05
歓迎会を兼ねた食事を終え、わたしは宿に戻る。そのまま、ベッドへと倒れ込むようにして、枕に顔を押し付けた。
「うわぁあああ」
枕に顔を押し付けて声量も押さえたので、多分、周囲の部屋へは届いていないはず。
一人で部屋を借りてはいるけれど、防音性が高い宿ではないため、あまり騒ぐと声が漏れる。他のパーティーメンバーもこの宿を借りているので、何事かと様子を見に来ることだろう。
それでも、わたしは声を上げずにはいられなかった。なんと表現したらいいのか分からないこの感情は、声を出さないと発散できそうにない。
……わたしを探しに来たんだって。あのマグラルド様が。
その事実だけで、顔がにやけてしまう。
ごろごろとベッドの上でのたうち回っていたわたしだが、ハッとなって体を起こす。
――いや、喜んでいる場合じゃない!
マグラルド様から婚約破棄を言い渡されて、わたしは決めたじゃないか。
一人で生きていくんだって。
未練たらたらなのは事実なのだが、婚約破棄を言い渡したマグラルド様は、それはもう、あっさりとしたもので。この人の人生にわたしは必要ないんだな、と思ったら、それはもう、泣けたものだ。今でも、そのことを思い出すとちょっと死にたくなる。本当に死のうとはしないけど。
でも、あまりにも淡々としていたものだから。わたしがしつこく食い下がったら迷惑なんじゃないかって。
だからこそ、わたしはあの伯爵令嬢に妃の地位を譲ったのだ。今更彼がここに来たところでその事実は変わらない。わたしの代わりに王城聖女となった伯爵令嬢が偽物の聖女だと判明したのなら、彼女との婚約が継続しているとは思えないけど……。
い、いや駄目だ! そんなことを考えてたら!
とにかく、わたしはマグラルド様に、彼が探している聖女がわたしであるとバレてはいけない。わたしと違って、彼はわたしに未練なんて欠片もないのだろうから。
そうじゃなきゃ、あんなにあっさり婚約破棄してくるものか。
わたしを探している、と言ってくれたマグラルド様には悪いけれど、わたしが彼の探している聖女だとバレたら、二年も前に追放されたのに、ジュダネラル王国の隣国であるライノートル公国にいて、その上、国境付近に住んでいたのもバレてしまう。二年も経ってまだ未練があるのかよ、キモ、とか思われたら、それこそ生きていけない。
それに、『障り』を浄化する聖女という職は、文字通り女性にしかなれないものだ。
折角、男として振る舞い冒険者になっているのに、女性だとバレたら非常に面倒くさいことになる。回復役の女性冒険者って、パーティー内の性欲のはけ口みたいに扱われることが多いし。もちろん、わたしの仲間がそんなことをするわけがないけど、他の冒険者を信用できるかどうかはまた別の話。
リリリュビさんみたいにパーティーリーダーをしているか、物理的に力のある女じゃないと、すぐに手を出される。
かといって、この辺だと女がすぐに稼げる職業といったら娼婦か娼婦に片足を突っ込んだ食事処の給仕しかない。まともな職業は家族経営ばかりで、嫁にいくしか職に就く方法はない。
でも、そういう相手はマグラルド様しか考えられないのだ。
国を出ることになった日、元よりわたしには過ぎた相手だったのだと思うことにしたはずなのに、つくづく我ながら情けない。
バレないように頑張らねば、と思い、明日に備え寝ようと思ったのだが――全く眠ることができなかったのは、言うまでもない。




