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ぱちぱちと爆ぜる音を聞きながら、わたしはたき火を凝視する。
する、けど――つい、視線はマグラルド様の方へと向いてしまう。
食事を終え、すっかり陽も落ちて暗くなり、彼は仮眠を取ると言って、椅子に座った。その体勢では疲れるのでは? と思ったけれど、剣を抱いていると、上手くバランスが取れて寝やすい恰好があるのだという。
わたしには全く理解できないし、普通の剣士でもやらないとは思うんだけど、マグラルド様本人が一番仮眠がしやすい寝方だというのなら、まあ、それでいいか。
目を閉じた彼は、寝息を立てていて、ちゃんと眠っているようだ。休めないでしょ、と思ったわたしとは裏腹に、マグラルド様はちゃんと休息を取れているらしい。
それにしても――顔がいいなぁ……。
顔の造詣が整っているのは分かっていることだけど、背が高いし、目つきも鋭いしで、起きているときはどうにも厳しさや威圧感のようなものを強く感じてしまう。
でも、今のように、目を閉じていると、少しだけ、幼く見えるから不思議だ。彼が活動しているときは絶対に思わない、可愛ささえ、あるように思う。
寝顔を見るのは良くない、というのは分かっているけれど、こんな機会、そうそうないので、つい見てしまうのだ。
「まあ……少しくらいならいいか。――祝祈歌唱」
わたしは小さく詠唱すると、鼻歌を歌い始めた。聖女魔法の一種。声に浄化の魔法を乗せて、遠くへと響かせる魔法。
手が届かない場所に漂う『障り』を浄化する魔法だが、目に見えるほどの『障り』がない場所では、眠っている人の悪夢を取り除く魔法にもなる。『障り』が影響して悪夢を見やすくなるらしいので。
全く同じ詠唱のものが守護魔法にもあるので、仮にマグラルド様が起きていたところで、わたしが聖女であることがバレることはないだろう。守護魔法の方は、悪夢を取り払うことはできないが、寝ている人間の回復力を高めることができる。
少しくらいは、いい夢を見て眠って欲しい。
そう思って、起こさない程度の声量で歌ったのだが……。
「――ぅ、ぐッ」
なぜか、マグラルド様がうなされ始めてしまった。
びっくりして、歌うのを辞めて彼の方を見ると、眉をひそめて、実に苦しそうな表情をしている。
そんな馬鹿な。この魔法は、使う人間の歌唱力は関係ないから、仮にわたしが歌うのが下手だったとしても、彼を苦しめるようなことはないはずなのに。
「ま、マグラルド……?」
わたしは思わず、声をかけてしまう。このままうなされてでも、仮眠を取った方がいいのか、悩むところだけど……。
彼に呼びかけた声は小さかったのか、目を覚まさない。あまりにも酷いようなら、たたき起こした方がいいのか悩んでいると――。
「ペル、アディア……ッ」
――彼が、かつてのわたしの名をつぶやいた。




