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013 目覚め



 目覚めると、白髪交じりのおっさんが目の前にいた。


「うお!?」

「おや? 起きたようだね」


 おっさんはそう言ってなんでもないように僕の上着を脱がせ始める・・・・・って、ちょっと待て、なんだこの状況!?

 僕は何とかこの状況から逃れようとする。が、身体が、動かない・・・え? これはもしかして、詰みって奴ですか? 僕の初めてはこの白髪のおっさんに奪われてしまうのですか? ・・・・・そんなの嫌すぎるわ!


「ぬおおおお!」


 動け、僕の身体。この絶望的かつ危機的状況から何とか脱出するのだ!

 起こそうと、全身に力を込める。

 が・・・、まるで鉛の様に重い体は思うように動かない。

 え? なんで!?

 まさか、拘束魔法か!?


「はっはっはっ、起きて早々元気がよくて何よりだ」


 それを嘲笑うかのように、おっさんは柔和な表情を浮かべ、僕の上着を慣れた様子ではだけさせる。そうして、下着を捲られる。

 まじでたすけてください。


「うふぁ!」


 僕は、思わず声を上げる。

 冷たっ!!


「うむ、脈拍は正常だね・・・傷の方もだいぶ良くなっているし、もう大丈夫だろう」


 そう言って、おっさんは三度場所を変えながら何かを僕に当て、それを放した。

 この時になって、それが聴診器である事。そして、このおっさんが一度目に洞窟から帰った僕を治療してくれた医者である事に気が付いた。

 確か、名前は・・・デュークさんだったはず。


「あの、ここは・・・?」

「ん? ああ、ここは私の診療所だよ。トウヤさん・・・いや、勇者様の方がいいのかな?」

「・・・トウヤさんの方で構いませんよ」

「そうですか、それではトウヤさん。ええと、ここにいる理由の方は覚えていますか?」

「理由・・・・?」


 そう言われ、僕は思い出そうと頭を捻る。

 僕は確か、そう、蠢く夜の王(ナイトメア)と戦っていたはずだ、そして―――


「ギ、ギンカは!?」


 僕は唐突に思い出した。

 そうだ、ギンカは、ギンカは無事なのか!?

 思うように動かない体に瞬間的に力を籠め、上半身を起こすが、


「うっ、ぐはぁ!!」


 まるで体中を引きちぎられるような激痛に襲われる。

 なっ、なんだこれは!?

 う、動けねえ。


「落ち着きなさい。まだ無理はいかん」


 痛みに呻く僕を、デュークさんは支えてくれたが、僕はギンカは無事かどうかという事で頭が一杯で、感謝の弁を告げる余裕はなかった。

 そんな僕を見て、デュークさんはもう一度「落ち着きなさい」と、言って僕から目線を逸らした。


「それにほれ、ギンカさんならそこにおるだろう?」

「え?」


 言われて、僕はおっさんの見ている方、僕の腹部へ目線をやる。

 そこには、僕の寝ているベットに上半身を預ける様に眠るギンカの姿があった。


「よ、良かった・・・」


 僕は安堵し、左手を伸ばす。

 その腕に無数の切り傷が刻まれていた事に、僕は少々驚いたが、あの時使った代償術式を考えればそれは当然の結果と言えた。

 腕は思うように動かなかったが、それでもできる限り優しくその頭を撫でてやる。

 むず痒そうにピクピクと耳が反応していたが、撫で続けていると頭を撫でやすいように

僕の方に無意識でか寄せてきた。

 僕がそれを見て笑っていると、「コホン」と咳ばらいが聞こえ、ハッとして僕は顔を上げる。


「す、すいません」

「いえ、謝る事は無いですよ。ただ、声をかけるタイミングが無かっただけです」


 苦笑いを浮かべてデュークさんは頭を掻く。

 僕は恥ずかしくなったが、手だけはギンカの上に乗せたままにしておいた。

 そんな僕たちを見ながら、デュークさんは口を開いた。


「なんといいますか、私は魔族というものを誤解していましたよ。凶暴で、野蛮、人を食う化け物そんな風に思っていましたが・・・・」

「・・・それは――」


 そう言う風に、世間が風潮しているからだ。

 僕は、その言葉を寸前のところで飲み込んだ。


「ですが、それは間違いだったのですね。少なくてもギンカさんはそうではないそう思いました」

「・・・?」


 ここで、僕は一つの違和感を覚え、もう一度ギンカを見た。

 恰好は白のワンピース。髪は透き通るような銀髪。

 その頭には獣の耳、お尻には獣の尻尾が生えている。

 何もおかしくは無い。

 だけれど、おかしくないからこそ問題だった。


「・・・ギンカが魔族だった事にいつ気が付きましたか?」

「え? ああ、自分から話してくれましたよ。最初は何を言ってるのだと思いましたが、あの耳と尻尾を見せられては、信じない訳にも行きませんからね」


 デュークさんはそう言って、ギンカの頭とお尻、耳と尻尾に目を向ける。


「魔族は、もっとおぞましい見た目をしていると思っていましたが、何とも可愛らしいお嬢さんですよ。ああ、でもこの事は私と村長しか知りませんからご安心ください。ああ、ケイトも知っているか・・・でも、彼女は言い触らしたりしないでしょう」

「そう、ですか」


 僕は、とりあえず安心して溜息を吐いた。

 ばれたのではなく、ばらしたという事はギンカが、信頼できると判断して話したのだろう。それならば、問題は無いだろう。

 ギンカの人を見る目が正しければ、だが。


「それにしても、一体どのような事をすればそれだけの傷を負うのか不思議ですよ。まるで内側から破壊されたような不可思議な傷ばかりでしたからね。正直助けられるかどうか自信はありませんでした。

 ここは、大した設備もありませんからね。かといって、他の病院に運び込む時間も労力も無い。状態が安定するまで緊張状態が続いていました。

 きっと、ギンカさんの甲斐甲斐しい看病が効いたのでしょう。一か月間毎日毎日、起きないあなたに語りかけながら看病する様子は、おかしな話ですが男として嫉妬すら覚えるほどでしたよ、いや、お恥ずかしいですが、私の家内なら――」

「ちょっと、待ってください。今なんて言いました?」


 僕はデュークさんの言葉を遮る。


「ん? ああ、申し訳ない。嫉妬なんて私も恥ずかしいのですが――」

「ちがいます。そこじゃなくて・・・」


 回りくどいのはいい。

 単刀直入に聞く。


「僕はどれぐらいの期間目を覚まさなかったんですか?」


 僕の言葉に、デュークさんはパチクリと瞬きをしてから「ああ、そうですね。そこを話していませんでした」と、一つ間を入れて。


「約一か月間、正確に言うなら三十七日間あなたは目を覚ましませんでした」


 そう、僕に告げた。


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