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003 洞窟の魔物

 ご馳走と言うに相応しい食事で持て成され、僕は満足して食後に出された・・・これはなんだろう? 赤い液体でとてもいい香りがする温かい飲み物を飲んでいた。

 そこに丁度、この屋敷のメイドさんが配膳を片づけに来たので聞いてみる。


「ああ、それは紅茶と言ってとても香りのよい飲み物でございます」


 そう言って、彼女は奥の部屋へと戻って行った。

 ふむ、こうちゃと言うのか・・・しまった。どういう漢字を書くのか聞きそびれてしまった。

 こうちゃ、高茶、光茶・・・なんだかどれもしっくりこない。


「満足していただけでしょうか?」 そう言って、何やら大きな袋を持ったデコリさんが戻ってきた。


「ええ、とても美味しい食事でした。ところで、この飲み物は一体何なのでしょうか? 今まで飲んだ事のない飲み物です」

「ああ、それは我が村の特産品である紅茶です。とても香りがいいでしょう? このお茶はグレルリア国王陛下にも献上するほどの上質なものなんですよ」


 デコリさんはまるで出来の良い我が子を自慢でもするかのように、ニコニコと饒舌に語る。

 なるほど、デコリさんの派手な服装に合点がいった。

 国王陛下に献上するお茶なんて一体どれ位するか分かった物ではない。

 ちなみに、グレルリア王国はここより西の山を越えたところにある。


「それはすごいですね、国王陛下にとは・・・ちなみに、こうちゃとはどういった字を書くのですか?」

「紅のお茶と書いて紅茶と読みます。まるで染めたように鮮やかな紅色でしょう? そこから由来するそうです」

「なるほど」


 紅茶、と書くのか。

 確かに、見事なまでに赤く、紅色に染まっている。

 僕は紅茶をもう一度口に含み、ゆっくりと飲み下す。


「とても美味しいです」

「ありがとうございます」


 デコリさんは、本当に嬉しそうに笑った。

 その後、数分紅茶を片手に談笑し、話が途切れたところでデコリさんは切り出した。


「それではトウヤ殿、本題に入らせて貰ってよろしいでしょうか」

「ええ、僕もそろそろその袋がなんなのか気になってきました」

「はっはっ、そうですか。それじゃあ先にお見せしましょう」


 デコリさんは、袋の日身に手を掛けるとスッと口を広げ、中身が僕に見えるようにと前に出す。


「・・・・大金ですね」

「5000ガルあります」


 先ほどまでの柔らかな笑顔は無く、真剣な表情でデコリさんは僕を見据える。


「実はこの村の裏に小さな洞窟があります。そこに最近になって魔物が棲み付いてしまったようなのです」

「・・・それを退治して欲しいと?」

「はい」


 デコリさんはそう言って、お金の入った袋を僕の前に置く。


「こちらのお金はお渡しします」

「良いんですか? 持ち逃げするかもしれないですよ?」

「持ち逃げするような人はそんなことを言わないでしょう。それに持ち逃げするならそれでもかまわないのです」

「? どういう事です?」


 僕の問いにデコリさんは一つ大きなため息を吐いて。


「実は一週間ほど前にも、村の若い者二人が洞窟の魔物の退治を買って出たのですが・・・彼らは失敗し逃げ帰ってきました。命に別状は有りませんでしたが、ひどく怯え、今も夜遅くには幻覚を見るのでしょう・・・悲鳴を上げて飛び起きているようです。

 丁度、あなたの泊まっている宿の隣の家に住む兄弟です」


 そんな話を聞いて、平静を保っていられる奴がどれほどいるだろうか? 

 僕はごくりと唾を飲み込んで、表面上の平静保つ事しか出来なかった。


「一応、その二人以外村の住民には被害は出ていません。幾つかの野菜や果物が盗まれたりするだけでした。ですから、私共もそんな恐ろしい魔物が棲んでいるなんて思いもせず、彼らを送り出してしまいました」


 そう言ってデコリさんは今は後悔しています。と、苦痛の表情で言った。


「ですから、これは成功報酬ではなく、前金です。失敗しようとこの話を聞いて逃げてもらってもお支払いします。命を懸けて戦うにはあまりに少ない金額ではありますが、なにとぞよろしくお願いいたします」


 そう言って、デコリさんは頭を下げる。

 5000ガルは命を懸けて戦うのに安いという事は無い。

 5000ガルもあれば、1年は豪勢な生活さえしなければ余りあるほどの金額だろう。

 それを前金として払い、逃げてもいいと言うのだ、お金を持っているとは言え、こんな事を早々できる事ではない。

 今は500ガルの為に人を殺すなんて事件が起きるような時代なのだ。


「デコリさん顔を上げてください」


 僕は、目の前にある袋を掴んだ。

 それを見て、デコリさんは安心するような、それでいて心配するような顔を僕に向けた。

 僕はそんなデコリさんの目を見て、言う。


「退治した暁には、一体幾らの報酬が頂けるんですか?」


 にやりと笑った僕を見て、デコリさんは驚いたように大きく目をパチクリとし。


「ええと、前金の倍、10000ガルお支払いしましょう」


 と、慌てて言った。


「お引き受けしましょう」


 僕はまるで簡単な仕事だとでも言うように、不敵に笑って右の手をデコリさんに突き出す。

 デコリさんはその手を掴んで、ブンブンと振った。


「お願いします」


 僕はその真剣な表情を見て小さく笑う。

 正直に言おう、僕はその魔物に勝てるかなんて全く分からないし、まるで自信も無い。

 だけれど、これ以上に勇者の最後として相応しいものも無いのではないかと、僕はそう思った。





 翌日の明朝、僕は装備を整え洞窟へと向かった。

 夜の内に向かおうとも思ったのだが、デコリさんが酒を振る舞ってきたのでそれは断念せざるを得なかった。

 冒険者に祝福をなんて言われて酒を出されて飲まない訳にはいかないだろう。

 幸い、デコリさんは酒に弱く、僕は人並み以上に酒には耐性があったから(戦士に付き合わされて5軒はしごなんてのもやっていたし)翌日の明朝に無理無く起きて、洞窟へと向かう事が出来た。

 デコイさんはというと、すらりとした貴婦人を思わせる優しげな奥さんと活発そうな娘さんにずるずると引っ張られて寝室にへと運ばれていたので、きっと今頃は二日酔いに苦しんでいることだろう。

 ご愁傷様である。


「ここか」


 デコリさんに言われた通り、村の裏の森の奥。禍々しい・・・感じはしないが、それっぽい洞窟がぼっかりと口を開けていた。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・」


 僕は光呪文『フラッシュ』を唱え、左手に固定術式を展開した。

 本来は相手の目を眩ますほどの光量を放つ『フラッシュ』だが、固定術式を展開することで、安定した明かりを出す光源へと変化させることができる。

 まあ、洞窟探索に使う初歩的な魔法の応用である。

 僕は、『フラッシュ』が固定されたことを確認して、中にへと足を進める事にした。




 さて、どれくらい彷徨っただろうか? そこまで複雑な構造をしていなかった為、恐らくここだろうという親玉が潜んでいるであろう場所は思いの外早く見つかった。

 まあ、親玉なんて言うと他にも手下っぽいのがいたように言い回しになってしまうが、そう言う訳ではなく、逆に一匹たりとも魔物がいないという現実に少々拍子抜けしてしまった。

 居たら居たで嫌だが、身構えているところに出て来られないのも考え物である。

 とはいえ、この先には間違いなく何かがいる事は確かだ。

 証拠に、


「ぐあぁああ、ぐあぁあああ」


という、獣めいた寝息が聞こえてくる。

さてさて、一体何がお出ましするのやら。

僕は息を殺し、愛刀を鞘から抜き放つ。

三年付き合ってきたこの父から借りた刀は、いつまでも切れ味が落ちることなく(もちろんメンテナンスは欠かしていない)美しい光沢を放ち続けている。これを僕は『父の刀』と呼んでいるのだが、その理由はこの刀のどこにも名が無いという不思議な理由からだ。   

これだけの刀なのだから間違いなく腕のある鍛冶職人によって作られたものだと思うのだが、どこにも名が無い。

もしかしたら、埋もれてしまった名工によって作られた逸品なのではないかと、僕の中では結論づけている。


「ふうぅー、そんじゃ行きますか」


 そんな愛刀を見て心を落ち着かせ、僕は覚悟を決める。

 個人的には寝込みを襲うのはさすがに魔物といえど可哀想なのだが、この際仕方がない。寝ている方が悪いのだ。(洞窟に向かったのは明朝だが、今はもう昼前である)

 せめて、こちらの存在を示したうえで攻撃しようと一歩目を踏み出した時。


 カラン       カラン


 カラン            カラン           カラン



 カラン                                   カラン


 洞窟内の至る所からそんな乾いた音が反響する。


「なっ!?」


 驚いて足を上げると、そこには黒く染め上げられた細い糸が数本、丁度足を故意にあげようとでもしない限り避けられないように張り巡らされていた。

 罠。

 そう考えた瞬間、僕の額から一筋の汗が垂れるのを感じた。

 ま、まさか、かなりの知能を持った魔物なのか!?

 ヤ、ヤバイ。これはさすがに想定の範囲内を超えている。一個人で勝てるとかそう言うレベルの敵じゃない。こんな魔物が村の近くにいるなんて、アリジゴクだらけの場所に蟻の巣があるみたいなもんだ。一人残らず食われてしまう。

 勇者らしく死ぬとかカッコつけている場合じゃない。ここは何としてもここから脱出して、1パーティーいや、軍で殲滅作戦を行うぐらいの気持ちで臨まないと勝てない。

 逃げる。

 全身の隅々にまでその指令が出された僕は、硬直していた体に力を籠めようとした時。


「むにゃあ、だあれ?」


 という、不機嫌そうな女の子の声を聴いた。


「・・・・はあ?」


 当然、僕は耳を疑った。

 確かに、魔物の中には喋るタイプのものもいる。だが、魔物の声と言えば、低いうなるような声とか、逆に耳触りのような甲高い声のように大凡人の出せるような音を出さない。

 それが、この声はなんだ? まるで眠りを邪魔された少女のようなこの声はなんだ? まさか魔物にもこのような声を出して人を騙すような恐ろしい奴もいるとでも言うのか?


「ねえ、誰? おっかしいな・・・獣払いはしてあるはずだし、今度こそ誰も入ってこれないはずなのに・・・」


 声の持ち主が動く気配がする。

 だけれど、僕にはもう逃げるという選択肢は無くなってしまっていた。

 一体こんな声を出す魔物は一体どんな姿をしているのだろうという好奇心によって、僕の脳味噌は正常な判断が下せなくなってしまっていた。

 だけれど、それは間違っていなかったのかもしれない。


「え?」


 僕の目の前に現れたその姿は、大凡魔物のような姿ではなくそれはそれは美しい白銀の髪を持つ少女の姿だったのだから。


今回使用した魔法

フラッシュ 光魔法 消費MP4

辺りが真っ白になるほどの強力な光を生み出し、敵の目を眩ませる。

仲間に合図もせずに使うとまず間違いなく仲間にも被害が及ぶため使用には注意が必要。


今回使用した特殊技能

固定術式 応用魔法

呪文に一定の枷を付けることにより、その効果を安定、持続させる応用魔法。

今回のフラッシュでの応用例でいうと『左手を発光させる』という枷を付け、洞窟探索での灯りにしていた。

術式固定にはかなりの多様性がある。



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