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普段、表情をあまり崩すことのない彼が、ここまで露骨に顔を変えるなんて。よっぽど痛いに違いない。
「どこ、どこ怪我したの! ほら、ボクが治すから……っ」
体制を直し、しゃがみこんでいるマグラルド様へ、わたしも起き上がって手を伸ばしたが――ぱし、と、手を振り払われてしまった。
「あ――す、すまない」
マグラルド様はすぐに謝ってくれたけれど、わたしは弾かれた手を抑えることしかできない。
手を叩かれ、拒絶されたのが信じられなくて、わたしは呆然と、それ以上何か言うのは無理だった。
「おーい! 大丈夫ーッ!?」
わたしが言葉を発せないでいると、上の方から、リリリュビさんの声が聞こえてくる。
リリリュビさんの声で、正気に戻った。今、泣くのをこらえている場合ではない。早く合流しないと。
リリリュビさんの方を見ると、わたしたちがどれだけ転げ落ちてきたのかが分かる。崖、というほどのものでもないけれど、結構な急斜面。よくもまあ、大した怪我もなく転がり落ちれたものだ。
ここを道具なしで上るのは、結構骨が折れそうだ。
「――ッ、問題ない!」
そうやってリリリュビさんに返事をするマグラルド様は、いつも通りの無表情に戻っている。まるで、さっきの動揺している姿は、見間違いだったかのように。
「上れるーッ!?」
「な、何かロープがあれば……ッ!」
リリリュビさんの言葉に、わたしはそう返す。荷物も結構あるし、この斜面を、補助なしによじ登るのは厳しそう。
わたしの返答に、リリリュビさんはロープを垂らそうとしてくれたが……彼女が今持っているものでは、圧倒的に長さが足りない。マグラルド様ですら届きそうにないのだ。わたしが手を伸ばしたところで、そのロープには指先がかすりもしない。
「……こちらにも道がある。無理に上るよりも、ここは一度分かれて、隣街にて合流した方が得策ではないか?」
あたりを見回していたマグラルド様が指さす方向には、確かに道らしきものがあった。整備されているものではないが、明らかに、人が行き来している形跡がある。
「リリリュビさん、道がこちらにもあります! ボクたちはこちらから行くので、隣街で合流しましょう!」
わたしがそう言うと、リリリュビさんは少し考えた後に、その提案を受け入れてくれた。この山には大型の獣はいないし、分断された戦力でも、それぞれ倒せるだけの魔物しか出ない。
こうして、わたしはリリリュビさんたちと分かれ、マグラルド様と二人きりで隣街を目指すことになってしまったのだった。




