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わたしが借りていた部屋にたどり着いても、部屋の中に入るのが精一杯で、部屋に入っても、わたしは入口付近で立ち尽くしていた。
「えっ……えっ?」
ようやく、先ほどのやりとりの処理が追いつきてきて、わたしは思わず声を上げる。
マグラルド様、わたしと作った指輪を大切に持っててくれた? ていうか、なんなら、別に、聖女時代のわたしの言葉が届いていなかったわけじゃなかった?
なんなら――笑ってなかった?
「~~~~ッ」
わたしはその場にしゃがみこみ、声にならない声をもらす。状況を理解できてきたことで、分かった事実が、あまりにも大きすぎる。
婚約破棄をしたのだし、一人で生きていくと決めたのだ。マグラルド様に期待をしてはいけない、と分かっていても――諦められない気持ちを認めざるを得ないのには、十分だった。
「……はぁ」
わたしは立ち上がり、よろよろとベッドに倒れこむ。事態が事態すぎて、体に力が入らない。
わたしは、ベッド横の棚に置きっぱなしにした装備の中から、カバンに手を伸ばす。斜めかけの、小さいカバン。財布と、ちょっとした応急処置用の道具が入っている。
財布や応急処置の道具をかき分けると、カバンの底の方に、隠しポケットが出てくる。カバンを作った人の意図としては、財布をすられないように、とか、そういう意味で作ったのだろうけど……そのポケットから、わたしは、小さな革袋を取り出した。紐で調整して開け閉めするそれ。
その中には――先ほど、マグラルド様が落とした指輪と、同じ意匠の物が入っている。
二人で作った、婚約指輪の、わたしの分。特に宝石が付いていなくて、王族が贈るものにしては非常にシンプル。彫りの装飾が昔からの伝統のものなので、作ったのが王族じゃなければ、ちょっと古臭い、とまで言われそうである。悪くはないけど、流行ではない。
まあ、マグラルド様はこういうのに興味があるようには見えないから、こうなったのだろうけど。わたし自身も、平民出身なので、あまりにも大きい宝石が付いているものは気が重い。ということで、歴代の聖女に送られた婚約指輪の中では、一番地味だとは思う。
同僚には、これでもか、というくらい派手なものを貰っている子もいたし、十数年に一度しか採掘されないと言われるくらい貴重な宝石を使った指輪を渡された子もいた。
でも、たとえ一番地味だって、ちょっと古臭くたって、わたしにとっては世界一の価値を持つ指輪なのだ。
「……わたしだって、捨ててないんだよ」
そうやって、つぶやいた声に、返事をくれる人はいなかった。




