第04話 光の中の小さなヒト
その声は囁きよりもか細く、何と言ったのか聞き取れなかった。
「(じゅ……な…………こ……だ……き……ます……?)」
微笑んでいる……。きっと優しく語りかけてくれているのだろう。しかし! 聞こえないのである! 申し訳なさを表情に出しつつ左右に首を振る。
すると光の中の小さな女性は、右の頬をプクッと膨らませ、恨めしそうな眼差しを一瞬こちらに向けたものの、すぐに気を取り直した様子で……こう……脇を閉め、胸の前のあたりでグッと両の拳を握り、意気込んだ感じでキリリと俺の目を見据えてきた。そして静かに目を閉じ、風船を膨らませるようにふ〜っと息を吐きながら前方ヘ上半身を傾ける。ピタリと静止した後、今度は逆に大きく息を吸いながら天を仰ぎ、目一杯胸を張るような体勢になった。それから瞬きほどの間を置いて、叫ぶように 言葉を 放った!
「(純粋なる願いを心に抱きし命よ! 吾の声が聞こえますか!)」
聞こえた!
「「はい! 聞こえました!」」
ようやく聞こえた! 何だか嬉しくなって元気よく返事をすると、女性は両耳を手で塞ぎ、酸っぱいものを食べた時のような顔で仰け反ってしまった。あ……俺の声が大きすぎたのかもしれない。
「(す……すみません!)」
出来る限り小声で謝罪をすると、苦笑しながらも大丈夫、というようにコクリと頷いてくれた。
安堵と共に思う事がある。この女性は一体何者……いや、どういう存在なのだ? 真っ先に考えるべき疑問だったのかもしれないが。小人……妖精……? そんなまさか。でもこの光……よく見ると彼女の髪が輝いて……何か光る粒子のようなものが絶えず放出されている……? のみならず、肌も……うっすら発光しているような?
身の丈程の、とても長い銀色の髪。揃った前髪の両サイドが弧を描くように逆立ち、上方で先端同士が触れて円を成している、という特徴的な髪型。真っ白で袖のないロングドレス。やや太めの真っ赤な紐が、胸の下と腰より少し低い位置で体に巻かれ、二重叶結びで留められている。小さい上に光っているので見辛いけど…うん、間違ってないと思う。結び目は右と左の二箇所、上下で計四箇所。髪と衣服は風もないのにユラユラと棚引いている。靴などは履いておらず素足だ。こうしてみると、何かの儀式の装いのようでもある。
失礼とは思いつつも、ついまじまじと見つめてしまった。例え幻覚だったとしても何というか超常的で……とても神秘的だ。寧ろ神々しさすら感じる。
──あれ、ちょっと待った。さっき彼女はなんて言った? 聞くことだけに集中しすぎて、内容を完全に蔑ろにしてしまった。「声が聞こえますか」は、はっきり覚えてるけれど前半は……えぇと……何だっけ……うーんと……
などと、うんうん唸っている俺に女性が再び話しかけてくる。今度こそ聞き漏らすまじと左の耳をそばだてる。すると子猫が左肩に移動してきて、光を捕まえようとしているのか、前足をブンシャブンシャ振り回し始めた。
「こ、これ! やめなさい!」右手で抑えようとするも、
『ザリッ』
痛って! しかし負けずにブンシャしてる左前足を何とか抑える。子猫は何をしやがると言わんばかりに、右の前足で左の頬をグプニグプニ押してくる。一応の膠着状態を作った俺は、情けない格好のまま女性へ視線を送り、
「(ふゅ、ふゅみまへん、ほうど)」と、小声でハッキリ伝えた。念のため何と言ったかというと、“すみません、どうぞ”である。
「(あ……し……ん…………の……が……)」
その声は囁きよりもか細く、何と言ったのか聞き取れなかった。
振り出しに! 戻ったよ! 話が! 全然! 進まない!!
涙目。俺、涙目。がっくりと肩を落とし、眉をハの字、口をヘの字にして涙目になっていると、察してくれたのか右耳のすぐ側へフワリと移動してきてくれた。
「(吾は心願の女神)」
しんがんの……めがみ……。
「(心の願いで、心願です)」
なるほど……心願の女神……。……女神……女神様!?
女神様……
…………。
女神様!!?




