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スマホが命綱?バッテリー切れと共に沈黙した女

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

報告者:惑星メナリス第三調査隊 記録係 γ-47


観測地点 都市部通勤圏 電車内(混雑度:やや高)


観測時間 地球時間 午後4時13分



——本件、我々のデータベースに新たな興味深い現象を加えるに十分な価値がある。


観測対象は年齢推定20代後半の女性。乗車と同時に、彼女は座席を確保するとほぼ反射的にスマートフォンを起動した。そこからの集中力は、我々メナリス人が量子シミュレーションに没頭する時と同等、いやそれ以上であった。指先は流星のごとき速さで画面を叩き、弾き、滑らせる。その動作は「飛ぶ」「消す」「コンボ」といった不可解な連続に満ち、目的は一切不明。おそらく人類が「ゲーム」と呼ぶ擬似戦闘娯楽システムであろう。


だが、これにとどまらない。彼女は続けてSNSらしき通信アプリを立ち上げ、目まぐるしいスクロールを開始。数秒ごとに表情筋がわずかに動き、「いいね」や「既読」なる符号に過剰な反応を示していた。周囲の人間との会話はゼロ。完全に“外部脳=スマートフォン”の回路と直結していたのである。


——そして、事態は突如として訪れた。


画面がふっと暗転。遅れて表示されたメッセージは、《バッテリー残量がありません》。


——なるほど。だからこそ、彼女の指はあれほどまでに高速で動いていたのだろう。

“残り数パーセント”という見えないカウントダウンが、脳の報酬系を極端に刺激し、最後の瞬間まで情報を搾取しようと駆り立てていたのだ。

いわば「余命を悟った生命体の最期の全力疾走」に酷似した挙動である。


瞬間、彼女の瞳から光が消えた。


指は止まり、表情は凍り、身体全体が「処理落ち」したかのように微動だにしない。数秒間の沈黙の後、彼女はそのまま頭を垂れ、まるで操縦糸を切られた人形のごとく“スリープモード”へと移行した。


この滑らかなシャットダウン挙動は、我々の間で「生体バッテリー連携型依存症候群」と仮称されている。肉体の覚醒状態と、電子機器の稼働状態が密接に同期しているのではないか、という仮説を強力に補強する観測事例だ。


補足観測: – 彼女が目を覚ます条件は二つ推定できる。 ① 充電ケーブルを携えた同伴者=“救世主”による復旧措置。 ② 駅到着を知らせるアナウンス=“外部環境の強制再起動”。 どちらも彼女自身の意志ではなく、外的刺激による覚醒である点が重要だ。


さらに、このケースは示唆に富んでいる。地球人の一部は「オフライン状態」を、まるで社会的な“仮死”のように受け止めているのだ。SNSの未接続=社会的死。この論理構造は、彼らの文明が電子機器にいかに自我を委ねているかを如実に示している。


我々の文明・メナリスにおいても、神経リンクや補助記憶は日常的である。しかし、それを失っても生体そのものは停止しない。だがこの地球女性の観測例では、電子機器の沈黙と共に身体機能までもが「小休止」に陥った。まるで一体化の極致だ。


——結論。 彼女にとってスマートフォンとは、もはやツールではない。臓器である。


■観測メモ – スマホの寿命=活動時間 – 充電環境の有無=生存条件 – オフライン状態=軽度の社会的死


かつて我々がこの惑星に降り立ったとき、地球人の複雑さをそこまで予期してはいなかった。だが彼らは、自ら創り出した機械と感情を絡ませ、想像を超える依存体系を築き上げている。その姿は、未熟で危ういように見えながらも、同時に奇妙な美しさを持つ。


——バッテリー残量ひとつで沈黙する存在。 それでも、我々観測者は思うのだ。 「ちょっと面白い」と。


お読みいただき、ありがとうございました!

皆さんの周りにも、似たような“観察したくなる人”はいますか?

コメントや感想で教えていただけると、調査隊の記録に加えられるかもしれません……。


引き続き、地球人観察を一緒に楽しんでいただければ嬉しいです!

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