004 洞窟に住む者
「え?」
僕の姿をとらえた瞳は、まるで凍りついたように固定された。
僕はどうにも居た堪れない気持ちになって、
「ど、どうもこんにちは」
と、とりあえずコミュニケーションを図ってみた。
「あ、はい。こんにちは?」
そう言って、彼女は小首を傾げて、
「おはようではないのか?」
と、少々的外れな事を言い出した。
「いや、今はもう昼前だし、おはようではないと思う」
「ああ、そうなのか。また、寝過ごしちゃったのか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
またも、沈黙が流れる。
ああ、なんだこの状況は、僕は魔物退治に来たのではなかったのか? なぜ僕は女の子と面と向かってこんな居た堪れない気持ちになっているんだ。
僕は、このよく分からない状況を作り出している彼女を上から下まで眺める。
白銀の透き通るような長い髪、それにちょこんと付いた獣の耳のようなもの。彫刻のように整った顔。見るものを吸いつけるような美しいラインを描いた鎖骨。そして緩やかにそれでいて柔らかな印象を持たせる胸。丁度両の手を添えたくなるような腰の括れ。一定のリズムで振られる獣の尻尾のような白銀のそれ。健康的でかつバランスのとれた脚。・・・・ん?
僕はもう一度上から下へと視線を送る。
髪、獣の耳、顔、鎖骨、胸、腹、括れ、獣の尻尾、腰、太腿、、足。
もう一度送る。
獣の耳、獣の尻尾。
ピコピコ。ワサワサ。
・・・・・・・・動いている。
「何故動く!! なんでそんな物が付いているんだ!?」
「うわああああ!! なんで刃物なんて構えてるんだよ!?」
僕と彼女の叫びはほぼ同時だった。
そうして、詰め寄ろうとした僕と飛び退いた彼女の動きも、まるで計ったかのように同時だった。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「分かった、この刀は置こう。それでいいか」
「・・・・うん」
僕は刀を鞘に納めて、地面にそっと置いた。
「と、とりあえず、話をしないか?」
「い、いいけど、とりあえずその剣から離れてくれない? 怖くってしゃあないんだけど」
「ああ、すまない」
僕は一度刀を拾って、壁際まで持っていき立てかけてから元の場所に戻る。
「これでいいかい?」
「う、うん」
「ええっと、それじゃあ僕から、僕はトウヤ・ツキシマだ。君は?」
「わ、私はギンカだ」
「そ、そうか、よろしくギンカ」
「ああ、こちらこそだ、トウヤ」
「・・・・・」
「・・・・・」
「あの、つかぬ事を窺うんだが」
「な、なんだい?」
「そ、その頭に付いているものと、し、尻尾のようなものは何なんだろうか?」
耳はピコピコと動き、尻尾の方はまるでたわわに実った稲穂の様に大きく広がっていた。
「なんなのだろうかなんて言われても・・・耳と尻尾としか言いようがないんだけど・・・・」
ギンカは困ったように頬を掻いていた。
「もう一つ、伺いたいことがあるんだが・・・」
「な、なんだい?」
ああ、もうこんな事聞くまでも無く分かっていることじゃないか・・・獣の耳、獣の尻尾、こんなものが付いている奴なんて僕は心当たりは一つしかない。
「君は、魔族なのか?」
そう、魔界に住むといわれる。彼ら以外。
「うん。正確に言えば、魔族の獣人だけどな」
そうして僕は、生まれて初めて魔族と出会った。




