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わたし自身、筋肉のついた男が好み、という自覚はなかったけれど、マグラルド様の鍛え上げられた体は、芸術の領域だと思う。さっき、ちらっと見えた薄い傷跡も、それはそれで、彼の鍛錬へのストイックさを表す美しさと言うか。
いや、駄目だって、忘れないと! そういう目でじろじろ見られることは、誰だって不快なはず。
そう思っても、わたしの頭の中には、上半身裸のマグラルド様がちらついてしょうがない。水でも頭から浴びてきたら冷静になるかも……。いや、今水源を探しに行くのは得策じゃないか……。でも、マグラルド様がお湯を沸かしたのなら、どこか近くに川があるのかな……。
「――……そうか、すまない」
不埒なことを考えたり、冷静さを取り戻そうとしたり、賑やかな脳内になっているわたしとは裏腹に、マグラルド様はおとなしく引き下がってくれた。
「こっちこそごめんね、先に言っておけばよかったかな。あはは……」
わたしが笑うと、その後、微妙な沈黙が訪れる。わたしもマグラルド様も黙ってしまった空間に、マグラルド様が着替える音だけが響く。
布擦れの音なんて、そんなに大きなものじゃないのに。なんか、静まり返った空間に、着替えの布擦れの音だけが響くって、すごく……えっちでは?
――いや、そんなこと考えるな! ふしだら! 嫁入り前なのに、恋人でも婚約者でもない男相手にそんなことを考えるなんて、はしたなすぎる。
……まあ、正直、嫁入りは諦めてるわけだけど。
パチン、と一際大きな音が聞こえると、布擦れの音は聞こえなくなった。そういえば、襟元に金具があったから、それを止めた音かな……と、マグラルド様の服装を思いだしながら考える。
うーん、ちょっと残ね――いや、わたしは何も考えてない。何も考えてないってば!
「あ、あのさ――」
「――すまない」
パッと振り返って声をかけようとすると、マグラルド様もちょうどわたしに話しかけようとしていたようで、声がかぶる。
「あっ、ごめん。ボクは後で――」
「――そちらが先でかまわな……」
会話を譲ろうとした言葉が、再度互いに被る。タイミング最悪。
今度こそマグラルド様に話の主導権を渡そうと黙っていると、彼もまた、口を開かない。
か、考えることが同じ……!
わたしは黙って、手を差し出し、無言で会話を譲ることを伝える。流石にこれ以上譲り合うのは無駄だと感じたのか、マグラルド様は素直に応じてくれた。
「ディアン、先ほどはすまなかった」
――けど、急に謝りだすものだから。わたしは訳が分からなくて、首をかしげることしかできなかった。




