第05話 女神様
心願の女神。
耳元にいる女性は確かにそう言った。
「(此の身、現すを遅れし事、すまなく思っています。故あって、今吾に在るは僅かなる神気のみ。斯様な態でしか顕現が叶いませんでした)」
斯様ななり……小指ほどの大きさの事を言っておられるのだろうか?
「(常ならば、優に10間は超える此の身なれど……)」
……10けん?
「(嗚呼いけない──10間、おおよそ18メートルです)」
じゅう⤴! はち! メェェェ⤴! トル!
心の声が裏返ったのは初めてだった。
じ、じゅうはちメートル!? 確か、一般的な自動販売機の高さが183センチだから──それを縦に10個積み上げたくらいの大きさ!? 自 販 機 10 個 !? 今、俺の耳元で、こんなに小ぢんまりとしていらっしゃるのに!?
目の前に18メートルの人がいたらと想像し、口をあんぐりと開けて間の抜けた顔を晒してしまう。
すると女神様はしゃなりしゃなりと浮遊し、正面でクルリとこちらへ身を翻されてからの──
ドヤ顔
そして再び、俺の右耳の傍へ、いそいそと移動をなさるのだった。
か、神様というのは……こんなにも表情豊かで、親しみを感じるものなのだろうか。生まれてから一度も出会った事が無いので分からない! 神様ってもっとこう、何ていうかこう……、えーっと……
──と、この瞬間に気付いた事があった。それは、俺はずっと神様という存在を、漠然と、ぼんやりと信じていたという事。いないとは思っていなかった。きっと何処かに在るし、在って欲しい。しかしそれがまさか、目の前に現れるとは夢想だにしなかったけれども。それはもう、びっくりしたけれども。
凹んでベソかいて喜んで驚いて、目が覚めてから気持ちが忙しくて仕様が無い。まるでジェットコースターだ。
「(今現在の事の様、さぞや混乱したことでしょう。ここは数多重なりて在る世星界海、その狭間で揺蕩う闇の粒。生まれ出るも疾く消ゆる儚き泡沫)」
せせ……かい、んん?
「(汝らが何故此処に在るか。其は…さきの世界に於ける其の命の灯火、燃え尽きたからに他なりません)」
いまし……え? 難しい……命の灯火が……燃え尽きた? ──それって……
さっきまでの感情の波が、一瞬で凪いだ。
「(お……僕──いえ、私は、死んだということでしょうか……?)」
「(……哀しき事なれど……)」
………………。
そんな気は……していた。
土砂降りの雨の中、車の前に飛び込んで見たあの景色。目が覚めてからの……この不可思議な場所。そして共にいたのは一緒に飛び出した左肩の子猫だけ。それらが導くものはもう決まっていた筈だろう。一時はそうではないとも思ったけれど……分かっていた事だ。
分かっていた事なんだ……
それでも……
それでも結果として決定してしまうなると、俺は……力無く虚空を見つめ、ただ呆然と立ち尽くすのだった。




