10
リリリュビさんとザフィールの質問に淡々と答えていくマグラルド様。
その後姿を眺めていると、耳元で、「彼が気になる?」とマルコラさんがささやいてきた。びっくりしてわたしはちょっと飛びのく。大声をあげなかっただけマシ。
マルコラさんは心理的なパーソナルスペースが狭ければ、物理的な距離も近い。彼的には、マグラルド様に聞こえないよう気を使っただけ、なのかもしれないが、それにしたって近すぎる。
「ディーくんはああいう人が好み?」
「ち、ちが……っ」
違くない。あってる。
でも、それを認めるわけにはいかなくて。
「……な、なんでも恋愛に絡めるの、やめてください」
わたしは、未だにちょっとぞわぞわする耳元を抑えながら言う。この人はいつもそう。恋愛脳で、すぐに誰が誰を好き、という話に食いつく。女学生か?
しかも、年頃の男女が対象ならまだしも、この人の目には性別も年齢も関係ない。
わたしだって、年の差や同性愛を否定するつもりはないけど、この人は極端すぎる。
「恋はいいよ。私もね、リリちゃんと出会ってから――」
はい、始まった。わたしは、もう何度聞いたか分からない、リリリュビさんとのなれそめを聞き流す。リリリュビさんと出会い、結婚してから『恋愛』というものにハマッたらしいけど、絶対嘘でしょ。根っからの恋愛好き、ゴシップ好きに決まっている。
マルコラさんのことは仲間として好きだし、信用や信頼もしているけど、こういうところは改善してほしいと思う。切実に。
隣でぺらぺらと話し始められてしまっては、マグラルド様たちの会話を盗み聞くどころではなくなってしまった。彼らの声よりも近くを歩くマルコラさんの声の方が大きくて全然聞こえない。
――と。
ザリ、と地面を強く擦る足音が聞こえた。マグラルド様たちの方を見ると、歩くのをやめている。それにマルコラさんも気が付いたのか、彼はぴたりと話すのをやめた。
「――いるね。二……いや、三体かな」
リリリュビさんが、少し道から外れた方向を見ながら言った。彼女の索敵魔法に魔物が引っ掛かったらしい。リリリュビさんから聞いた目的地はこの辺りだし……討伐対象のホルンシャフかも。
魔物討伐。
聖女になる前、村で生活していたときに、村の男たちが畑を荒らしに来た魔物を退治しているのを遠くで見たことはあるけれど、自分がいざ戦いの場に出るのは初めてだ。
あのときだって、ホルンシャフよりずっと弱い魔物を村の男たちは退治していたし、余計に緊張する。討伐風景を見たことある魔物よりも強い相手に、わたしは勝てるのだろうか?
さっきまでくだらない雑談をしていたのに、一気にどきどきと心臓が動き出した。




