第四話
「グレックさんがダメならもう故郷に帰るしか……」
と言ったキーラの表情は絶望を乗り越えたものだった。
死霊系魔法使いなら、故郷に居場所がなかったとしてもふしぎじゃない。
「まあ、まだふたりだけだけどな。とりあえず飯でも行くか?」
俺は提案する。
これから同じギルドの仲間になるのだから、ある程度コミュニケーションをとっていく必要がある。
「そ、そうですね」
キーラが返事した直後、彼女のお腹の虫が盛大に鳴った。
「あう……」
相当恥ずかしかったらしく、彼女の顔が真っ赤になる。
「俺も腹が減ってるんだ。奇遇だな」
と言うと、彼女はうつむいてしまう。
あれ? 何か間違えたかな?
女心って難しいな。
「あのう」
そこへひとりの女性がやってきた。
「ギルドメンバーを募集してるグレックさんはいますか?」
やっぱり覇気がないというか、あまり自信がなさそうなドワーフ。
小柄だが力持ちという特徴がある種族である。
「ああ、俺だけど求人を見てくれた?」
と話しかけてみた。
「は、はい」
ドワーフの女性はうなずきながら、ちらっとキーラを見る。
「彼女はさっき採用したばかりだよ。訳ありでもオッケーなのは事実だ」
俺が説明すると、ドワーフの女性は希望を見つけたような表情だ。
「あっしはご覧の通りドワーフなんですが、どうにも破壊力が出せなくて。期待外れだって追い出されてしまうんです」
しょんぼりとした表情でドワーフの女性は話す。
「ドワーフなのに破壊力を出せない?」
俺は首をかしげる。
まるで「火なのに熱くない」と言われた気分だった。
「はい。やっぱりいらないですか?」
ドワーフの女性は不安そうに俺を見上げる。
「うーん。えり好みする余裕がないのは事実だけど」
さすがに使い道がわからない存在を雇う余裕だってない。
困った俺はある考えを思いつき、
「鑑定であなたのステータスをチェックしてもいいだろうか?」
と提案する。
「鑑定? べつにいいですけど」
ドワーフの女性はふしぎそうにしながらも許可を出してくれた。
話を聞いているキーラも似たような表情である。
鑑定の用途って案外知られてないのかな?
「アロン。ドワーフ族。保有特性は……かなり変わってるね」
思わずつぶやく。
彼女が保有するスキルは【雲外蒼天】だ。
味方が多いほど攻撃力が上がるスキル。
ただし、大人数になればの話であり、少人数のときはむしろ攻撃力が下がってしまうようだ。
代償持ちスキルって、克服できさえすれば超絶強いんだけど。
「あ、やっぱりあっしのスキルって何か変なんですね」
アロンはシュンとしてしまう。
「いや、やり方次第では使えると思うし採用」
俺はすばやく言った。
「えっ!?」
アロンがガバッと顔をあげる。
「おー。即断即決」
キーラは言うが、驚きはない。
自分も採用されたからだろうか。
「で、でも、どうやって……?」
アロンは不安そうに俺を見ている。
なるほど、自分を役立たずと思っているうちは素直に喜べないか。
「先に飯を食べよう。奢るよ」
「わーい」
俺の発言にキーラは素直に喜ぶ。
単純というか、素直というか。
彼女の美点ではあるんだろうな。
「は、はあ……」
アロンはまだ心配そうだったが、空気に逆らわずついてくる。
飯を食べ終えた俺たちは都市の外へと出た。
「どこに行くんですか?」
アロンは不安そうに、キーラは興味深そうに訊いて来る。
「暴れてもいいところで実験だ」
と俺は答えた。
ラヴェンドのような大都市でやって、うっかり成功してしまった場合、貴族お抱えの騎士団が飛んでくるからね。
下手すりゃ都市破壊を企んだテロリストと見なされてしまう。
「あ、そっか」
アロンは納得しただけだったが、
「うわー……」
キーラは露骨にいやそうに顔をしかめる。
死霊系魔法使いってとにかく嫌われ、疑われやすいからね。
もしかしたら騎士から尋問をされた経験があるのかもしれない。
「ここなら壊しても平気だろ」
と俺が指さしたのは、雑草と小石くらいしかない平野である。
人が行き来する街道からはかなり外れているので、迷惑にもならないだろう。
「ここに来て具体的に何をやるんですか?」
とキーラが尋ねて来る。
「まずキーラ、死霊をいっぱい呼び出してくれ」
「えっ? まあいいですけど」
俺の指示に驚きながらもキーラは従ってくれた。
何十もの死霊たちが彼女の周囲に浮かび上がる。
「ひえっ」
アロンはぎょっとすると、情けない悲鳴をあげて後ずさりした。
「まー、だいたいみんなそんな反応ですよね」
キーラは傷ついた様子もなく言う。
「使い手が悪意を持たないかぎり無害な魔法だよ」
俺が指摘するとキーラはうなずき、
「グレックさん、詳しいですね。あ、だからわたしを採用してくれたんですか」
と言ってひとりで納得してた。
「そりゃ知識がなかったらさすがにためらったさ」
俺は笑いながら答える。
キーラを見ていればアロンも気づいただろうが、死霊を多数呼ぶだけなら一瞬だし、魔力の消費もすくない。
あとは悪意を込めるだけで並みの生物をあっさり害することができる。
死霊系魔法使いが恐れられ、嫌われやすいのは理由がないわけではないのだ。
「それで、ここからどうします?」
キーラはまた問いかけて来る。
「ここで俺の支援魔法を使う」
俺は言って呪文を唱えた。
キーラがまとっている死霊たちを、アロンにとってよい存在になる特殊支援魔法「コンバート」だ。
「あれ? 死霊たちの属性が変わった?」
さすがにキーラはすぐに気づく。
「ああ。俺たちにとって守護霊や精霊のような存在にしたんだ」
と俺はふたりに説明した。
「グレックさん、さりげなくとんでもないことをしましたね」
キーラは驚きと呆れが含んだ目を向けて来る。
「これならアロンにしてみれば多数の味方を得たことになるはず。キーラ、アロン、やってみてくれ」
俺の子の指示にキーラとアロンは視線を交わしてうなずき合う。
キーラの命令でアロンの体に多数の死霊がまとわりつく。
「たしかに嫌な感じがしないどころか、力がみなぎってきます」
アロンはうれしそうに話す。
「試しに地面を叩いてみてくれ」
「はい!」
俺の指示通りにアロンは右拳をふるう。
ドオオオオオオン、という轟音と共にはげしく地面が揺れた。
あちらこちらに亀裂が走り、俺たちは立っていられなくなる。
「きゃあ!?」
キーラが可愛らしく悲鳴をあげながら俺にしがみついてきた。
「泰然自若」
俺は支援魔法の一種を発動させ、キーラをかばいながらしのぐ。
「え、グレックさん。すごいですね」
「ほんとだ」
はげしい地面の鳴動をしのぐところを見ていたからか、キーラとアロンから視線をぶつけられる。
敬意が混じっているようで何だかくすぐったい。
「まあ支援魔法は得意分野だから」
一応説明しておく。
「説明になってないような……?」
地面の揺れがおさまったところで、キーラが俺から離れながら首をかしげた。
「得意で済むのかな? でもあっしのギルドマスターがすごい人なのはうれしいかも」
とアロンは言う。
「それはたしかに」
キーラは大きくうなずいた。
「さてと。次にやっておきたいことがある」
俺が手を叩いて言うと、ふたりの視線が集まる。
「次はどうするんですか?」
キーラが先に問いかけてきた。
「ラヴェンドの人間、できれば騎士団の誰かにいま起こったことを説明して、謝っておく」
俺が言うと、
「あっ」
アロンとキーラの声が重なる。
大都市ラヴェンドには直接被害はいかなかったはずだが、何にも気づかないほど平和ボケはしていないだろう。
原因探しがはじまる前に名乗り出ておくほうが、絶対に相手の心証はいい。
「大丈夫だと思うけど、いざと言うときは俺の責任だ。あなたたちは逃げるように」
だってふたりは俺の指示に従っていただけだからね。
「そんな……グレックさんを見捨てるなんてできません!」
とキーラが言う。
「そうですよ。ちょっとした実験でしたし、グレックさんがいなくなったらあっしたちは確実に路頭に迷うと思います!」
アロンも主張する。
そう言ってもらえるのはうれしいが、さてラヴェンド側にはなんて言われることやら。




