第五話
「こうなってしまったか」
俺、キーラ、アロンの三人は大都市ラヴェンドの城壁を見上げる。
説明した結果一応許してもらえたのだが、都市からは追い出されることになってしまった。
知名度も貢献度もない奴らが興味本位で実験して、都市に迷惑をかけるリスクがあると判断されたんだから仕方ない。
「まあ、捕まらなかっただけマシだな」
賠償金も請求されなかったし、俺は納得している。
「そうですね。それに三人だけって考えたら、もうすこし家賃の安い中堅都市のほうがいいかもです」
とキーラが言った。
彼女も気にしていないらしい。
うすうす感じているけど、本来のメンタルは強いんだろうね。
もしかしたら死霊系魔法使いをやってきて鍛えられたのかもだけど。
「そうだな。幸いと言うか、一日歩けばほかの都市に行ける。だから気にすることはないよ」
俺は落ち込んだ様子のアロンをはげます。
「は、はい」
ようやくアロンは気を持ち直したようだった。
大都市の周辺だけあって治安はよく、獣や魔物も見かけない。
冒険者や騎士たちの間引きのおかげだと感謝しながら、俺たちは日没前に小規模都市ラキーザに着いた。
これくらいの都市なら門番はいても、通行手形や通行税をとられることはほぼない。
「何とか都市に着きましたね」
ホッとした様子でキーラが言う。
「野宿は避けたかったしね」
と俺が言うとふたりはこくこくとうなずく。
信頼関係ができあがっていない男女三人組で野宿とか、俺だって絶対に避けたかったので安心だ。
「わたしは馬小屋でも平気ですよ?」
「あっしもです」
宿を探そうとすると、キーラとアロンに言われた。
「せめて宿をとろう。蓄えはまだあるし」
と俺は笑う。
ラキーザくらいの規模の都市なら、宿代もそこまで痛くないはずだ。
もちろん無限にお金があるわけじゃないが。
「まだお役に立ってないのに」
キーラもアロンも恐縮してしまっている。
「あとで返してくれればいいさ」
と俺はふたりをなだめた。
「部屋はふたつですか?」
受付のおじさんに訊かれたのでうなずく。
「ひとり部屋とふたり部屋でお願いします」
同部屋だと気まずいから、ぜひ男女で別れたい。
「じゃあ一万五千デナリだな」
おじさんに言われたので銀貨と銅貨で払い、カギを受け取る。
ラヴェンドはひとり部屋ひとつで一万五千だったから、かなり下がった。
「だ、大丈夫ですか」
廊下を歩きながらキーラがおどおどと言う。
「大丈夫だよ」
一応そこそこの給料はもらっていた身分だから。
「あっしらも出したほうがいいのでは?」
アロンも不安そうだ。
「これもギルドマスターとしての役目だよ」
と俺は答える。
先代だってロレントだって、こういうときの支払いは全部持っていた。
「明日からここでギルドの旗揚げをやって、ふたりには仕事をしてもらうよ」
俺が告げると、
「は、はい。がんばります」
キーラとアロンは緊張した面持ちでうなずく。
三人で簡単に晩ご飯をすませたあと、俺は部屋の仕立ての悪いベッドの上に寝転がった。
「やばい。ギルドの名前、どうしよう?」
まだ何にも考えてない。
旗揚げするときには考えておきたいなあ。
「……それで一睡もできなかったんですか?」
と言ったキーラと、アロンはすこしホッとしている。
明らかに寝不足ですって顔で食堂に顔を出したら心配されたのだ。
「さすがに名前がないのは変だけど、何も思いつかなくて。ふたりは何かいいアイデアある?」
とふたりに訊きながら、パンをかじる。
故郷で食べた石のようなまずいパンではなく、それなりに美味しい黒パンだ。
「え、わたしたち?」
「いいんですか?」
キーラとアロンはスープを飲む手を止める。
「ふたりは初期メンバーだし、べつにいいんじゃないの」
と答えるとふたりはとても驚いていた。
そんなことを気にしてどうするのだろう?
と思ったけど、もしかしたら彼女たちを追い出したギルドでは、そんなルールだったのかもしれない。
ギルドマスター次第でルールはかなり変わるからね。
「わ、わたしはお花や木が好きなんですけど」
とキーラが言う。
「花や木をモチーフにした名前のギルドは多いから、もうちょっと掘り下げたいね」
俺は応じる。
有名どころと言えばやっぱり『ユグドラシル』や、『ヴァリュアブルローズ』だろう。
「あっしはそんなすごい名前だと委縮しちゃうんで、もうちょっと気張らなくてもいい名前がいいです」
とアロンは言った。
彼女は自己評価が低いからなぁ。
あの一撃は上級冒険者だって出せるかわからないくらいの破壊力だったのに。
おかげでラヴェンドの騎士にはすぐには信じてもらえなかったんだから。
いきなり意識を変えろって言っても難しいなら、すこしずつ自信を持ってもらうしかないかな。
いろいろと意見を出し合った結果まとまってきた。
「大樹の芽吹きかな」
ふたりの意見を採用しつつ、いつか大樹と呼ばれるようなギルドになりたい、という願いを込めたものだ。
いまの俺たちにとってはわりと大それた望みだけど、最初から夢や希望を捨てているのは何か違うからね。
「大樹の芽吹き、素敵な名前だと思います」
「あっしも賛成です」
キーラはうれしそうに、アロンはホッとした様子で賛成してくれた。
「じゃあこのあと、まずは冒険者協会への加盟手続きをすませよう」
「そうですね」
俺の言葉にキーラたちはうなずく。
都市と呼ばれる規模なら、どこにでも冒険者協会への支部は存在している。
加盟ギルドが多いほど、協会はやりやすくなるって先代が言ってたね。
そういうものなんだろうか?
「手続きって何をするんですか?」
アロンがふしぎそうに首をかしげる。
彼女は知らないのか。
「うちみたいな新規の零細は書類を提出して終わりだよ」
書くのは構成員とギルドマスターが誰か、くらいである。
小さなギルドは基本的に拠点を持ってない、というか持てない。
口頭で宿泊先を訊かれるだけだろう。
「そんな簡単に」
アロンがアゼンとした。
「犯罪者じゃなければ誰でも設立できるのが、冒険者ギルドだからね」
俺が笑うとキーラもくすっとする。
簡単に設立できる分、競争は多くて淘汰されやすい。
「だからラキーザに来たのはむしろいいんだよ。もともと移動するつもりだったし」
と俺は話す。
「ラヴェンドみたいな大都市は有名な大ギルドがいますからね。その下部組織と仕事の奪い合いになってたかも」
キーラの言葉にアロンはハッとして、
「あ、そっか」
と言ってうなずく。
下部組織は実力や経験的には俺たちと変わらなくても、大ギルドの看板と信用で仕事を持って行ける。
簡単に参入できる業界では、依頼主が安心できるケツ持ちがいるというのは大きい。
「わたしたちはまずは信用されるところから、ですよね」
キーラの言葉に俺は首を縦に振って、
「ま、急いでも仕方ないし、今日は一件くらい依頼をこなそう」
と言った。
ゼロと一は小さな差だけど、ないよりはあるほうがいい。
「ちょうどいい依頼があればいいですけど」
キーラが不安そうに言う。
「それはそう。小さな都市だと意外となかったりするよね」
俺は同意する。
大きな都市のほうがちょうどいい依頼に巡りやすいのは、やっぱり人口や規模のせいなんだろうか?
「ダメそうだったら、仕事がありそうなところを探して移動だね」
と俺が言うと、ふたりはシュンとしてしまった。
「そんな落ち込まなくても。ダメなときはダメなものだよ」
気にしなくていいと話す。
仕事が途切れなくなるのは、冒険者ギルドとして名をあげたあとのことだ。
最初は先代だって苦労してたという話だからね。
「グレックさん、経験豊富な方なんですね」
キーラがおそるおそる言ってきた。
「求人には簡単にしか書けなかったけど、五歳のときにとある冒険者ギルドに拾われて、ずっと見て来たんだよね」
俺は説明する。
何歳からギルドの仕事をしていたというのは黙っておこう。
先代の名誉のためにも。




