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山道を歩く道中。わたしたちは、ずっと無言だった。
マグラルド様は元々無口な方で、雑談もあまりせず、必要なことしか話さないような人。わたしはそこまで黙り込むようなタイプじゃないけど、今は歩くのに必死で、軽口を叩くような余裕はない。
リリリュビさんやザフィールがいれば、もう少し明るい雰囲気になったのかな、と思いながら、わたしは歩く。あの二人はムードメーカーというか、話をしているだけでその場の空気が軽くなる。
ああいう話術があれば、マグラルド様と婚約していた頃に、もう少し関係を深められたのかな、と思ってしまう。
いや、だって、わたしはなんだかんだ出自が平民で、向こうは生粋の王族。気安く話しかけられるような相手じゃない、と、なかなか声をかけられなかったし、時間が経って慣れてからは、逆に初対面から月日が経ちすぎて、妙な壁ができてしまっていた。
おかげで、わたしたちは業務連絡のような会話がメインだった。マグラルド様の働き過ぎや無理をしていることに対して声をかけることも多かったけど、ほとんど「問題ない」で片づけられちゃって……。いや、あれはわたしの言葉が心配だと気が付いていなかっただけらしいけど。
でも、普段から業務連絡ばかりしている人間が、「働き過ぎではないですか」「無理をしないでお休みください」と言ったところで、それが素直に心配だから、と言う風には取られないような……いや、そうか?
「――ディアン」
「ぅわ、はいっ!」
考え事をしながら歩いていたからか、急にマグラルド様に声をかけられ、変な返事をしてしまった。
しかし、マグラルド様は気にした様子もなく、「あれは……」と、少し先、下の方を指す。
マグラルド様の指の先には、明らかな建造物があった。しかし、明らかに人の気配はない。誰もいないようだ。
「わっ、運がい……い」
昔のことを考えていたからか、思わず敬語を使いそうになってしまい、慌てて修正する。
「こんな山奥に人が住むものなのか?」
「いや、あれは家じゃなくて、休憩所だよ」
少し歪な東屋に、布で壁が作られている、いかにも簡易的な建物。
あれは、先人の冒険者の誰かが作ったものだ。山の中や森の中で、かつ、大型の獣や凶悪な魔物が出ない場所では、たまに見かける。遠出や野宿に慣れない初心者のために、先輩冒険者が作っておくものなのだ。
場所によっては、作ったら取り壊さないといけない決まりがあるところもあるが。知能が高い魔物なんかの縄張りに造ろうものなら、一瞬で乗っ取られて拠点にされて、集落ができてしまうので。
結構な山道だと思ったけれど、立地的には初心者向けのフィールドだもんね、ここ。初心者冒険者のための休憩所が用意されていてもなんら不自然ではない。




