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医者のような手際に感心していると、マグラルド様はわたしの前に片膝をつき、ひざまずく。思わず立ち上がりそうになったが、すぐ目の前にマグラルド様がいるので、それは難しかった。
「――すまなかった」
マグラルド様は、頭を下げる。
「きゅ、急にどうしたの」
事態が飲み込めなくて、わたしの声は、思わずひるがえった。
この人が、頭を下げるだなんて。
王族という立場からか、マグラルド様は謝罪をしても、頭を下げることはしない。ジュダネラル王国では、王族が頭を下げるときは、処刑の際に首を固定するときだけ、と言われているくらいである。
現代では、その言葉通り、というわけでもないけれど。それでも、この人との付き合いもそれなりに長いが、頭を下げたことがあるのを見たのは、たったの二度目だ。
この程度のことで頭を下げるなんて、もう、本当にこの人は王族ではなくなったのだな、と思い知らされる。――……いや、そうだと分かっていても、だいぶ心臓に悪い。頭を上げてほしい。
「先ほど、君に突っぱねられて、僕がしたことの重大さを思い知った」
「突っぱねるって……。この怪我を、大したことがない、って言ったこと?」
僕が聞くと、マグラルド様は「そうだ」と肯定した。……突っぱねたつもりはなかったんだけどな。本当に大したことのない怪我だし。
ザフィールとかだと、「さっさと治しとけよ~」って感じで終わり。彼は攻撃系の魔法の方が得意だから魔法攻になったけれど、回復系の魔法の知識もあるから、パッと見て、魔法でどのくらい治せるか分かってしまうから、心配なんてしてこない。
だからか、こんなに言われるようなことでもないと思ったのだけど。
「人の心配を、無下にするべきではないと学んだ」
そう言って顔を上げるマグラルド様は、本当に反省しているような、落ち込んでいるような、そんな表情をしている。普段の真顔に近いけれど、明らかにそうだ。
ああ、そういうことか。
考え込んで、「成程」と言ったのは、自分がいざ、心配をしてもそっけなくされて、ショックを受けたことに対して、自分がやらかしたことを自覚したのか。
「――……まあ、ボクも。無理に身を乗り出して助けようとしたのは悪かったから。もう、互いにやらない、ってことで……手打ちに」
「……そうだな、そうしよう」
マグラルド様は、納得したようにうなずいた。
どうやって仲直りするか悩んでいたけれど、図らずもうまくいってしまった。絡まれたときは面倒だと思ったけれど、悪くなかったかもしれない。
膝をついていたマグラルド様が立ち上がると、彼のポケットから、何かが床に落ち、コツン、と音を立てた。
音がしたので無意識に見てしまったが――落ちたものを見て、わたしは思わず固まり、そのまま目が離せなくなった。
彼が落としたのは――指輪だ。
わたしと彼が、婚約した際につくった、指輪。
それが今、床に、落ちている。




