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そのホルンシャフは苦しそうに暴れている。そのまま、わたしたちを巻き込むんじゃないか、という勢いで。
明らかに異常種、あるいは群れのボスだと、一目で分かる。先程までの、三体のホルンシャフは白い毛だったのに、この一際大きいホルンシャフは黒い。
こんなのが出るなんて、聞いてない!
マルコラさんは完全にリリリュビさんを守る体勢に入っているし、ザフィールは大きいホルンシャフの出方をうかがっている。
わたしとマグラルド様が巨大ホルンシャフのより近くにいるため、攻撃を受けるとしたら、リリリュビさんたちよりもわたしたちの方が先だろう。
わたしはマグラルド様と違って攻撃手段を持たないけど……、あんな大きいホルンシャフに、マグラルド様だけで勝てるの? 普通のホルンシャフですら、マグラルド様より大きいのに……。
――この人を、失ってはいけない。
マグラルド様の今の立場がどのようなものか、わたしには正確に分からない。それでも、彼はまぎれもなく、一国の王族の血が流れている方だ。こんな場所で死んでいいわけがない。
攻撃ができなくとも、マグラルド様が退避するまでの盾くらいにはなれるだろうか、と、彼の前に出ようとして――思い切り服の首元を引っつかまれ、後ろへと飛ばされた。
「――ッ」
滑るようにして、わたしは地面に倒れこむ。慌てて起き上がると、マグラルド様が一人、巨大ホルンシャフに立ち向かっていた。
一撃、二撃。先ほどのホルンシャフたちのように、あっという間に倒せる、というわけではないが、明らかにマグラルド様の方が優勢だ。
「ディアン! 一旦こっちにこい!」
ザフィールがわたしを呼ぶので、反射的に振り返った。
「そこだと邪魔になるかもしれねえ!」
マグラルド様と巨大ホルンシャフは、じりじりとわたしから遠ざかっているようだったけれど、何があるか分からない。戦えないわたしは、大人しくザフィールたちの方へと駆けた。後衛職のわたしたちは、固まっていた方がマグラルド様にとっても好都合だろう。
あの人の盾になることくらいは惜しくないけど、普通に戦えるのであれば話は別だ。
「――……魔法を打つタイミングがねぇな」
ザフィールの元へと行くと、彼がぼそりとつぶやく。巨大ホルンシャフは的が大きいが、動きが早過ぎて、攻撃で援護しようにもマグラルド様に当たる可能性を考えるとなかなか打てない。
長年パーティーを組んでいれば、癖で次に何をしようとしているのか考えているのが分かるだろうし、簡単な合図で作戦を伝えることができる。
でも、わたしたちはパーティーを組んだばかりなので、そんなことはできない。
「――あっ」
ぐらり、と巨大ホルンシャフが大きく揺れた。バランスを崩したのか、たたらを踏む。わたしは思わず声を漏らした。
そのタイミングを見逃さなかったマグラルド様は大きく剣を振りかぶり――そのまま、巨大ホルンシャフにトドメを刺した。




