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転ぶ、と思わず目をつむったが、わたしがぶつかったのは、冷たい地面ではなく、もっと硬い何かだった。冷たいには冷たいんだけど……草や土の感触は一切ない。
目を開けて確認すると、わたしが頬をつけているのは、マグラルド様の防具だった。
――ま、マグラルド様の防具!?
「怪我はないか?」
そうやってわたしに問いかけてくるまぐラルド様。どうやら、わたしが転ばないよう、抱きとめてくれたようだ。
「だ、大丈夫――ッ、!?」
バッと勢いよく離れようとしたが、今度はマグラルド様の方がバランスを崩す。そこまで不安定な足場でもないし、わたしが勢いよく押したところでびくともしない人だと思ったのに。
予想外のことに、わたしは驚いて、その場でさらに足を滑らせた。反射的に、マグラルド様がしりもちをつかないように、引き寄せようとしてしまった結果がこれである。
非力なわたしがマグラルド様をうまく立たせることができるわけもなく。わたしたちはそのまま足を滑らせ、ごろごろと、かろうじてあった山道を外れ、斜面を転がり落ちてしまった。
「痛てて……。――ッ、ヒエッ」
目を開けて状況を確認すると、マグラルド様がわたしの上に覆いかぶさっていた。まるで押し倒されたような体制である。
なんて眼福――ではなく!
「ごめん、平気!? 怪我は!?」
わたしはマグラルド様に押し倒されながらも、彼の体を見る。手足が曲がっちゃいけない方向に曲がっている、とかはなさそうだけど……。
「ごほ――ッ、ごほッ! ……ああ、問題ない。擦過傷はあるだろうが、骨に異常はない」
「……? そ、そう?」
一瞬、マグラルド様がせき込んだときに、黒く歪んだものが見えた気がした。
……まずい、頭打ったのかな……。
二人そろって落ちたのだ。マグラルド様の防具に頭を打ち付けてもおかしくはない。視界に異常が出ているなんて、体中が痛いので分かりにくいだけで、頭を打ったのかも。
「――怪我治癒」
一応、自分の頭に手をかざし、治癒魔法をかけておく。頭にかけたからか、ちかちかっと一瞬目の前が明滅する。
この感覚、嫌いなんだよね。
とはいえ、すぐに治すのならばこれを使うのが一番だ。仕方がない。
「……! 頭を打ち付けたか?」
「いや、念のためだから、そこまで気にしなくても平気だよ。なんだか、今、黒いものが見えた気がして。頭を怪我していたら大変だから、念のため、一応ね」
心配しなくていい、という意味で言ったのだが、マグラルド様は分かりやすく動揺した。ひゅっ、と息を詰まらせ、顔は真っ青。
まさか――マグラルド様も頭をぶつけて、傷みだしたとか!?




