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汚れた、って言ったって、ちょっと血が付いた程度。拭けばいいでしょ、というか、いつも討伐依頼にばっかり出てるんだから、わたしの血なんかより、もっと汚してくるでしょうが。とは流石に言えない。
一応、どちらかといえば、わたしに非がある。考えごとをしていて、ぶつかったのだから。最初から気が付いていれば、ちゃんとよけられた。わざわざ面倒ごとになりそうな相手に突っ込んでいったりしない。
「どう責任取ってくれるんだよ」
責任も何もないでしょうが、と思ったが――男のにやついた顔を見て、察する。単純に、何か金品を巻き上げたいだけなのだな、と。
「……これ、ボクは使ってないから、拭くのに使って」
余分に一枚持ってきてしまっていたタオルを渡す――が、当然、はたき落されてしまった。いや、これ以上に適切なものってなくない? ちょっと血がついただけなのだから。
「分かってねえなあ、慰謝料よこせよ」
分かった上でこれだったんだけどな……。
お金を渡すのは、流石に釣り合わなさ過ぎて嫌だな、と思う反面、もめごとを起こしたくないなら払ってしまった方が楽だろうか、とも思う。ギルドでもめごとが起きると、ランクが上の人間の証言の方が信用されがちだ。この人のパーティーの普段の信用度からしたら、本当にこの人の話の方が信じられるかは分からないけれど。
どうしよう、と迷っていると、男が、わたしめがけて手を伸ばしてくる。
「聞いてんのかよ!」
あ、胸倉をつかまれる。
わたしはとっさに一歩引いたが、男が前に出れば関係ない。わたしの一歩よりも、男の歩幅の方が大きい。身長だって、男の方が高いし、このままつかまれたら宙づりになっちゃう、と、更に逃げようとしたとき――。
「――僕のパーティーメンバーが、何か」
ガッと横から手が伸びてきたかと思うと、わたしの胸倉をつかもうとしていた男の手の手首が、とらえられる。横から伸びた手の先を見れば――そこには、マグラルド様がいた。なんというタイミング。
男は、不機嫌そうにマグラルド様の手を振り払おうとしたが、がっちりと固定されていて全く動かない。よっぽど強い力で、マグラルド様は男の手首をつかんているのか、男の手が、少しだけ震えている。
「――……何か?」
もう一度、マグラルド様が問う。
その声は低く、威圧感があって、手首をつかまれた男は、それだけでひるんでしまったようだ。先ほどわたしへと向けていた、にやついた表情はすっかり消えている。
「こ、こいつが悪いんだよ」
言い訳を述べる男の声は、随分と情けないものだった。




