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『ニュース・ライター 〜明日を照らす放送局〜』  作者: さらん
番外編:永田町の灯(ともしび)

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8/10

第3章:深夜2時の共犯者たち


 深夜2時。

 官庁街・霞が関は、死んだように静まり返っていた。しかし、財務省の庁舎を見上げると、いくつかの窓にまだ明かりが灯っている。


 剣崎は半信半疑のまま、入館パスを使って中に入った。

 廊下には、栄養ドリンクの空き瓶が入ったゴミ袋が積み上げられている。

 氷室のいる主計局のフロア。

 静寂の中に、怒鳴り声……いや、激論が響いていた。


「だから! ここを削れば地方への交付金が減る! 本末転倒だと言ってるんです!」

「じゃあどうすればいいんだ! このままじゃ法案が廃案になる!」


 聞き覚えのある声だ。

 剣崎が会議室のドアを少しだけ開けると、信じられない光景があった。


 ワイシャツの袖をまくり、髪を振り乱した堂本議員。

 そして、その向かいには、昼間の冷静さが嘘のように、目を血走らせてホワイトボードに数字を書き殴る、氷室の姿があった。


「堂本先生、ここです。この特例措置の条文、解釈を変えれば……予備費の一部を流用できる可能性があります」

「えっ? ……しかし、それは前例がないぞ」

「前例がないなら、作るんです! そのための法律でしょう!」


 氷室が叫ぶ。


「先生。あなたが言ったんでしょう。『子供の未来は国の未来だ』と。……僕だって、数字遊びがしたくて官僚になったわけじゃない。この国を沈没させたくない思いは、あなたと同じだ!」


 机の上には、コンビニのおにぎりと、山のような資料。

 「国民の敵」と呼ばれがちな官僚と、「選挙目当て」と揶揄される政治家。

 犬猿の仲のはずの二人が、利権のためでも、出世のためでもなく、ただ「顔も知らない子供たちの未来」のために、深夜の密室で共闘していた。


 (……なんだ、これは)

 剣崎は呆然とした。

 彼は知らなかったのだ。

 ニュースで流れる「対立」の裏側に、こうした「建設的な衝突」があることを。

 派手なパフォーマンスの裏に、地味で泥臭い、しかし確かな「実務」があることを。

 氷室が、少し声を和らげて言った。


「……先生。この修正案なら、通せます。僕が責任を持って局長を説得します。だから、あなたは国会で戦ってください」

「氷室さん……」


 堂本が深く頭を下げる。


「ありがとう。……君たちのような官僚がいる限り、日本はまだ大丈夫だ」


 剣崎は、ドアをそっと閉めた。

 胸の奥で、長い間錆びついていた何かが、熱く脈打ち始めていた。

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