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二日後。
「マグラルドくんが探してた人なんだけど、どうやら一回、この街に寄ってるみたいよ」
宿屋の食堂に皆で集まって朝食を食べているときに、リリリュビさんが言った。わたしは思わず、咀嚼していたパンを喉に詰まらせそうになって、無理矢理飲み込む。
「二年前、『エーデルヴルフ』に来たみたい」
たった一日でそこまで情報を集めてくるリリリュビさんに、恐ろしさを感じる。リリリュビさんのことだから、すぐに情報を集めるだろう、とは思っていたけれど、予想の三倍くらい早い。もう二、三日はかかると思っていたのに、何一つ、バレないための対策を思いついていない。
確かに二年前、この国、この街に来たばかりのわたしは、『エーデルヴルフ』を利用した。
「エーデルヴルフ……?」
聞きなれない言葉に、マグラルド様が怪訝そうな声音で繰り返す。
「そ。エーデルヴルフ。宝石運びのモグラ、ってね」
リリリュビさんが、マグラルド様のために説明していた。
『エーデルヴルフ』というのは、娼婦を秘密裏に逃がしてくれる組織の名前だ。
この辺りは娼婦が多いものの、全員が全員、望んで娼婦という職に就いたわけではない。お金のために仕方がなく、という話なら可愛いもので、騙されて売られた、という女性も少なからずいる。
そんな女性を、娼館からばれないように、変装させ、別の街へ運んでくれるのが『エーデルヴルフ』なのだ。
わたしはその組織を頼り、髪を切ったり、服を代理で購入してきてもらったり、変声の魔法をかけてもらったり、髪や目の色を変える薬を用意してもらったり、と、男装するための手助けをしてもらったのだ。
ただ、絶対に外へとばらさないでほしい、と、ある程度お金を握らせたし、組織の性質上、利用した女性のことを軽々しく口にしたりはしない。
なのに、まさか本当にそこから情報を引っ張ってくるなんて……。この人の人脈は一体どうなっているの。
「まあ、流石に、その後どこへ行ったかは分からなかったけどね。ただ……あたしの勘だと、この街にいるか、もしくは近辺の街にいると思う」
その言葉に、マグラルド様がむせ、せき込んでいる。よっぽど変なところに唾液が入ったのか、げほげほと。
「……大丈夫?」
思わず声をかけるが、「――……失礼、問題ない」とあっさり言われてしまった。
「んで? その根拠は?」
そう聞いたのはザフィールだ。つい先日、わたしに対して牽制のようなことを言っていたからか、ちらりと一瞬、わたしのほうを見る。……だから、ザフィールが心配するようなことはないんだってば。




