第10話 最終大事件
いつもの朝。いつもの時間。いつもと変わらない1日であるはずだった。
カイが学校に戻って来てから一週間が経ち、何にも事件は起きず平和に暮らしていた。
しかし、この平和はいつまでも続かなかった。
カイはニュースを見ていた。その映像に見覚えある風景が映った。
ニュースを半分ぐらい見ると、走って行った。
着いた所は、カイ達の学校だ。
消防車や警察の方が来ていた。
ニュースで、カイ達の学校でテロが起きたらしい。
カイは、学校に着くなり、みんなを探した。
すると、少し離れた所でリョウ達がいた。
すぐに駆けつけた。
「大丈夫か?」
カイは慌てて来たので、普段着だった。
「ああ、何とかな。みんな大丈夫だ。」
後輩達も全員無事なようだ。
カイは、燃え上がる学校を見て、愕然とした。
「誰だよ。」
ふと横を見ると、一人の若い男がカイを見て笑ってる。
「あいつか…」
カイは男を追いかけた。
「カイ兄。」
ホクトの声にも反応せず行った。
しばらく、追いかけていると、どっかの工場に着いた。
中に入ると、男は立ち止まった。
「てめぇか?学校を爆破させたのは」
カイが聞くと、男は笑った。
「さすが、鬼澤家の奴だな。」
カイは黙って、男を睨んだ。
「青龍会伝承後継者、鬼澤カイ。お前を殺す。」
男はそう言うと、殴りかかってきた。
「なぜ、オレを殺すのかは、分からないが、絶対に許さねー。」
カイも、男に突っ込んだ。
お互い殴り殴られの戦いをした。
男の蹴りが、カイのお腹に当たりカイは倒れた。
「くそ、てめぇ何者だ。」
カイはお腹を抑えながら聞いた。
「オレ達に勝てたら教えてやるよ。」
奥からまた4人現れた。
「まだいたのか?答えろ。なぜ、オレを狙う。」
男達はカイを睨みつけ話した。
「五年前、てめぇら極道の奴らが起こした、極道大戦争の被害者だよ。」
カイは少し驚いた。
「五年前までは、普通の暮らしをしていた。しかし、お前らのせいで人生が変わった。ここにいるオレ達は、それぞれ親や友達、兄弟をてめぇらに奪われたんだ。あの戦争さえなければ、普通に暮らして幸せに過ごしていたのによ。てめぇらの勝手で幸せを奪われて、生きる事さえ辛くなって…
お前らを殺すために、五年間必死で生きて来た。」
カイは、少し寂しい目をした。
「確かに、オレ達がした事は許されない事だ。でも、オレの周りの奴らは関係ねぇ!!オレを殺すなら、オレだけを狙いやがれ!」
カイは、男達を見た。
男達は、にやっと笑うと
「バカじゃねぇか?お前にも、同じ苦痛を味わってもらうんだよ!大切な人が、いなくなる苦しみをな。」
男の一人が、カイに突っ込んだ。
カイは、いつもなら戦うが、今回は手が出なかった。
いや、出せずにいた。
次々とボロボロになる体を抑えながら、カイは男達を見た。
「どうした鬼澤?日本で一番強い極道のトップも、手出し出来ねぇのか?」
男は笑いながら言った。
「おい、工藤。まだ殺すなよ。」
奥にいた男が工藤に言った。
「ああ、分かってるよ。まだ苦しんでもらうからな。」
カイを蹴りつけた。
倒れるカイ。奥にいた男が、ゆっくり近づいた。
カイの髪をつかみ、顔を上げた。
「鬼澤、オレを覚えてないか?」
カイは、男をじっと見た。
「お前、まさか岡部か?」
カイは驚いた。
「気づいたようだな。オレは、お前のせいで家も兄弟もなくし、悲惨な人生を送った。
てめぇに分かるか?住む所も行く場所も、頼る奴もいない孤独な人生を…お前にも、味わってもらうぞ。」
カイの頭を、地面に何度もぶつけた。
口からも血を出し、カイはフラフラになっていた。
「カイ兄!」
突然、後輩達やリョウ達が来た。
「とんだ邪魔が入ったな。」
みんなはカイを守るために、カイを後ろにした。
「てめぇら誰だよ?」
ワタルは、睨みつけた。
「今日の所は、引いてやる。だが、これで終わったと思うなよ。鬼澤…」
岡部達は、笑いながら去って行った。
みんなはカイに近づいたが、傷が深くカイは気絶していた。
急いで、青龍会のもとに行き、傷の手当てをした。
「一体何があったんだよ。カイ兄が、ここまでやられるなんて…」
寝ているカイを、心配しつつ疑問に思った。
カイは静かに起きた。
「オレ…」
まだ、傷が癒えず所々痛かった。
「カイ兄何があったの?あいつら、誰だよ。」
ホクトが言うと、カイは真剣な顔をして、黙った。
みんなは、不思議に思い、けどそれ以上は聞かなかった。
「若!」
突然、小早川が入って来た。
「若、大変です。何者かが駅を爆破させたもようです。」
カイは、驚き家を飛び出した。
「カイ兄!」
みんなの呼びかけにも答えず行った。
「とにかく、オレ達も行こう。」
みんなもカイを追いかけた。
駅に着くと、今は消火されてるが次々にけが人が運ばれて行った。
「ひでぇ。」
周りは、けが人や警察、消防士の人であふれていた。
「くそ!!」
カイは、地面を殴ると悔しがり、また一人で去って行った。
みんなは、一旦カイの家に行った。
「カイ兄。何があったのかな?」
みんな心配していた。
「今言える事は、オレ達の周りが何者かに狙われているって事じゃないか?」
た〜け〜は、薄々感じていた。
「私たちも、今は何もわかりません。とにかく、安全な場所にいてください。」
小早川の提案で、みんなはカイの家に、しばらく泊まる事にした。
夜になっても、カイは帰らなかった。
リオは起きて待っていた。
「リィ姉。」
リオが振り向くと、ワタルが起きてきた。
「まだ、カイ兄帰らないの?」
ワタルも心配でいたみたいだ。
「そのうち帰って来るよ。」
ワタルに、水を差し出し笑った。
しばらく、ワタルはリオを見ると、
「リィ姉ってさ、カイ兄が好きなの?」
突然の質問にリオはせき込んだ。
「バカ。急に聞かないでよ。」
わかりやすい態度だ。
「カイは、大切な人よ。カイといるとさ、落ち着くし楽しいしね。バカだけど…でも、人の痛みをわかってくれて、いつも、助けてくれる。ヒーローみたいな人だよ。」
リオは、にっこり笑った。
(この二人、素直になればいいのに…)ワタルは、そう思った。
「さ、早く寝なさい。明日、早くから出掛けるよ。」
ワタルに言うと、リオも部屋に行った。
こうして、長い1日が終わった。
次の日。朝から、青龍会とともに出掛けたみんなは、カイの事が心配だった。
「カイ兄。どうしたんだろう?」
ワタルは、心配しながら車のテレビをつけた。
「臨時ニュースです。また、テロが起きました。先ほど、商店街で、事件は発生し、けが人などが多数いるようです。」
ニュースを見ると、もしかしたらカイが来るかもしれないと思い、みんなは商店街に行った。
現地に着くと、また警察や消防士の方々がいた。
リオは、横を見ると、カイを見つけた。
「カイ!!」
呼びかけ、みんなはカイの元に走った。
「いったい、何してたんだよ。」
タカシの質問には答えず、カイは黙っていた。
救急車が横を過ぎた。
「アキラ〜!!」
母親の鳴き声が聞こえ、小さな少年が運びこまれて行った。
カイは、黙って見ていた。
「ちくしょう。何でオレ達の周りの奴が狙われているんだよ。オレ達が何をしたんだよ」
シノブは、拳を握りしめた。
カイも目をそらし、
「ゴメン。」
そう言ってまた走って行った。
「カイ」
リオは呼び止めたが、止まらなかった。
また、カイがいなくなり青龍会の事務所では、みんなが集まっていた。
一方、その頃カイは川沿いを歩いていた。
先ほどのシノブの言葉を思い出していた。
(なぜ、こんな事になったのは…青龍会に…鬼澤カイに関わったから。)
カイは一人で考えていた。
何も感じず、ひたすら歩いた。
青龍会の事務所ではみんながカイの事を話していた。
「カイ兄。帰ってきた。」
シノブが走って来た。
急いで、玄関に行くと、みんなは息を飲んだ。
いつもの明るいカイじゃなかったからだ。寂しい目をして、みんな黙った。
「ゴメン。少し眠る。」
カイは、そう言って部屋に行った。
しばらく、みんなはそのままにしておく事にした。
夕方になり、カイは眠らず部屋にいた。
奥の台所で話声が聞こえ、カイは向かった。
台所では、みんなが夕飯の支度をしていた。
「あっ!カイ兄。起きた?今から夕飯だよ。」
明るくシノブは言った。
「すまん。オレは…」
カイが言いかけると、リオは
「私が作ったのに食べないの?」
そう言って、睨んだ。
カイは、少しだけならと言い、席についた。
みんなは、カイを励まそうと普通にしていた。
いつものように賑やかな時間だった。
しかし、カイはまだ浮かない顔をしていた。
「カイ兄。食べなよ。うまいぜ。さすがリィ姉だね。」
ワタルは、むじゃきに言った。
「おだてても、何も出ないよ。」
リオも笑顔で言った。
カイは、少し残すと箸を置いた。
「ゴメン。やっぱりいい。」
そう言って、また部屋に戻ろうとした。
「カイ、無理しないでいいからさ。」
リオはカイに呟いた。
「カイ兄。オレ達、カイ兄が言うまで待つよ。」
ワタルも、笑顔で言った。
ふと振り向くと、みんな笑顔のままで見ていた。
「とにかくさ、今は一緒にご飯食べようよ。悩みなんかさ、みんなで分かち合えば、小さくなるよ。ね?」
リオの言葉にカイは、黙った。
静かに席に座ると、
「話すよ。全部。」
そう言って、今までの事を語り始めた。岡部達の事を全部。
「今回のテロ事件の犯人は、岡部という奴だ。」
カイが話したとたん。リョウやタカシが驚いた。
「岡部って、あの岡部か?」
リョウとタカシは知ってるみたいだ。
「ああ、岡部とオレ達は小学校の時に一緒だったんだ。それが、何らかの原因で別れた。岡部は、あの極道大戦争の被害者だ。」
みんなは静かに聞いた。
「あの日、オレは青龍会の跡継ぎとして現場にいた。
しかし、あまり乗り気はなかった。でも、跡継ぎとしての自覚が目覚めて行ったんだ。あまり覚えてないけど、気付いたら、戦争は終わっていた。」
カイが話すと、奥から小早川が来た。
「あの時、誰もが戦争を終わる事を願っていた。けど、いつの間にか火がついた戦争は、力を増して行った。その時に、若が止めたんだ。次々と人を倒して、青龍会の奴も関係なく全員倒した後、立っていたのは若だけだった。」
カイは強く拳を握りしめた。
「オレが気が付いた時には、周りにけが人だらけだった。お前らも見た事あるだろ?オレは、切れたら自分でもわからなくなるほど、暴れてしまうんだ。
そのせいで、岡部をあんな犯罪者にして…」
カイは、涙を浮かべた。
みんなは黙っていた。
ふと、リョウが口を開いた。
「小さいな。」
意外な言葉に、みんなリョウを見た。
「お前が何をしたんだよ。お前は、戦争を止めたんだろ?
例え、意識がなくても、みんなが願っていた事を叶えたんだ。堂々としろよ。
それとさ…一人で考えるなよ。オレ達もいるじゃん。お前は、一人じゃないんだぞ。」
リョウはにっこり笑った。
「でも、オレのせいで学校も駅も商店街も…小さな子供だって傷ついているんだぞ?」
カイは泣きそうな声を出した。
「そんな、一人で悩むなよ。オレ達仲間だろ?分かち合えばいいじゃん。」
カイは涙を流した。
「カイ兄。泣いているの?」
ワタルは、聞いた。
「泣いてねぇよ」
カイは、強がったが涙は流した。
仲間との絆を確かめて…
「オレ、戦うよ。もう、弱くならない。あいつらと戦うよ。」
そう言って、決意した。
だが、まだこれだけでは悲劇は終わらなかった。
「よし、じゃあさっそく作戦を立てるか?」
カイは、すっかり元気になった。
「まず、岡部達は必ずオレの周りに現れる。最初に学校。次に駅。そして商店街と、いつもオレが行く所を狙ってる。
しかしここは、青龍会の事務所という事もあり、あいつらは狙わない。また大戦争になりかねんからな。次に狙うのは、ここだと思う。」
カイは、地図を広げ指差した。そこは、た〜け〜のジムだった。
「ここは、オレ達が出入りが多い場所だからな。何としても食い止めるぞ。」
そう言って、ジムの周りを見張った。
夜になり、何も起こらなかった。
「来ないね〜」
さすがに、朝から見張って疲れも出てきた。
今日の所は家に戻って、また明日来る事にした。
家に着くと、カイのケータイに電話が来た。
「非通知って誰だよ。」
カイが取ると、声の主は岡部だった。
「見張りをつけても無駄だぜ。」
その一言を聞き、カイ達は急いでジムに戻った。
ついさっきまでは、何も変わらなかったジムが燃え上がっていた。
「ウソだろ?」
た〜け〜は愕然として、その場に崩れた。
カイは悔しさで、何も言えなかった。
幸い、誰もけが人はいなく、火もすぐに消えたが、全焼した。
家に戻り、誰も話をしなかった。
た〜け〜は、一人外にいた。その様子を見て、カイは声をかけた。
「ゴメン。オレがもっと注意していれば…」
カイは、下を向いた。
「カイ兄。お願いがあるんだけど…
オレに格闘技教えてくれないか?」
た〜け〜は、後ろを向いたまま言った。
「お前らは、強くなくてもオレが守ってやるよ。」
カイはた〜け〜に近づいたが、伸ばした手をふりほどかれた。
「守られてばっかりじゃイヤなんだよ。」
た〜け〜は、突然大きな声を出した。
カイは、驚いた。
た〜け〜の肩が震えているからだ。
「カイ兄。オレ達もさ、戦うよ。一緒にやるよ。」
後ろを向くと、みんながいた。
カイは少し黙り込み、
「わかった。だが、無理はするなよ。」
次の日から、みんなは小早川ら青龍会の人達のもと、空手やボクシングや柔道など、教えてもらった。
カイは心配しつつ、見守った。
「カイ兄。」
汗だくでカイの前に来たワタル。
「どんどん上達していくなぁ」
カイは笑顔で言った。
「当たり前じゃん。絶対に次は、食い止めるよ。」
ワタルは拳を握りしめ決意した。
そんなワタルを見て、カイは微笑んだ。
「カイ兄…オレ、カイ兄の事好きだよ。何かさ、オレ一人っ子だからかもしれないけどさ…カイ兄の事、本当の兄貴だと思ってる。
優しくて、強くて、いつもオレ達の味方になってくれてさ。何か…ヒーローみたいだよ。少しバカだけど。
だからさ、カイ兄を今度は守るからさ。あまり、無理しないでね」
少し照れながらワタルは言った。
カイは、感動してワタルに抱き付こうとしたが、カイを避けワタルは、
「よっしゃ、また頑張るかぁ」
そう言って、また修行しに行った。
一週間が過ぎ、どんどんと街は、岡部達に壊されて行った。
「くそ…一体どこにいやがんだよ。」
カイはニュースを見るたんびに、悔しさが増した。
その夜。
みんなが寝静まった頃、カイは1人家の外にいた。
(まだ、止められない。このままじゃ、また大戦争みたいな事になる。ここは、早めに食い止めなければ…)
1人で考えていた。
「な〜に、一人で青春してんの?」
パジャマ姿で来たのはリオだった。
「カイ、キレイだね。星…」
カイは言われた途端に、空を見た。
「不思議だよね。今さ、この街で大変な事になってるのにさ、星は光ってるんだよ。」
リオの話声を聞きながら、空を見ると、キレイな星が、見えていた。
「そうだな。」
カイは、少しドキドキした。
「カイ、頑張ってね。でも、死なないでよ。」
リオを見ると、少し涙目になっていた。
「あのさ…もし、この事件が終わったらさ…オレ、お前に話したい事があるんだ。」
リオは、真面目な顔で見てるカイを見た。
「オレ…とさ、その…一緒に…」
カイは顔を赤くしながら、リオと見つめあった。
だんだんと、二人の顔は近づいた。
手が触れかかった瞬間。
「バカ押すなよ。」
その声とともに、みんなが、現れた。
「てめぇら、いつから…」
カイとリオは、とっさに離れた。
「リョウもタカシも一緒に…」
リョウとタカシは、隠れていたが、カイにはバレていた。
「ったく…」
カイは、立ち上がり見た。
「正直になりなよ。」
シノブやワタルは、にやけながら言った。
「この野郎」
カイは二人を追いかけ走った。
こんな幸せが、いつまでも続くような事はなかった。