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マグラルド様は、今、わたしの夢を見ているのだろうか。でも、どうして、そんなに苦しそうなの。
わたしが、夢に出てくることは、悪夢だとでも?
「――……」
そこまで、わたしのことが嫌いだったのだろうか。なら、どうして、指輪を大切そうに持っているの。
彼の考えが分からなくて、ただただ、苦しい。きっぱりと諦めようと思って、名を捨て、男装をして、聖女時代とは全く違う生活をしているのに、何一つ、マグラルド様への感情が捨てられないでいる自分が、情けない。
「――、ごほっ、げほッ!」
酷いせき込みに、わたしはハッとなる。息が荒い。明らかに、体調がおかしい。
これはもう、一度、起こした方がいいだろう。こんな状況では、絶対に体は休まらない。
「マグラルド――、ッ!?」
揺さぶって起こそうと、彼の肩をつかんだ瞬間。ぞわり、と、内臓を撫でられるような、そんな不快感が身を上り、思わずマグラルド様から手を放し、自らの胸元をぎゅっと握る。
ドクドクと、悪い意味で、心臓が暴れる。
「なん、なんで――?」
この感覚は、聖女を勤めていたときに、嫌と言うほど味わったもの。
――『障り』そのものに触れたときに体に走る感覚、そのものだ。
でも、『障り』とは、土地に溜まるもの。人に移ることはないとされている。誰にでも可視化できるほど、淀み、その地に溜まった『障り』は触れることができても、黒い煙のようなもの。体内に取り込むことはできない。
『障り』の溜まり切った土地は、生き物が住むことに適さない。しかし、それは農作物や植物が成長しないことにより、食料等が確保できなくなるから住めないようになるだけで、可視化された黒い煙にどれだけおおわれても、その土地に住んでいるから『障り』が人に溜まることはないと、ちゃんと証明されているのに。
混乱しているうちにも、マグラルド様の息はどんどん上がっていく。苦しそうに顔が歪んでいく。
見ていられない。
「――ッ、マグラルドってば!」
わたしは、覚悟を決めて、もう一度、彼の肩をつかんだ。
――今度は、なんの不快感もない。ただただ、彼の着ている服の感触がするだけ。
……さっきのは、気のせいだったの? いや、わたしが『障り』の感覚を間違えるわけ――。
混乱していると、ぴたりとマグラルド様の呼吸が止まった。
止まっ――えっ!?
嘘、死んだ!? そんなことないよね、荒い呼吸が収まっただけよね!?
慌てて脈を測ろうと、肩の近く、首筋に手を伸ばした瞬間――。
――シャリン。
マグラルド様が、剣を抜いた。




