第12話 魔帝の統べる地
お初さんが示した場所……それは山のように巨大な建造物の最上部だった。
──あの頂上に……魔帝が……そして女神様が──!!
あの場所へ行けば女神様をお助けできる……けれど、あんな高い所までどうやって行けばいいんだ!?
──何故、俺がそう思ったかというと、その巨大な建造物の姿形がまるで〝砂時計〟だったからだ。
今、俺が見ているもの──
まずは、とびきりデカイ瓢箪型の砂時計が一つ。……と言っても中身は恐らく砂ではないし、上から下へ落ちるのではなく、逆に下から上へ〝何か〟が上がっている。なんだ、あれ? 上部と下部にはその巨大さに見合った台座のような物がついている。
そして、その瓢箪型砂時計を囲むように四本の、これまた砂時計が配置されている。左右の手前に二本、奥に二本で、これらにも台座が上下についている。ただ、この四本は長さ……いや、高さが全て異なっている。一番小さい左手前を基準にすると、右手前は基準の倍の高さ。左奥は三つ重ねた高さ。一番高いのが右奥で四つ分……つまり右手前の倍の高さだ。一番高いと言っても、瓢箪型には全然及んではいないが。この四本の砂時計のガラス──これもガラスではないのかもしれないが──透明な部分は筒状で、真ん中に くびれた部分 がある、よく見る普通のタイプだ。中の〝何か〟も上から下に落ちている。
さらに、これらの砂時計塔全体を囲う高い壁が、基本的には円を描くように、周囲に張り巡らされている。どうして〝基本的〟かと言うと、ここから見た手前部分が、少し抉れたような形状だからだ。どう表現したらいいか……そうだな……アルファベットの〝C〟──その欠けた部分の内側に、もっと小さな〝c〟をくっつけて、三日月みたいな形──と、言えば分かり易いだろうか。そしてその引っ込んでる部分に……なんか、街みたいなのが見えるな。ともあれ、そんな風に取り囲んでいる壁の高さは凸凹していて、一番低いところと高いところは、ちょうど左手前と右奥の砂時計塔くらいで、かなりの開きがある。なんじゃ、あのデザインは。
最後に、これは……我ながら目を疑うのだが……横向きの短冊みたいな壁が、無数に、空中を浮遊しているのである。地上にある壁をなぞるような軌道で、ゆっくりと、互い違いに行き交い、周回している。ひょっとして、下の壁が凸凹している理由ってこれか? 合体するとドームになるとか? 一体どんな技術なんだ? 加えて、全ての壁面で、しばしば細い光の線が走る。その様子は、交互に積んだレンガ同士の間を、高速でランダムに進むというか、アミダくじを好き勝手にシュビバっとなぞる──といった感じだ。他にも色々と浮かんでいるみたいだけれど、あれらが何なのか……ここからではよく見えないな……。
女神様は〝一番の相違は環境により様々な技術体系の進化が異なる〟──と、仰っていたけれど、ここまでとは……。
「……ぇ!」
こんなの……元いた世界の近未来どころか、遠い遠い未来の世界みたいだ……。あんなのが相手だなんて……そんな……そんなのって──
「──ぉーい!」
や る 気 出 ち ま う な !
「万超!」
ただ現状の問題点は、なにをどうすればいいのか、まるっきり分かっていないことだな! うむ!
「 おいコラ! バンチヨ! 」
──はっ! っと、我に返る。
「バンチヨって俺のこと?」
「他に誰がいるってのよ。で、どした? ボーッとしてると思ったら、気味の悪い笑顔になって」
「……不敵な笑みと言ってくれ」
「おっと、これは失礼。それよりもちゃんと聞いてた?」
「なにを?」
「聞 い て な い じ ゃ ん か」
「あ、ゴメン」
「あの一番高い所をよく見てって言ったの!」
高い所……魔帝がいるっていう……ん? 台座みたいなヤツのさらに上に……
「なんか……尖った……建物……かな……?」
「あれが、恐らく魔帝の居城だよ」
「──!」
「心願様もきっと、彼処にいるんだと思う……」
「……お初さん」
「なによ」
「あの天辺へは、どうやってよじ登ったらいい?」
「ア ン タ ねぇ、そんなこと出来るわけないでしょ。たとえ行けたとしても、返り討ちに遭って私みたいになるのがオチよ」
「私みたいに……って……」
「……その話はあと。それによく見なよ。行こうと思えば歩いてだって行ける」
「え!?」
「魔帝城がある台座みたいな所から、通路のようなものが下に伸びてるの……わかる?」
「え……と……、──! あの滑り台みたいなヤツ?」
「そうそう。それが周囲にある四本の塔、その上部を、高い方から順々に経由しつつ、ぐるぅりぐるりと回りながら、降りて来ているでしょ」
「ホントだ……」
螺旋階段というか……レジャープールにあるスパイラルのウォータースライダーみたいだ。
「──で、最後は地表に辿り着く、と」
「おおっ。なんだ、歩いて行けばいいのか」
「簡単に言ってくれちゃって、もぅ」
お初さんが呆れたように、ため息をつく。
「どういうこと?」
「魔帝の城までの道中、通らなければいけない四本の塔の上部、そこには何が見える?」
「上……部に は……んん? 全部に建物というか……街?」
「あれは都市。それぞれが〝シッテンノウ〟の治める領地なの」
「し、四天王!?」
「さっき、バンチヨは滑り台みたいって言ったけど、あれ、実は〝街道〟なんだよ。もんのすごく広いんだから。つまり、今、私達が見ているのは〝国〟ってわけ」
「……国……なのか」
「そう。ここは魔帝の統べる地── 〝カーグカーデン〟 ……それがこの土地、そしてあの国の名前」
「カーグカーデン……」
その名を聞いて、〝家具家電〟を連想するのは俺だけだろうか……。
「わかった? 魔帝へ辿り着く為には、五人の爵位を与えられた〝シッテンノウ〟を、全て倒さなければいけないってこと」
「え? 五人?」
「そう、五人。爵位の序列は治めている領地、その塔の高さと一致していて、上から順に〝公爵〟〝侯爵〟〝伯爵〟〝子爵〟〝男爵〟よ」
「四天王……なのに?」
「あれ? なんか違うわね……〝シッテンノウ〟だよ」
「 ん? 」
「 ん? 」
「し て ん の う でしょ?」
「I know. You know. 誰も彼もが〝知ってんknow〟──の〝シッテンノウ〟」
「………………」
「………………」
「それ、ただの有名人って意味じゃん!」
「そうだよ? なに怒ってんのさ」
俺は思い出す……。
女神様の仰っていた──〝同じ様な言葉でも意味合いが違ったりして、戸惑う事が在るかもしれません〟──と、いうお言葉を……。
なるほどぉ、こういうことかぁ。
「よし、わかった。これで誰も彼も俺も〝知ってんknow〟だ」
「よかったよかった」
「それで、お初さん」
「なにかな?」
「塔が四本で、それが〝公爵〟〝侯爵〟〝伯爵〟〝子爵〟の領地だとすると、〝男爵〟ってのはどこにいるんだ?」
「あ゛あ゛……、〝男爵〟ね゛……」
うわぁ……露骨に嫌そうな顔になったな……。絶対嫌いなんだろうな……。
「アイツは門番だから五爵の中で一人だけ、あの壁の外側に領地があるの」
「門番?」
「そう。あの地表の壁、手前に凹んでる部分に街があるでしょ」
「ある」
「あれが男爵領」
「門番……なんでしょ? ……その門はどこに?」
「あの凹んだ部分全体が門」
……………………。
「 全 体 が !? 」
「〝絶界門〟とか言ってたかな?」
いやいや、もしそうだとしたら、あの街並みと比べてみても……相当デカい門だぞ。どうやって開閉するんだ!?
しかし、それにしても……
「お初さん……親切に色々教えてくれて本当にありがとう」
「ん!」
「でも、そんなに詳しいってことは……あと、口振りから察するに……あの国に、行ったことあるんだよね……?」
「…………あるよ」
「魔帝の〝呪い〟とも言ってたし……」
「……あはは…………バンチヨってば、意外と鋭いんだね……そっか……それに、さっき少しだけ話しちゃったもんね……」
お初さんは、無言で彼の国を見つめている……。やがて──
「もう五年くらい前か……」
……そう、ポツリと呟いた。
そして、意を決したようにこちらへ『キュピッ』と足音をひとつ鳴らして向き直り──
「私は戦ったんだよ。〝伯爵〟〝子爵〟〝男爵〟の三人と。でも……その全員に倒されて、今のこんな姿になってしまったの」




