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まあ、この男の気持ちも分からなくないけれどね。声こそ変声の魔法を使って男のものにしているけれど、背格好は普通の変装の領域を出ないわたしは、まさにカツアゲにちょうどいい姿。対して、マグラルド様は背が高いし、ガタイもいい。わたしにぶつかってきた彼の頭一つ分は大きいし。
わたしだけなら、と、舐めてかかってきたら、横からめちゃくちゃ強そうな男が割って入ってきたのである。そりゃあ、ひるむのも無理はない。
「お、俺の剣を汚したりするから……」
しかし、引っ込みがつかないのか、男はもごもごと小声ながらも、文句を垂れた。
じ、とマグラルド様が男の剣を見る。わたしの血で汚れているのは一目瞭然だ。
「――……なるほど。仲間が失礼したようだ。謝罪はこれで足りるか?」
そう言ってマグラルド様が腰ベルトにつけた小さいカバンから出してきたのは、ジュダネラル記念硬貨。数年前、建国記念日に発行された、かなりレアな硬貨。一応は金貨一枚と同等の価値で使えるのだが、発行枚数が非常に少ないので、マニアに売れば、二、三年はお金に困らないくらいの金額になる。
そんなもの持ち歩かないで、換金して!? いくらなんでも、国を出るときに、もっと他に使いやすい硬貨あったでしょ!
とは突っ込めない。
男の方も、マグラルド様が取り出したのが記念硬貨だったことに気が付いたのか、すっかりビビっている。それはそうだ、この硬貨、持っているのはマニアか豪商、王族貴族ばかりである。マニアは当然レアな硬貨を集めているので絶対に手放さないだろうし、豪商も貴族たちとの話題のために外へ出すことは滅多にしない。
ということで、こんなものをポイ、と渡そうとしてくるのは、ほぼ確定で貴族。もちろん、そうじゃない可能性もあるけど、ちょっかいを出したらヤバイ相手であることには間違いない。
「貰い物なんだ、気にしなくていい」
でしょうね。貴方にとっては、確かに貰い物で間違いない。
これを素で言っているのか、あるいは、脅しとして使っているのかは、分からない。でも、マグラルド様の顔を見るに、前者な気がする。
「あ、ああ、こ、今回はこれで勘弁してやるよ! 次から気を付けろよ!」
言い捨てるようにして、男は、先ほどはたき落してきたタオルを拾って、逃げた。
不思議そうに首をかしげているマグラルド様に、「それはしまっておきなよ……」と言うので精一杯だった。
王族であることを隠したいなら、それは二度と出さない方がいいよ。
とは、言えずに黙っていた。わたしも、それを知っている理由を探られて、逃げ出した聖女であることがバレても困るので。




