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普通のホルンシャフに比べたら手こずったようだけれど、全然余裕だったようで、マグラルド様は息一つ上がっていない。
剣の腕が優秀、ということは聞いていたけれど、ここまでだったとは。自分よりもはるかに大きい魔物を倒せるなんて。噂以上の実力だ。
これは護衛も最低限しかつけられないわけだわ……。下手な護衛よりも、絶対にマグラルド様の方が強い。
わたしはあたりを見回し、今度こそ魔物がいなくなったことを確認すると、マグラルド様に近寄った。
「マグラルド、だいじょう――」
そのまま、手を引っ張って、彼に引き寄せられる。ち、ちか……っ。
「先ほど」
わたわたとするわたしとは裏腹に、マグラルド様の声は随分と低い。――もしかして、怒ってる?
「先ほど、僕の前に出ようとしなかったか」
ぎくり、と体が一瞬こわばる。
マグラルド様に、投げるようにして後ろへと下げられたから、実際に前へ出たわけじゃないし、むしろ、マグラルド様の前ではなく、ただ、一歩前に出ただけという方が近かった。
それでも、マグラルド様は何がしたかったのか、分かってしまったようだ。守られる立場で、護衛の近衛兵がいれば、彼を守るのが当たり前だから、そういう動きには敏感なのかもしれない。いくら近衛兵がほとんどつけられなかった、とはいえ、一人も護衛がいなかったわけではないのだから。
「それは――……」
わたしは、思わず口ごもる。
そうだよ、と言ったら、とてつもなく怒られるのは分かり切っているからだ。
それに、どこか、怒られることに納得していない部分もあるのだ。
力ある聖女とはいえ、力量さえ問わなければ聖女の代わりは何人でもいるし、聖女の力がなければわたしはただの平民。
対して、マグラルド様には一国の王族の、高貴な血が流れている。
どちらが優先されるべきかは明白で――。
――何より。
わたしが聖女のときも、似たようなことがあった。
あの時は、マグラルド様へ向けられた暗殺者で、魔物ではなかったけれど。あの時のわたしも、今と同じようにマグラルド様の盾になろうとして。
でも――その時は、今のように、怒りを見せることはなかった。
聖女のわたしのときは盾になっても構わないのに、ただの『ディアン』であるわたしには怒るなんて。
そりゃあ、あの場には近衛兵がいたから、わたしの動きも関係なく、あっという間に取り押さえられていたけど。事態が一瞬過ぎて、わたしが盾になろうとしていたことに気が付かなかった、なんてこと、ありえないでしょう?
その扱いの差に、少しばかり、納得がいかない。前は、感情を乱してなんか、くれなかったくせに。
「――別に、そんなことないけど」
自分の口から出た言葉は、思ったよりも、トゲのあるトーンになってしまった。
じ、とマグラルド様がわたしを見る。思うところがあるようだ。
それでも、それ以上追及されることはなくて。
「僕はあの程度では死なない。だから、心配なんか、しなくても問題ない」
少し不機嫌そうに言う、マグラルド様。
わたしと彼の間に、ピリッとした空気が流れ、初めての討伐依頼は幕を下ろしたのだった。




