第八話
ラタと呼ばれた少女は、泣きべそをかきながら事情を話す。
と言っても込み入ったものじゃなくて、目撃した様子から想像できたようにパーティーを追い出されたらしい。
受付のお姉さんは親身になって聞いていたが、ふと俺と目が合う。
「ちょうどよかった。グレックさんたちは神官を探してましたよね?」
ニコリと微笑むけど、お姉さん目が笑ってないよ。
「探してますけど」
俺はとりあえず答える。
ラタと呼ばれていた少女はこっちをちらっと見た。
「しかし、神殿の上にかけあうほうがいいのでは?」
何が起こってるのか知らないけど、普通神官を追い出すか?
という疑問はある。
つまりラタという少女は冒険者の手には負えない厄介ネタの可能性がある。
だったら彼女が所属している神殿に引き取ってもらいたい。
「上の人の方針で……あと、わたしの訴えは聞いてくれないと思います」
ラタという少女の声はきれいだが力がない。
「神殿の人事は区管ごとに担当者がいるのだけど、彼女の担当者は貴族出身で気難しい方なのよ」
受付のお姉さんが説明する。
ラタという少女の容姿はとてもいいので、てっきり貴族かと思ったんだが、平民だったりするんだろうか。
……貴族だからよその貴族と仲が悪いという線もあるか。
「まずは話を聞いてあげてくれない? 上手くいくならあなたたちにはラッキーでしょう?」
「そりゃそうですが」
受付のお姉さんの言葉に一応うなずく。
ほしかった神官が入ってくれるなら安定した戦いを望める。
しかし、安定をもたらしてくれる神官が追放されるはずがない、という事実を忘れてはいけないと思うんだ。
「グ、グレックさん、どうするんですか?」
キーラが袖を引きながら小声で訊いてくる。
「あっしが言うのも何ですが、一番需要も人気もあるはずなのに、追い出される神官ってやばくないですか?」
キーラの反対側からアロンも小声で言ってきた。
奇遇だな、俺もそう思っているところなんだ。
「冒険者は組む相手を選べるけど、組織に所属してると上司を選べないのよ」
受付のお姉さんはきれいな笑顔だけど、目が笑ってなくてとてもこわいです。
「まあ話を聞くだけなら」
譲歩してみる。
キーラとアロンが不安そうになったので、
「上手くいけばラッキーなのはたしかだから」
と言って聞かせた。
俺の手に負えるレベルならいいんだけど。
「何だかごめんなさい」
カフェで向かい合ったラタの第一声だ。
気遣いのできるいい子に思える。
「俺の意に反してるわけじゃないから大丈夫だよ」
と言っておく。
キーラとアロンのふたりは含まなかった。
ラタはハッとして俺の横のキーラ。
次に自分の隣の席のアロンを見て、しゅんとしてしまう。
すくなくとも性格に難はなさそうだね。
俺しかお茶を飲んでない、やや気まずい空気になっているけど。
「実はこの都市を出入りするときに遠くで見かけたんだ」
と俺は切り出す。
「あれってやっぱりグレックさんたちでしたか。見覚えあるなと思ったんです」
ラタは答えた。
どうやら視野は広くて観察力もあるらしい。
「どういう理由で追い出されたのか、こっちは訊くしかないんだけど」
案外話しやすそうだと判断して、率直に切り込む。
キーラとアロンは息を飲んだけど、ラタ本人は気にしたそぶりを見せなかった。
「わたしの呪文が原因なんです」
うつむきながらも答えてくれる。
「具体的には?」
俺は掘り下げるために質問した。
呪文が原因と言っても、いろんなパターンがあるからね。
「ええっと、実際にお見せするほうが速いんですけど」
ラタは言いながら迷いを見せる。
「じゃあはい」
俺は自分の指先を、自分の呪文で傷つけてみた。
「!? 癒しの力よ」
ラタが驚いたのは一瞬で、すぐに呪文を唱えてくれる。
しかし。
「き、傷がすぐに治らないです」
キーラが驚き、
「神官ならこれくらい一瞬ですよね?」
アロンがふしぎがった。
ラタが唱えた言葉にも、魔力の流れにもおかしなところはなかった。
となるとこれは──
「あ、傷がふさがりはじめた」
とアロンが言う。
「なるほど。遅効型呪文か。神官だと不利かもね」
俺が言うとラタは落ち込み、キーラが「あー」と声を出す。
「ディレ? 何ですか?」
アロンは知らなかったらしく、きょとんとしている。
「通常の呪文よりも発動が遅いんだ。その分有利な効果が付与されたりする。ラタの場合、癒しの力自体は強いね」
俺は治った指を見ながら説明した。
「し、神官の場合は厳しいかもです」
とキーラが指摘する。
「即効性を求めますもんね」
アロンの言葉に俺もうなずく。
すこしでも速く治療して欲しい、楽になりたいから神官は頼られるのだ。
それが望めないなら効果が弱めのポーションで充分だったりする。
いまにもカフェの床に埋まりそうなラタに俺は、
「ほかに説明したいことは?」
と訊いてみた。
「全部お話ししましたけど」
ラタは不安が入り混じった表情ながらもきちんと答える。
「ならいいや。ラタはうちのギルドに入れよう」
俺が言うと、
「!?」
三人はすごい驚いていた。
「だ、大丈夫ですか?」
アロンは率直に。
「ほ、欲しいタイミングで癒しが来ないのは、かなりきついと思いましゅよ?」
キーラは動揺激しく噛みながら訊いて来る。
「そ、そうですよ。わたしが言うのも何ですけど、扱いにくいのは事実です」
ラタ本人までもが反対よりか。
「解決方法なら簡単さ。俺は即効化を使える」
と種明かしをする。
俺が即効化の呪文をあらかじめラタにかけるだけでいい。
「え、それって幻のレア呪文じゃないですか」
キーラが目を丸くして指摘する。
この子は単なる死霊系魔法使いというだけじゃなくて、知識も備えているようで頼もしい。
「使い手がまだ実在してたんですか?」
ラタもアゼンとしていた。
神殿所属の神官なら知っていてもふしぎじゃないか。
「支援魔法にはそれなりに自信があるんだ」
ここはどや顔しておこう。
「そ、それなりレベルじゃないですよ」
キーラが遠慮がちに言い返してくる。
「幻のレア呪文の使い手なんて、大陸に数人しかいないと言われています」
ラタのこの説明には俺が驚く番だった。
たしかに先代は俺のことを例外扱いしていたんだけど、そんなにすくなかったのか。
「とりあえず俺がいるなら、ラタの呪文のデメリットは無効化できるので、問題はないだろう」
と言って話をまとめておく。
大事なポイントだしね。
「あ、ありがとうございます。神様のご加護です」
ラタは喜ぶと同時に泣き出し、アロンが優しくあやしている。
まあ彼女の問題点を解決できるのは世界に数人レベルだったと仮定したら、たしかに神の加護を感じるのかも。
「組織と言うよりはまだ一党だけど、最低限形は整ったかな」
と俺はつぶやく。
「あっし以外は後衛なんで、あとひとりいたほうがいいですよ」
アロンは苦笑しながら指摘してくる。
「それはそう」
俺は笑ってごまかして、
「まあコツコツやっていくしかない。前衛が応募してくれるくらいに」
と話す。
「で、でも意外と集まるの早いかもですよ」
キーラがお茶を飲んでから言った。
だといいんだけどね。
「あ、あの。パメラさんに報告したいんですけど」
ラタは意を決したように切り出す。
「パメラさん?」
俺、キーラ、アロンの声が重なった。
誰のことだっけ。
「わたしとあなたたちを引き合わせてくれた、受付の女性です」
ラタは苦笑しながら教えてくれた。
あの人、パメラって名前だったのか。
受付の人の名前を知るタイミングって、なかなかないんだよね。
俺が訊いたらナンパしているみたいだしさ。
以前ロレントは実際に誤解されていたし。




