第三話
「冒険者ギルド設立。誰でも歓迎」
という貼り紙を出させてもらったのだが。
「誰も来ない」
数日後、俺はまた酒場のおじさんに話しかけていた。
「仕事を探している人が興味本位で来ると思ったんだけど」
簡単にはいかないと覚悟していたつもりだったけど、そもそも募集がゼロとは。
「あの貼り紙じゃあ情報がすくなくて怪しすぎる。どんなに仕事に困ってる奴でも、応募をためらうレベルだ」
親父さんはあきれてため息をつく。
「そんなに?」
たしかに書くことがすくないな、と思っていた。
だが、俺の経歴を語ったところで意味はない。
それに誰でも歓迎するのだから、具体的な条件を出しても仕方ないはずだ。
「調査が甘いな。有名大手でも条件を満たせば、誰でも歓迎って条件で人を集めることがあるんだ。無名のお前さんがまねしても勝ち目ないさ」
と親父さんは指摘してくる。
「なん、だと」
ギーズではそういう募集の仕方をするギルドは存在してなかった。
だって「誰でも歓迎」は案外難しいのである。
「本当に誰でも歓迎なの?」と疑う人は珍しくないからだ。
ここなら大手の知名度と信用でクリアしているのか。
たしかに調査が甘かったのかもしれない。
「悪いこと言わないから就職するか、あるいはもっと小さな町にでも行きな」
親父さんの忠告とため息が耳と心に痛かった。
正論だと思う。
「もうちょっとだけやってみたいと思う。自分の甘さに気づかせてもらったばかりだし」
と水を飲みながら答える。
だってギーズとこの都市で求人の出し方が違うことさえ、俺は見落としていたんだ。
「人の忠告を聞かない奴だな」
親父さんの視線が冷たい。
「いや、聞いてるさ」
ちゃんと聞いたうえでの判断だ。
ここで撤退は賢い判断なんだが、「ただ失敗しただけ」という結果が残るだけ。
それよりももうちょっと試行錯誤をした経験をしておきたい。
傷の浅い失敗ならしてもかまわないというのは、先代の教えでもある。
「失敗をただ恐れるな。糧になる失敗とすべてを失う失敗がある。後者は避けるべきだが、前者なら経験しても損はないさ」
と先代は言っていたし、ロレントも受け継いでいるだろう。
話したところで目の前の親父さんは信じてくれなさそうだけど。
つまり今後の人生の糧となる失敗なら、いまのうちにしておくのもアリなのだ。
ラヴェンドのような大都市に来るチャンスなんて、このあと俺の人生にあるかわからないしね。
そう思うともうすこし都市を見て回るのもアリか。
どうせお金はかかってるんだから。
「親父さんありがとう」
勘定をテーブルのうえに置いて礼を言う。
「ひとりで解決策を出してすっきりしてるくせに、イヤミか? いや、天然か」
親父さんだっていま何かひとりで自問自答したくせに。
次の日、大都市ラヴェンドを改めて見て回る。
見た目はきれいで人が多い。
いろんな店が並んでいて活気がある。
ベーカリーの前を通っても、菓子店の前を通ってもいい香りがするし。
宿代も飲食費も高めでも仕方ないと思える魅力があった。
「お前を追放する」
おや? 何か聞き覚えのあるフレーズが聞こえたぞ。
がっくりその場にうなだれる人を残し、集団が去っていく。
俺はあれと比べたらずいぶんマシだったな。
こんな大都市でも似たようなできごとはあるのか。
とは言え、かける言葉が見つからない。
よく見たら追い出されたのは若い女性だし。
俺が声をかけると、弱ったところを狙ったナンパみたいだ。
「他の場所を見て回ろう」
気分を変えるためにも。
一日かけていくつもの場所を見て回ったが、やっぱり大都市だなという感想が最初に来る。
「そしてときどき追放があったのは意外だ」
意外とレアケースじゃなかったりするのか?
それとも大都市のパーティー、ギルドともなれば人の入れ替えはけっこうあったりするんだろうか?
早くもおなじみになった酒場の親父さんに訊いてみる。
「これだけ人が多い都市だ。もっといい人材を求めて、既存の人員を解雇するのはあることだ。ただし上手くいくとはかぎらない」
という答えが返ってきた。
そりゃそうか。
必ずしも出て行った人よりもいい人材が来るとはかぎらないよね。
「お前さんが人を集めようとして、上手くいくとはかぎらないようにな」
親父さんがじろっとこっちを見て来る。
「ぐう」
流れ弾がこっちにまで飛んできた。
「しかし、ヒントは拾えたよ」
と俺は主張する。
「懲りない奴だな、グレック」
返ってきたのはため息だった。
「まあそう見えるんだろうね」
おそらく親父さんは失敗を避けることを重視している。
考え方が違うのだ。
「お前さんの人生だから好きにすればいいが」
忠告はするがそれ以上踏み込まない、ダンディな親父さん。
俺はきらいじゃないよ。
翌日から俺は求人用貼り紙の準備をして完成させた。
「経験者可。訳あり可。前のギルドを解雇された人でも、当ギルドは面接いたします」
という文章を入れておく。
俺はロレントのおかげでネガティブにならなかったけど、本来「ギルドから解雇された」のはマイナスだ。
よほど評判が悪いギルドでもないかぎり、追放された人の経歴に傷がついたことになる。
こういう人は「誰でも歓迎」と書いたところで来ない。
経歴に傷ついた自分ではどうせ相手にされない、と思い込むからだ。
「妙なことをはじめますね。これで本当に求人するんですか?」
貼り紙をのぞきこんでふしぎそうに言ったのは、近くのカフェで働いているアンナさんだ。
「あ、やっぱり前例がないんだ?」
普通求人を出すときって「訳あり歓迎」なんて文面を入れないもんな。
「すくなくともあたしは知らないですよ」
アンナちゃんは苦笑する。
年齢は俺は変わらないと言っても、大都市のカフェ店員で社交的な性格の彼女が知らないなら、すくなくともここでは初めての試みだろう。
「ツテも知名度もない俺が人を集めようとしたら、開き直るしかないって気づいてね」
と説明すると、アンナちゃんはあきれてしまった。
「まず、開き直らなくてもいい状況に持っていくほうが大切なのでは?」
「それはそう」
正論パンチやめてください。
アンナちゃんはかなり可愛いのでかなり効きます。
「あたしは応援しますけどね。どうなることやら」
と言ってアンナちゃんは去っていく。
アンナちゃんは普通にいい子なので、俺個人の味方という可能性はない。
きっといろんな人の幸せや成功を願える性格なのだろう。
さすが大都市だ、あんな女の子もいる。
求人広告には待ち合わせポイントを書いておいた。
さて、今日に誰か来てくれるだろうか?
ひとりくらいは来てくれるとうれしいな。
そう思っていたら、一時間ほど待ってからひとりの小柄な女の子がやってきた。
「あのー……訳あり可、他のギルドから追い出された人でも面接してくれるって、本当でしょうか?」
おどおどと上目遣いで見て来る。
黒い帽子にゆったりとした灰色のローブ、安物っぽい杖。
典型的な魔法使いのファッションだ。
「ああ。面接で判断するからね」
と俺がうなずくと、女の子はすこしほっとした顔になる。
もしかして「誰でも歓迎」の場合、面接もなしに追い返されると思って応募してこなかったのかな?
「俺はグレックだ。まずあなたの名前と得意分野を教えてもらえるかな」
と俺は言う。
こっちの名前は広告に書いてあるのだが、一応名乗った。
「えっと……キーラです。得意なのは死霊系魔法です」
キーラと名乗った子は、おどおどとしながら自分の指先からゴーストを出して見せる。
「なるほど」
死霊系魔法使いか。
きらわれやすさでは有数だなぁ。
「誰でも歓迎」と書いても来なかったのに、「訳あり可」ならやってきた理由として、説得力があまりにもありすぎる。
「見た感じ、魔法をちゃんと制御できているよね」
「は、はい」
キーラは俺の確認を必死に肯定した。
「じゃあ採用」
と俺は即決する。
「ほ、ほんとですか?」
キーラは信じられないという表情で俺を見つめてきた。
「何となく察してると思うけど、えり好みしてる余裕がこっちにはない。だから魔法を制御できていて、俺の指示に従ってくれるなら合格だよ」
さすがに譲れないラインというものは存在する。
「よ、よかったぁ……」
ただ、安堵のあまり地面に座り込み、涙ぐむようなら心配なさそうだ。




