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えっ、指……えっ?
な、なんでそれを取っておいているの……? てっきり、婚約破棄をしたときに捨てたものだと思っていたけど……。
わたしが呆然と見ていると、それに気が付かないまま、マグラルド様はそれを拾う。
「ゆ、指輪なのに、ポケットに入れるの?」
わたしは思わず、聞いてしまった。本当なら、なんでそれを持っているのか、なぜ手放していないのか聞きたいところだったけれど、それを尋ねたら、どうしてわたしがこの指輪のことを知っているのか、という話になってしまうので、深ぼりはできない。
わたしの動揺なんか、全く気が付かないマグラルド様は、淡々と、「普段は首から下げているが、チェーンが切れてしまってな」と、言った。
ふ、普段は首から下げているが? 今、普段から身に着けているって言った? 聞き間違いじゃないよね?
「今日の戦闘でどうやら切れたらしい。チェーン自体、長く使っているから、寿命だろう。チェーンが切れても服に引っ掛かってくれて、なくさずに済んでよかった」
「へえ……」
わたしは、自分で聞いておきながら他人事のような返事をしてしまった。というか、状況が飲み込めなくて、目の前のこととマグラルド様の言葉が、ほとんど脳をすり抜けていく。
ていうか、チェーンを長く使ってるって言った? もしかして、昔から、首に下げてるの?
ジュダネラル王国にいた頃、公的な場以外では外していたから、てっきり必要なとき以外はしまい込んでいるものだと思ってたんだけど。
聞いてないんだけど?
「た、大切なもの、なんだね……?」
言ってから、しまった、と思った。婚約破棄してしまったのだから、そんなわけがない。マグラルド様は国民を大切にする方だし、税金で作られた婚約指輪を無下にできない、とか、そういうことに決まっている。
それなのに、わざわざこんなことを聞いてしまうなんて。
そう、思ったのだが――。
「……ああ、そうなのだと思う」
普段は真顔な彼が、ほんのりと、口角を上げたように見えて、わたしは今度こそ思考が停止した。
「思えば、彼女の話は、どれも僕を心配してくれてのことだったな。君に心配だとハッキリ言われるまで気が付かなかった。礼を言う」
笑ったように見えたのは一瞬のことで、すぐに真顔に戻ってしまった。しかし、そんな表情を見せられて、マグラルド様が言っている言葉が、みじんも頭に入らなくなった。
「周りとの認識の差があることは自覚していたが、ここまでとは思わなかった。少し、歩み寄らないといけないな」
「ソウダネ」
「さて、怪我の方はもう大丈夫か? 一応、部屋まで送るが」
「ウウン、ダイジョウブ」
わたしはふらふらと立ち上がり、自分の部屋へと戻る。同じ宿だからね。一人で行けるからね。うん。




