第1章:灰色の塔の住人たち
東京・千代田区、永田町。
国会議事堂を見下ろす議員会館の一室で、東西テレビ政治部のエース記者、剣崎透は、苛立ちを隠そうともせずにペンを回していた。
「……で、先生。その発言は、派閥の領袖への批判と受け取ってよろしいですね?」
対面に座る若手議員、堂本が困惑した顔で口を開く。
「いや、だから剣崎さん。僕は派閥の話をしているんじゃない。この『地方教育支援法案』が、いかにこれからの子供たちに必要かという話を……」
「それはもう聞きました。ですが、有権者が知りたいのは、党内の力学がどう動くかなんですよ。次の人事、どうなるんです?」
堂本が諦めたように息を吐く。剣崎は心の中で舌打ちをした。
(これだから青二才は困る。政治とは『数』であり『権力』だ。理想論で飯は食えない)
取材を早々に切り上げ、東西テレビに戻った剣崎を待っていたのは、さらに不愉快な光景だった。
報道フロアの片隅で、例の「深夜の反乱分子」たちが盛り上がっていたからだ。報道デスクの相馬と、ADの天野ヒカリだ。
「相馬さん! 次の取材、この町工場に行きましょう! ネジ一本に命かけてるんです!」
「お前なぁ、交通費いくらかかると思ってるんだ」
楽しそうに喧嘩する二人を見て、剣崎は鼻で笑った。
『ニュース・ライター』。相馬たちが立ち上げた深夜番組は、確かに一部でカルト的な人気を博していた。だが、剣崎に言わせれば、あんなものは「お遊戯」だ。
国を動かしているのは、自分たち政治部だ。巨大な権力を監視し、首を取り、政局を動かす。それこそがジャーナリズムの王道だ。
「よう、剣崎。相変わらず怖い顔してんな」
相馬が声をかけてきた。かつての先輩だが、今は窓際族(と剣崎は思っている)の男だ。
「相馬さんこそ。また『イイ話』探しですか? 呑気でいいですね」
「手厳しいな。……でお前は、今日も『政局』か?」
「ええ。それが国民の関心事ですから」
「本当にそうか?」
相馬の目が、スッと細められた。
「お前が見ているのは『国民』か? それとも『同業者の評価』か?」
「……何が言いたいんです」
「今度、堂本議員を追ってみろ。派閥争いじゃなく、彼が何をしようとしているのかをな」
剣崎は眉をひそめた。堂本? あの派閥内でも孤立している、地味な若手議員か?
「あんなの、万年平議員ですよ。追う価値なんてない」
「価値があるかどうかは、自分の目で見て決めろ。……それとも、永田町の常識という色眼鏡がないと、何も見えないのか?」
挑発的な言葉に、剣崎のプライドが刺激された。
(面白い。なら証明してやる。あの議員がいかに無力で、政治という巨大なシステムの中で踊らされているだけかを)




