29
ザフィールに肩を貸してもらいながら、わたしは借りていた宿の部屋へと戻ってくる。もしもマグラルド様にこれだけ密着されていたら、照れと恥ずかしさで逆に一歩も動けなくなっていただろうが、ザフィール相手では、思うところは何もない。
「ざいーる、くつだぇおねがい」
わたしをベッドに腰掛けさせてくれたザフィールに、靴だけ脱がせてくれ、と頼む。ブーツの靴ひもを、今のわたしは、ほどくことができる自信がない。
でも、流石に着替え等は頼めない。性別がバレてしまう。
「はいはい、ここまできたら最後まで、おおせのままに」
呆れたようなため息を吐きながら、ザフィールがわたしの前に膝をつき、ブーツのひもをほどき始める。ザフィールが酷く酔っ払ったときには、わたしが介抱しているので、彼だって文句はあるまい。
――が。
ザフィールは、ピタリと途中で手を止めてしまった。
「――……なあ、ディアン」
「……あに」
妙に深刻そうな声を出す彼に、わたしは、何、と聞き返す。ちゃんとした言葉にはならなかったけど……まあ、お酒によってわたしのろれつが終わっていることはザフィールも分かっているだろうし、会話は成立するだろう。
「あのさ、聞きたいことがあんだけど」
その証拠に、ザフィールはわたしに言葉を聞き直すことなく、話を続ける。
少し言いにくそうに目線を逸らしたのが、頭の動きで分かった。
……何を言うつもりなんだろう。
「お前――マグラルドのこと、好きなのか?」
「は――、はぁっ!?」
唐突な質問に驚いて、わたしは思わずザフィールの顎を蹴り飛ばしてしまった。「ぐっ!」とザフィールがうめき声を上げながら、顔を上に逸らした。
「ご、ごぇ、ごめ、ん!」
蹴るつもりはなかったのだが、驚いた反射で、足が上がってしまったのだ。そして、体のコントロールができない今は、わたしの予想以上に勢いよく動いてしまって。
ザフィールは顎をさすりながら、「その反応、やっぱマジなんだな」とこちらを見る。
「あ、あ、あ、な、なぁに、まりゅこらさんみたいなこと、いってうの!? ざいーるも、れんあいのーなの!? ばか!」
ついでに、「だいたい、おとこどーし!」と言っておくが、ザフィールの雰囲気に、わたしはそれ以上何も言えなくなってしまった。
マルコラさんは、明らかにわたしをからかう意図があったし、元より恋の話が好きな人だったから、もっと明るい空気ではあった。
でも――今のザフィールからは、凄く、深刻な何かを感じる。
「別に、オレは男同士とか、そういうの、どうでもいいんだよ。……いや、オレは女がいいから、オレの話になったら別だけどよ」
そう言いながら、ザフィールは、わたしの靴ひもをほどかないままに立ち上がり、椅子を引きずってわたしが座る近くに置き、彼はそこに腰を下ろす。
「論点はそこじゃなくてよ。……あのさ、オレが他の冒険者パーティーに追い出された話はしたよな?」
そして、真剣な表情でもって、ザフィールは話始めた。
その様子に、わたしは思わず、ごくり、と唾を飲み込んだ。




