表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻印の徒  作者: 生クリーム王子
第1章『忘却のゆりかご、軍師の産声』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/34

第6話 孤高の異端児

あの集団演習から数日。

 学園内での俺の評価は、決定的なものになっていた。

 『氷の処刑人』。

 それが、魔力量わずか十の無能が、知恵だけでエリートを蹂躙したことへの、周囲の恐怖が混じった呼び名だった。

「……あいつだろ。演習で仲間まで怖がらせるような戦いをした奴」

「ゼノ先生のお気に入りらしいぜ。近づかない方が身のためだ」

 廊下を通るたびに、周囲の視線が避けていく。

 アーサーやルナとも、あの日以来、気まずい空気が流れていた。ルナは俺と目が合うたびに、何かを言いかけては俯いてしまう。

(……これでいい。軍師に、馴れ合いは必要ない)

 俺は自分にそう言い聞かせ、ゼノの個人研究室の扉を叩いた。

 扉の向こう側は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

「いらっしゃい、レインくん。君が『孤独』という特等席に座り始めたようで、私は嬉しいよ」

 ゼノは山積みになった魔導具を整理しながら、楽しげに俺を迎えた。

「先生。今日は何の講義ですか?」

「今日は、君の『過去の知恵』を形にしてもらおうと思ってね。……魔法は素晴らしいが、効率が悪い。君なら、この古臭い帝国の兵器をどう変える?」

 ゼノが机に置いたのは、帝国の一般的な「魔導弓まどうきゅう」だった。

 弦を引く時に使う魔力が大きく、普通の兵士には扱いが難しい武器だ。

 俺はそれを手に取り、前世の知識を検索した。

 ――記憶残存率:九十九・一パーセント。

 消えたのは、前世で使っていたパソコンのパスワード。

 代わりに脳内に浮かんだのは、現代の「クロスボウ」や「ボルトアクション銃」の仕組みだった。

「……この弓は無駄が多すぎます。弦を引く力を魔法で助けるのではなく、最初からバネの力で固定しておけばいい。そこに、僕の『遅延発動』の魔法を組み込めば、誰でもボタン一つで矢を放てるようになります」

「ほう? 『ボタン一つ』で、かね」

「はい。さらに、矢の飛ぶ軌道を風の魔法で筒状に固定すれば……。魔力が低くても、狙撃すら可能になります」

 俺は夢中で設計図を描き始めた。

 エネルギーのロスを減らし、出力を一点に集中させる。それは魔法の才能がない俺だからこそ辿り着ける、「科学」の視点だった。

「ははは! 面白い! 魔法をただの『部品』として扱うか。君が作るのは、兵器ではない。この世界の常識を壊す『革命』だ」

 ゼノの不気味な笑い声が響く中、俺は一晩かけて新型の弓を完成させた。

 『魔導連発弩まどうれんぱつど』。

 それは、これまで数ヶ月の訓練が必要だった弓術を、たった一日の練習で素人でも扱えるようにしてしまう、恐ろしい道具だった。

 翌日。俺は完成した試作機を持って、アーサーを訓練場に呼び出した。

「……レイン。これ、なんだよ? 弓にしては変な形だな」

 アーサーはまだ少し気まずそうだったが、見たこともない道具に興味を惹かれたようだった。

「アーサー、これを使ってみてくれ。あの的を狙って、ここにあるレバーを引くだけでいい」

「レバーを? 魔法の詠唱もいらないのか?」

 アーサーが半信半疑でレバーを引いた。

 シュンッ! という鋭い音と共に、矢が凄まじい速度で放たれ、百メートル先の的のど真ん中を貫いた。

「な、なんだこれ!? 全然力が要らないのに、俺の全力の魔法矢より速いぞ!」

「それが、僕の作った『新しい力』だ。……アーサー、君がこれを使いこなせば、もう魔力量の差なんて関係なくなる」

 俺は淡々と説明したが、アーサーの顔に浮かんだのは喜びではなかった。

「……レイン。お前、これ……。誰でも使えるようにするつもりか?」

「ああ。そうすれば、平民の志願兵だって、高貴な騎士と対等に戦える」

「……それは、革命なんて生易しいもんじゃないぞ。この国のルールが全部壊れちまう。……お前、本当にどこへ行こうとしてるんだよ」

 アーサーの言葉が、俺の胸に小さく刺さった。

 

 九十九・〇パーセント。

 ついに、九十九の大台を割り始めた。

 消えたのは、前世の「母親が作ってくれた料理の匂い」。

 温かかったはずの記憶が、真っ白な設計図へと書き換えられていく。

「……僕は、勝つために必要なことをしているだけだ。それ以外に、価値はないんだ」

 俺の声は、自分でも驚くほど冷たく、機械的だった。

 ルナが遠くから、悲しげな瞳でこちらを見つめているのにも気づかずに、俺はただ、完成したばかりの「壊すための知恵」を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ