言った。
みんなは、カイを見た。
「さっさとしようぜ。殺し合いんな。」
カイは突っ込んだ。
次々に男達は、カイに殴られ蹴られボロボロになった。
「こいつ…別人みたいだ。」
男は、肩をやられ抑えながら言った。
「こいつが、お前の本当の力か?」
岡部は笑みを浮かべながら、言った。
カイは、鬼澤家の血が騒ぎ出し、凶暴なカイになっていた。
「カイ…」
リオは、心配しながらみていた。
カイは、ニヤリと笑うと次々に男達をまた殴り続けた。
しばらくたち、岡部もボロボロになっていた。
他の4人はすでに、倒れて気絶していた。
「バカな…オレ達は、死ぬ気で強くてなったんだぞ。たかが、一人の男に負けるわけがない。」
岡部は突っ込んだが、カイに頭を掴まれ、倒された。
上に乗り、カイは岡部を殴った続けた。
「何か…ヤバくない?あのままじゃあ、カイ兄殺しちゃうよ。」
シノブは、青龍会に助けを求めたが、
「無理だ。あの状態の若は止められない。」
誰もが、カイを見た。
その時!
「そこまでだ!」
カイのおじいちゃんが現れ、カイに叫んだ。
「邪魔すんじゃねぇよ。」
カイは、睨んだ。
「カイ」
「カイ兄。」
みんなは、カイに駆け寄った。
「もう、止めようよ。」
「このままじゃ、カイ兄がカイ兄じゃなくなるよ。」
シノブと、た〜け〜は必死に止めた。
「カイ、戻ってきてよ。優しいカイに戻ってよ」
リオは、泣きながらカイを止めた。
「てめぇら…」
カイの動きは止まり、ゆっくりとカイは、みんなを見て笑った。
「すまん。もう大丈夫だよ」
いつものカイの口調になり、みんなは喜んだ。
しばらくして、警察が来て岡部達は捕まった。
「ご協力ありがとうございました。」
警察が敬礼した。
カイは、ボロボロになった体を見て、
「あ〜あ、また服がボロボロだよ」
そう言った。
そんな様子を、みんなは見て、
「本当にすごいよな。」
カイを見て笑った。
「カイ。」
リオは、カイに呼びかけた。
カイも、笑顔でリオに近づいた。
「カイ、ありがとう。お疲れ…」
一瞬の出来事だった。
捕まったはずの岡部がリオを連れて、廃工場に入ったのだ。
「リオ〜」
カイが追いかけた瞬間に工場は、燃え上がった。
カイは青龍会のみんなに止められた。
「離せ。リオが…」
ますます、燃え上がる炎に、みんな愕然とした。
「急いで、消防車を…」
警察も慌てていた。
「離せよ。」
カイは、手をふりほどいた。
「待ってよ。カイ兄。いくらカイ兄でも、この炎じゃムリだよ。」
みんなは、カイを止めたが、カイは、ふとみんなを向き、
「オレが…オレが愛してるのは…リオだけなんだ。」
誰もが、止まった。
その瞬間に、カイは炎の中へと行った。
「カイ兄…カイ兄!」
た〜け〜の叫びは、届かずに炎は勢いを増していった。
そして、すぐに、工場は崩れ落ちた。
カイとリオを残したまま…