第4章:記者の矜持、国民の選択
翌週。堂本の法案審議が大詰めを迎える中、ある週刊誌がスキャンダルを報じた。
『堂本議員、政治資金収支報告書に記載ミス! 5万円の不明瞭な支出』
たった5万円。しかも事務的な記載漏れだ。法案の中身とは何の関係もない。
しかし、今のマスコミにとっては格好の餌食だった。
緊急記者会見。
フラッシュの嵐の中、堂本が立ち尽くしている。
記者たちが次々と手を挙げる。
「5万円の使い道は!」
「管理責任をどう考えているんですか!」
「議員辞職の可能性は!」
いつもの光景だ。揚げ足を取り、怒らせ、失言を引き出し、ワイドショーで消費する。
堂本が疲弊した顔でマイクを握る。
その時、最前列にいた剣崎がスッと手を挙げた。
「東西テレビの剣崎です」
堂本が身構える。一番の「天敵」が来たと。
剣崎はマイクを握りしめた。脳裏に浮かぶのは、あの深夜の会議室。ボロボロになりながら未来を計算していた、政治家と官僚の姿。
(俺は、何を伝えるべきだ?)
(5万円のミスか? それとも、彼らが命を削って作った100年の計か?)
剣崎は、大きく息を吸い込んだ。
「総理、失礼。堂本議員。記載ミスの件は、修正して謝罪すれば済む話です。もう結構です」
会場がざわつく。剣崎は構わず続けた。
「それより、お聞きしたい。
あなたが今、財務省と協力して進めている『教育支援法案』。
そこには、官僚たちのどんな知恵と、あなたのどんな『願い』が込められているのですか?
批判や政局ではなく、その『中身』を、我々国民に聞かせてください」
堂本が目を見開いた。
一瞬、時が止まったようだった。
やがて、堂本の表情から「政治家の仮面」が剥がれ落ち、一人の人間の顔になった。
「……ありがとうございます」
堂本は語り始めた。
派閥の顔色を窺う言葉ではない。あの夜、氷室と語り合った熱い想いを。
いかにして財源を見つけ出したか。官僚たちがどれほど苦労して条文を練り上げたか。そして、これが実現すれば、どれだけの子供が救われるか。
その言葉には、嘘がなかった。
会場の空気は一変していた。他の記者たちも、ペンを走らせていた。「失言」をメモするためではない。「政策」を記録するために。
会見場の隅。
こっそりと様子を見に来ていた氷室が、微かに口元を緩め、無言で会釈をして立ち去るのを、剣崎は見逃さなかった。




