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くら、っと一瞬、目の前が歪んだと思ったときにはもう駄目だった。周りが酒飲みばかりで、カップに口をつける程度では酒臭さに違和感を抱かなかったらしい。
カップを机に置くが、思ったよりも大きな音が出る。
「…………やぁかした」
すぐにろれつが回らなくなったわたしに、「あーあー」とザフィールが笑う。
お酒をどれだけ飲んでも意識はハッキリしているし、記憶を失うこともないのだが、一口飲むだけですぐに体の方に異変が出るので、普段は飲まないようにしているのに……。
具体的に言うと、ろれつが回らなくなるのと、まっすぐ歩けなくなる。そういう体質なのだとは分かっていても、我ながらびっくりするくらい駄目になる。
意識はしっかりしていて酔ってない気分なので、余計に恥ずかしい。
わたしにとってお酒は、ただ単に、体の制御ができなくなるだけの毒みたいなもの。他の人みたいに、楽しい気分になれればまだ話は別なのに。
「――、ぷは。リリリュビさんも結構酔っ払ってるし、ディアンはこんなだし、今日はもうお開きにすっか」
わたしが間違えて飲んだ酒を、ザフィールは一気飲みする。マルコラさんとザフィールはお酒に強いらしく、全然酔ったところを見たことがない。ザフィールはたまに二日酔いでうめいているけど、それでもお酒を楽しめる、というのはうらやましい。
「そうだねぇ。聖女探しはまた明日にでも話そうか。……ほら、リリちゃん、おうち帰るよ」
会計をテーブルの上に置いてから、ひょい、とマルコラさんがリリリュビさんを抱き上げる。先ほどまでは騒がしかった彼女も、マルコラさんの腕の中ではすっかり大人しくなり、寝息すら立て始めた。
リリリュビさんがこんななら、わたしがお酒を飲まなくたって、食事も終わりになっていただろう。
「では――」
「ざいーる、おくってって」
わたしはマグラルド様が何か言う前に、ガッとザフィールの腕をつかんだ。
こんな情けない状態をマグラルド様に見られるわけにはいかない。今まで彼の前でお酒を飲んだことがなく、醜態をさらしたこともない。そのまま、こんな格好悪いわたしのことは、知らないままでいい。
「ん? あー、まあ、オレはいいけど……。――ぅ、はいはい、分かりました送ってやりますよ」
ちら、とマグラルド様の方を確認しようとしたザフィールの腕に、爪を立てる勢いで力を込めた。わたしの力がそんなにあるとは思わないけれど、言いたいことは察してくれたようだ。
「じゃ、また明日ね」
マルコラさんの言葉と共に、今日のわたしたちは解散となった。




