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皇女殿下は恋をご所望  作者: 伊吹永実
第一章 花冷えの追跡者
6/11

6話「宮廷サロンの前」

「…………ぐー」

「姫様、朝でございます。しっかり目をお開けになってくだいませ」


昨日の怒涛の出来事に疲労困憊した私は、本日ちょっと寝不足です。


ここは『深窓』

その中の、ユノの実の母である第二皇妃のエリアと定められた一角だ。


来月には十六歳になるユノはそれまでは母の保護下であるこの一角の部屋を使っていた。

新たな皇女宮は既に定められていて、いずれはそちらに引っ越しが予定されている。


見慣れたこの景色もそろそろ見納めになるのかな、と思いながら、皇女付き女官であるセレネが中心に給仕してくれる朝食を食べ


「お母様はどうされたの?」

「本日は陛下と共に神殿からの御使者と御面会されますので、『外苑』にお出ましになっておられますよ」

「朝早いのね…」

「陛下とご朝食をご一緒されますのでお早いのです。姫様もしっかり召し上がって下さい。そろそろ講師の方々が来られますよ」


言うなら、今だ。


巷では【フォーチュネ】と呼ばれる花。


その花が宮廷サロンに搬入されたことを突き止めていた。

流石にご婦人方集うサロン会中に見るのは難しいだろうけど、

解散した後くらいにちょっと覗きに行くことは可能だろう。


朝食を終え、口直しのお茶を出された。

セレネが近くに立ったところを狙う。


「セレネ、私―――サロンを見てみたいわ」


少し見上げる角度でユノは精一杯おねだりをした。


セレネはまだ三十歳代、小さい頃から仕えてくれている女官だ。

私の性格や言動はしっかり把握してくれている存在でもある。


だから何を言っても大抵は穏やかに受け止めてくれるが、

なんか、―――動き止まった。


「それは、……大変良い事でございますね、とても嬉しく思います」


にこっと優しいお姉さんという微笑みを返してくれる。


「話題の花が見てみたくて…出来れば早めに行ってみたいのだけど」

「承知いたしました、では近日中のサロンの予定を確認いたしますね」


セレネは自然な所作で一礼をし、私の傍から静々と離れてその場を他の者にまかせ、

一旦退室していく。


よ、よし!いけた!!




Side:セレネ


「姫様が何やら企んでいらっしゃいます」


女官セレネは、皇女の実母である皇妃からの信頼も厚い女官だ。

一旦退室しユノのおねだりを叶えるために即座に動いていた。


セレネの前には立つのは皇女付き護衛騎士オスカーは眉を下げる。


「そうか、このところシリウス殿下と何やらコソコソやってるようだったぞ」


「いつものことではございますが、……サロンをご覧になりたいとは」


宮廷サロンとは宮殿の数ある居室の一部を貴族たちの為に解放され、

日々の情報共有や、交流の為に開かれる場所のことだ。


セレネが一拍おいて


「ですがようやく社交にご興味が出た。ととらえれば悪くない事ですね」


「……サロンに参加したいとおっしゃったのか?」


「――そうではございません。御覧になりたいと…貴族のご夫人方の御交流を拝見されるのはいい機会でしょう」


「セレネ、それは」


「ただ見るだけでは知れない事もございましょう。

流行りの花というならば、それこそ社交界のご夫人方が最も適任でございましょう」


オスカーはセレネの夫でもある。妻の言動にやれやれと息をつく。

夫婦そろって皇女に仕え、皇女の今後の成長について共に向かい合っていた。


そうしているとトントンと扉がノックされた。


セレネが依頼したサロンの予定表は―――数十分という速さで届けられた。


「……やはり皇子殿下が一枚かんでおられますね」

「これならカイルも動いているな」


あの三人は…とため息をつく。

だからこそ、安心でもあるセレネは複雑な思いを押し殺しながらも

届けられた書類を捲っていく。


その後、セレネとオスカーにより本日午後のサロンの予定から1件をピックアップした。

早々に主催に連絡、承諾を取り付けた。


「本日のサロンの一つに、姫様のお望みの花を話題の一つとしたお茶会が開かれます。そちらにお顔をお出しになる手筈を整えました」


「えっ!」


ユノの予想を大きく飛び越えたセレネの言葉に驚愕した。

そ、そんな話してました?しかも今の今日!?


「本日は少し通りすがりに顔を見せた、という態でよろしいのではないでしょうか。

流行について皆さま、博識の方ばかりでございます。そのお話と共に間近でご覧になれます」


驚く皇女を安心させるような、

そして決定事項である事も――しっかりと伝わる様に

セレネは全てを手配していた。


にこり、と微笑むその姿は有無を言わさぬ圧を感じた。


「…その、花をみたい、だけというか」


「折角でございます、直接……お噂もお聞きになられましたら姫様の興味を更に満足していただけるのではないかと、考えております」


「そうかな、そうかも……え、そうなの――」


サロンの警備も宮殿の『深窓』から数名だし、警備を1ランク上げること承認されているとも、


なんでこうなったのか……がく。


そんなユノをよそにセレネには確信があった。

見る、だけより実際に噂を耳にするということが重要であると。


(姫様のお立場で社交は何時までも避けられない。この機会しっかり活用させて頂きます)


セレネはすぐに他の女官、侍女を集め準備に取り掛かる。


「では、―――まず衣裳部屋を開けなさい」

「宝飾箱の鍵の用意も、皇妃殿下の御承諾も得ています」


それからは目まぐるしく時間が過ぎる。

朝の講義や予定は最小限に終わらせ、湯あみをし、肌の手入れ、指先からつま先まで

効率よく磨き上げられていく。


(姫様は十分に魅力的でいらっしゃるけれど……、最初が肝心です)



サロン開始は15時ごろ―――。

顔を出す時間を調整するころにはユノは出来上がっていた。


「大変お美しいです、姫様」 セレネは満足げに微笑む。


薄曇り色と称される灰色の髪は艶やかで、同じ色味の瞳には少し金を思わせる色が入っている。

不思議な色味だ、周囲にも見かけない。その特別感はユノ自身気に入っていた。


髪飾りに薄紫から白、薄紅色へと変わる魔法石を使って作られた小さな玉の連なり。

一つ一つに幾年の帝国の歴史の中で、皇女、の為に編み込まれた魔術が施されている、らしいという一品だ。


白を基調とした皇族由来のドレス、薄いベールや布の装飾が重ねられていて、可愛らしくも上品だ。

かつて顔を見せぬ慣習を持った皇族の名残らしく、由緒正しいそれらを今風に軽やかに仕立て直されている。


派手さはないが、織りや刺繍の細部には確かな格がある。

最後に、皇族の証である金細工を飾りを胸元へと付ける。


幼さがまだまだ残る容姿、

意思の強さなのか力ある瞳が、皇女の高貴さを表しているようだった。


(…………優秀だって知ってるわ…セレネ)


ユノは姿見に映し出された自分の姿に遠い目になる。

薄化粧に施した頬と唇には淡い色の紅がとてもよく映える。


よし、いいぞ…………可愛いな私!!


泣きたくなる気持ちを抑え込み、

ユノは己を奮い立たせるよう、テンションを上げていた。

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