窓辺のマリオネット 【月夜譚No.338】
窓辺にマリオネットが座っている。
艶のある真っ赤な生地で仕立てられたドレスを身に纏い、腰まであるブロンドヘアが緩いウェーブを描く。白い肌は冷たそうなのに頬だけはピンクに染まり、エメラルド色の瞳が無表情に通りを見つめている。
今にも動き出しそうなそれがあるのは、この辺りでも有名な洋館だった。西洋風の白い洋館は昭和の時代からあるものらしいが、手入れが行き届いていてそれほど古さを感じさせない。
現在、ここには老夫婦が住んでいるという。このマリオネットは、きっとどちらかの趣味なのだろう。
とはいえ、一人で窓辺にいるのは、少し淋しそうに見える。どうせなら、他の人形や飾りも一緒に置いたら良いのに。
そんな風に思って彼女が窓を見上げていると、不意に強い風が吹いた。
その時、マリオネットの瞳が一瞬こちらを見たような気がした。目を擦ってもう一度見てみるが、マリオネットは普段と変わらず静かに座っている。
彼女は気のせいだろうと思うことにして、身を翻した。
その背をじっとマリオネットが見つめていることにも気づかずに――。